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夫は小さい(物理的に)

作者: 有梨束
掲載日:2026/05/18

私の夫は小さい、身長が。

140cmの夫は、ちゃんと成人済みである。


この世界では、成人しても背が少年ほどの男性はたまにいる。



それは、女神の祝福なのだ。

昔、女神に一生かけて一途に口説き続けた男がいて、老いるまで愛を示したところ、女神の方が根負けして受け入れたという逸話がある。


その男が口説き始めたのがまさに10歳ごろの少年の時であり、女神はそのことを懐かしんでいるため、背の小さい男が地上にも現れたとかなんとか。


つまり、病気でもなければ呪いでもなく、女神の気まぐれのようなものなのだ。


だから、最愛の夫ヴィセンテも、そのようなわけで身長が小さくて、最高に可愛いのである…!





「すーーーーーーー、はーーーーーーー」


私はいつものように夫を膝の上にのせて、後ろから抱きしめながら、そのうなじに自分の鼻を押し当て、今日も夫の匂いを嗅いでいる。


「ヴィセンテ…、大好きです…。すーーーーーーー」

「……ロリーヌ、もう満足したかい?」

「もうちょっと待ってください、今堪能しているので…っ!」

「僕も早く可愛い妻を可愛がりたいのだけれど」

「ゔはっ、なんでそんなに可愛いのにかっこいいんですか…、最高…」

「ロリーヌを愛しているからじゃない?」

「しゅきですぅぅぅ」


見た目は、どこかのお金持ちの御坊ちゃまなのに!

サスペンダーに半ズボンがよく似合うのに!

おめめきゅるきゅるの少年のようなのに!

髪サラサラのつやつやの天使の輪っかが、さらに少年みを増しているのに!

膝とか爪とかも小さくてキュートなのに!

腕も腹筋も筋肉がつきにくくて、それでも鍛えている可愛い一面ばかりなのに!



うちの夫は、これだからかっこいいんだ!!!



私の従兄も同じく背の小さい男の人だが、こんなにメロメロになったりしない。


ヴィセンテだけが、私をこれだけ掻き乱すのだ。


「一生、吸ってたい……」

「ロリーヌ、そろそろ仕事に行きたいのだけれど?」

「私を置いていかないでくださいぃ」


半べそかいている私の腕の中で、ヴィセンテは向きを変えた。

体を捻ってこちらを向くと、その小さい手が私の頬を掠めた。


「ロリーヌの元に早く帰りたいから、さっさと仕事を終わらせたいんだよ」

「…好きです」

「ああ、僕も好きだよ」


私のおでこに自分のおでこを当てると、ヴィセンテはくすっと笑った。


「私の可愛い奥さんは、いい子で待てるだろう?」


私も本気では言っていないとわかっているだろうに、ヴィセンテはまるで飼い犬を躾けるような口調で言うから、思わずきゅんきゅんしてしまった。


「うううっ、いい子に待ってますぅ」

「うん、いい子」

にっこり笑って、私の頭を撫でた。


朝からいくつ心臓があっても足りない。

女神様、こんなに可愛いヴィセンテをこの世に誕生させてくださってありがとうございます!


ヴィセンテは小さめの唇を私の唇に押し付けると、そのままもっちりほっぺで頬擦りした。


「続きは帰ってきてからね」


小悪魔のように微笑むと、私が惚けている間にひょいっと膝の上から降りていった。


わ、私がその頬に弱いとわかっていて、急所を狙ってくるなんて…!さすがに私の夫すぎる!


ただ食事のあとのデザート的にヴィセンテを堪能していただけなのに。


朝から、ヘロヘロだ。


使用人の温かい目も相変わらずだ。



いつだって見た目がこんなにも少年な夫の、手のひらの上なのだ。






「それで、奥方の熱烈アピールを躱して仕事場にやってきたのかい?」

「それはそうだろう、仕事だぞ」

「お前、仕事の鬼なんだから、たまには奥さんを優先してやれば?」


同僚であり、今は僕の補佐役のケビンに、心底嫌そ〜うな顔をされながら書類を渡される。

見た目が大人の男を部下にしているのは気分がいいので、僕はなかなかに性格が悪いと自覚がある。


ケビンはこう言うが、僕が仕事ばかりしていることに対してはあまり問題に感じていない。

だって、ロリーヌはそんな僕も含めて、僕のことが好きだとわかっているから。


帰ったらめいいっぱい甘やかす予定だし、朝もちゃんと聞き分けさせてきたから、今頃ロリーヌはロリーヌで家のことをやってくれているだろう。

それこそ、終わっていなければ、僕を独り占めできないからな。

必死になって頑張っているはずだ。




僕は、この見た目でいても困ったことはさほどない。

むしろ、女性からはよくモテる。


なんせ、一途に一生涯1人の女神を愛し抜いた男の象徴のような姿なのだ。

逸話に重ねて、自分もそんなふうに愛してもらいたいと夢みる女は多い。


その少年みを引き剥がしたとして、次に見られるのは身分の高さと手堅い職に就いていることだろう。


少年性ばかり見られて、同性にはやっかまれることは多々あった。

だから僕が仕事の鬼なのも、誰よりも仕事ができるようにと身につけてきた処世術のようなものだ。


おかげで、わざわざ小馬鹿にしてくる奴はいなくなった。


仕事ができる男は、同性からも正面切って文句は言えないものだ。

僕は仕事で実績を作れば作るほど、生きやすくなる。

だから、生涯仕事だけでもいいと思っていたのだけれど。



ロリーヌとはじめて会ったのは、お見合いだった。


跡継ぎは親戚の中から探せばいいと思っていたのに、親が無理やり持ってきた見合いだった。


初対面の僕のエスコートを受けたロリーヌは、「こんなに歩きやすいエスコートははじめてです」と感動していたのだ。


お世辞にしては下手すぎるし、小さいくせにという意味で言ったとしたらストレートすぎる。

ロリーヌは何か深く考えたわけではなく本音が零れただけだと、その顔に書いてあった。


普段、どんなエスコートを受けているんだと思った。

僕よりもずっと身長の高い男の方が、はるかに歩きやすいに決まっているのに。


真相はただただ彼女の兄がエスコートが下手くそだったというだけなのだが、僕が興味が湧くには十分だった。


貴族令嬢にしては素直すぎるけれど、取り繕えない不器用さは心地がよかった。



今だって、僕がエスコートする時は頬を染めて喜ぶのだ。

可愛いに決まっている。


夫婦になったからこそあんなにも気持ちをぶつけてくるが、手放しに、「かわいい!」「かっこいい!」「大好き!」と僕の全部を含めて言ってきたのは、後にも先にもロリーヌだけだろう。


だから、僕にとってもロリーヌは特別なのだ。




「そういえば、お前香水変えたか?」

「鼻がいいな。これは妻の香水だよ」

「???」

ケビンが首を捻るので、丁寧に説明を付け加えてやった。


「独占欲の強い男が、自分の女に自分の香水を振りかけておくようなものだよ」

「それはお前の奥さんが独占欲が強いって話か?」

「いいや、僕がつける方が彼女が喜ぶってだけの話さ」

何事もなかったように言いながら、書類の不備をチェックしていると、ケビンからは「うげえっ」と声がして、同じ部屋の中に男たちからは切なそうな視線が送られてきた。


「…お前、それ独身男に効き目バッチリだってわかっていて言っているだろう?」

「その前に彼女でもゲットするんだな」

「うるせえな!わかってるよっ!」

そうだそうだ!と野次が飛んでくるが、痛くも痒くもない。


ただ静かににっこり笑ってやると、勝手にううっと言葉を詰まらせていく。


ああ、今の笑顔を見せたら、ロリーヌは「顔がいいってわかってやってくるのずるい!好きです!」と言うんだろうなぁと思うと、作った笑みも自然なものに変わっていく。


軽口叩いてないで仕事に戻れと声を飛ばして、僕も仕事に集中していくのだった。





「ただいま」

「おかえりなさいぃぃぃぃ!」


いい子に待っていたロリーヌは、玄関まで来ると僕にぎゅーーーっと抱きついてきた。

ずっと足りなかったと言いたげで、愛おしい。

自分の半身でもいなくなってしまったかのような必死さが、僕の心を満たしていく。


それをよしよしするように、髪も肩も撫でた。


「いい子で待ってましたよぉ」

小さい僕に顔を埋めるために構わず膝をついてくるのだから、ロリーヌはすごいと思う。

他のお嬢さんでは、こうはいかないだろう。


「うん、ありがとう。おかげで帰るのが楽しみだったよ」

「ゔはっ、朝ぶりのヴィセンテ、威力しゅごい…」

溶けそうなロリーヌの首筋に屈んでキスを落とすと、「ひょえ」という声がして、くすくす笑ってしまう。


こんなに愛情表現豊かなのに、僕からされることにはちっとも慣れないんだから。


「…あれぇ?なんか、ヴィセンテの匂い、朝と違いますね?」

「わかる?」

ニヤリとしてみせると、ロリーヌは顔を上げて目をぱちぱちさせた。


いつも見下ろされるのも十分可愛いが、膝をついて見上げてくるロリーヌは一段とそそられる。


ロリーヌは、朝と同じようにものすごく僕の匂いを吸い込むと、首を傾げた。


「なんかこう、可愛らしさが相まって、危ない少年感が増し増しで、女神に連れて行かれそうな匂いがします」

真剣な顔で言うので、吹き出しそうになる。なんだそれは。


「わからない?これ、ロリーヌの香水だよ?」

「へ」

「僕は身も心もロリーヌのものって話。いいアピールでしょ?」

「へぇぇぇぇ…?」

締まりのない声が漏れていき、顔がみるみるうちに赤くなっていくのを見るのは楽しい。


やっぱり、こっちで正解だったな。


「さて、ずっと匂いがそばにいたからね。僕は今、ロリーヌが欲しくてたまらないんだ」

「え、あ、わ、それはっ」

「可愛い奥さんを堪能してもいいよね?」


僕が意地悪くそう言えば、ロリーヌはコクコクと首がもげそうなほど頷いた。


こういう時、ロリーヌより身長が大きかったらお姫様抱っこして連れて行けるのだろうけど、ロリーヌは僕にそんなことは求めない。


「立てる?」

「かっこよすぎて、腰が抜けました…」

「ふふっ、夜はこれからなのになぁ」

「もうちょっとだけ待ってくださいっ…」

「いくらでも待つよ、可愛い奥さん」


今日も今日とて、妻が夫を愛でていると思いきや、夫が甘やかに独占しているのだった。







お読みくださりありがとうございました!!  毎日投稿138日目。

(こういうのを合法おねショタと言うのかなぁ…?と疑問に思いながら書きましたとさ。)

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