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現代版 王舎城の悲劇…阿闍世の素顔(広島編)

作者: 徒然生成
掲載日:2025/11/24

✦現代版・王舎城の悲劇


― 阿闍世の素顔(広島編)


引きこもり・8050・失われた自信の世代に捧ぐ物語


---


■序章 平和を叫び続けた街で、忘れられたもの


広島は“平和都市”と呼ばれてきた。


原爆ドーム、宮島、サンフレッチェ、

広島カープ、お好み焼き──


観光も文化も揃い、

世界へ平和を訴えてきた街。


原爆第一世代は、

痛みを背負いながらも世界に平和を訴え、

ついにノーベル平和賞まで受賞した。


しかしその子どもである 原爆第二世代 は、

“天国のような平和”を子どもに夢見て育てた。


酒もうまいし、姉ちゃんは綺麗だ──


あの昭和フォークのような

「天国=幸せ」という幻想を信じて。


そして、その次の 原爆第三世代 は、

その天国教育の隙間で

静かに追い詰められていった。


広島は今、

日本一「転出が多い都市」になっている。


理由は誰も知らない。


しかし街の底には、

気づかれぬまま積み上がる“教育の罠”があった。


---


■第一章 13歳、心が折れる音


阿闍世あじゃせは広島生まれ。

いま38歳。家から出られない。


空気が重くなると妹は石を拾い、口に入れてしまう。

家はずっと緊張で満ちていた。


ある日、中学の部活の先輩に言われた。


「お前の妹はバカじゃ。

 お前も親も同じじゃ。

 だからバスケができんのじゃ!」


世界が一瞬で崩れ落ちた。


「俺が弱いのは…父さんのせいじゃ!」


ここが、

広島に広がる“平和の落ちこぼれ”の出発点だった。


心の傷を押し込み続け、

嘘と我慢で固めた感情は、

やがて一気に噴き出す。


仏教でいう 業異熟ごういじゅく

その火種が、このとき芽生えた。


---


■第二章 大学卒業、そして刃物


阿闍世は四年で卒業できず、

父・頻婆娑羅びんばしゃらが運転手となり

登校を支えた。


スーパーのアルバイトでは

年上のパート女性に叱責されると体が固まった。


「俺が悪いんじゃない。

 父さんが俺を潰したんじゃ。」


業異熟はついに爆ぜた。


阿闍世は父に刃物を向けた。

その瞬間、親子の立場は完全に逆転した。


以後25年、

阿闍世は家を支配し、

頻婆娑羅は“中学二年の息子”の前で震え続ける。


母・韋提希いだいけ

息子の怒りの根を理解しないまま、

夫だけを責め続けた。


「あんたが悪いから、あの子は苦しいんよ!」

「親は子供との約束を叶えなきゃいけんのよ!」


家では、

“生贄の儀式のような家族会議”が

当たり前になっていった。


---


■第三章 今年三月、母殺し寸前


恋が破れた。二股だった。


崩れた心は、怒りの出口を失い、

ついに母へ向かった。


韋提希の手首は折られ、

頻婆娑羅へ刃物が向けられた。


阿闍世の心は

母殺し=旃陀羅せんだら

─ ブラックホールの縁に立っていた。


---


■第四章 40年の教育虐待を生き抜いた旅人と、阿難


そんなある日、

家族の遠い親戚である“旅人”が広島を訪れた。


彼は自ら 40年の教育虐待を生き抜いた老人。

阿闍世の姿を見た瞬間、

胸の奥で何かが震えた。


「この家に必要なのは、裁く人じゃない。

 心を聴ける人じゃ。」


翌日、旅人は

阿闍世と同い年の青年僧 阿難あなん を連れてきた。


家に一歩入ると、阿難は静かに言った。


「……愛別離苦の濁流が25年。

 四苦八苦が、この家に溜まっています。」


---


■第五章 平和都市に潜む“天国の罠”


阿闍世と阿難は同い年。


だが “父の教え” はまったく違った。


◎阿難の父


競争ではなく“お浄土”を子に教えた。


「他人と比べるな。」

「南無阿弥陀仏だけで救いの船に乗れる。」


弱さを認める生き方を教えた。


◎阿闍世の父


自分が叶えられなかった“天国の夢”を、

そのまま息子に押しつけた。


■大学へ行けば幸せ

■勉強は義務

■努力しない者は救われない

■負けるな

■天国は勝ち残った者の楽園


しかしこれは浄土ではなく

“天国教育”であり、

阿弥陀の教えとは正反対だった。


広島には浄土真宗の門徒が多いのに、

浄土と天国の違いを知らないまま

わが子を追い詰めた家庭が少なくなかった。


そして、

阿闍世のように心の居場所を失う 若者が増えていった。


---


■第六章 広島という街の矛盾


広島は平和都市でありながら、


■8050

■引きこもり

■ニート

■精神疾患 DV

■行方不明者

■行政・医療の断絶


どれも増え続けていた。


相談窓口を回っても

「別の部署へ」「対象外です」。


父・頻婆娑羅は

広島市の元職員 、

定年まで勤め上げた。


彼は真面目な顔をして語る…


「行政は、どこもお役所仕事…

 ニートや 引きこもり、DVを

 相談する窓口なんて一つもない…」


韋提希も言う…


「どこに行っても

 警察に行けという。

 それは子供をチクると同じこと…

 私にはできません。」


表では広島カープを応援し、

地元民は宮島を誇り、

平和を語る。


しかし裏では

家族の苦しみを受け止める仕組みが

どこにもなかった。


67歳の旅人はつぶやいた。


「……湯加減だけは良い

 “茹でガエルの平和都市”かもしれん。」


そして今年、

本通りの家なき子

「広島太郎」が息を引き取った。


広島大学出身、

彼はマツダの御曹司だという噂もあった。


名前は知っていても、

太郎の人生を誰も知らない。


広島という街の“影”が、そこにあった。


---


■第七章 旅人、備前焼の街を歩く


(十年後の広島を見た気がした)


三連休、旅人は気分転換に

岡山県・備前市へ向かった。


備前焼とレンガの静かな町。

大リーグMVP・山本由伸の故郷でもある。


「せめて彼の父親にでも話ができたら…

 阿闍世に自信をつけさせることが

 できるのじゃが…」


しかし

尋ねてみて驚いた。


日曜日なのに喫茶店がない。

昼食処もない。

人通りもほとんどない。


80代の老人の車が、

赤信号を気づかずに通り過ぎていく。


旅人は思った。


「……十年後の広島の姿かもしれん。

 話がでけん、

 老人まで引きこもっとるわぃ!」


若者の姿が消えた街。

競争も活気もなく、

ただ静かに老いていく町。


その町の神社で、

旅人は備前焼の狛犬と目が合った。


割れた土肌が、

何かを語りかけているようだった。


「ここには天国はないが、

 備前焼という

 お浄土だけは残っているんだよ。」


---


■最終章 天国の夢か、浄土の風か


阿闍世の苦しみは続く。

阿難も旅人も、彼を魔法のようには救えない。


しかし阿難は静かに語った。


「天国は“勝者の夢”。

 お浄土は“落ちこぼれた者の帰る場所”。

 その違いを忘れないでください。」


その言葉は、家に染み込んだ。


25年間閉ざされていた何かが、

わずかに揺れた。


韋提希は胸の奥に、

言葉にならない“問い”が灯るのを感じた。


その光は弱い。

しかし、確かにそこにあった。


旅人は静かに告げた。


「広島が忘れたのは“平和”じゃない。

 “お浄土”なんよ。」


物語はここで終わる。

だが救いはここから始まる。


---


■エピローグ 隣の国と、失われた日本の“再教育”


韓国では、就職できない若者のために

“特殊部隊に入る塾”まで登場している。

心と体を鍛えることで自信を取り戻させるためだ。


日本にもかつて

戸塚ヨットスクールのような

“未病の若者を立て直す場”があったが、

社会批判によって消えてしまった。


いま日本には、

引きこもり再教育の場がどこにもない。


そんな中、備前のような

「何もない引きこもりの街」から

大リーグMVPが生まれている。


若者は弱くない。

ただ“生きる場所”を失っただけだ。


広島も変われる。

平和が“天国の夢”ではなく、

“浄土の風”として吹き始めれば…。


---


                             (完)

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