22話 新たな門出だ。
昨日はずっと泣いていたような気がする。今まで我慢してきた分、一晩中、涙を流した。いつもはルナを腕枕にしながら寝ていたが、昨日は逆に胸を借りて寝てしまった。そのせいで。
「隆史、目が真っ赤になっている」
俺の目は、りんごのように赤くなり、腫れてしまった。
泣き疲れてそのまま寝てしまったのがよくなかったのか、目を覚ますと、パンパンになっていた。
洗面台の鏡で確認すると、まあ酷い。泣ける映画を見たとしても、こんな風にはならないだろう。
「ほら、隆史。こっちを向いて」
ルナが濡らしたタオルで俺の目を拭ってくれる。
ひんやりとした感触が顔を覆い、腫れてじくじくと痛む瞳には気持ちがいい。
「…………」
今までに感じたことのない感覚。
ルナにこうやって世話になることは多くなってきたが、そのときには何も感じなかったのに、今はなんというか、照れくさいというか、恥ずかしいというか。
自分でもなんでこんな感情がわくのかわからない。
「……あ」
ルナの手からこぼれ落ちるタオル。
それを拾おうと彼女は屈み、しっかりと握られたタオルを、またこぼれ落とす。
「…………」
「……ルナ?」
今度は拾う仕草もしない。今はなにも掴んでいない手を、ルナはじっと眺める。
そのようすが少しおかしかった。まるで信じられないものを見ているような、驚愕に満ちたその表情。オッドアイの瞳を大きく見開かせ、ただただ自分の手をじっと見つめている。
「ルナ、大丈夫か?」
「……え?」
「いやだから、大丈夫かって」
「あ、うん。なんでもない」
よくわからないけど、とりあえずタオルは俺が拾い、洗濯籠に突っ込んでおく。
「隆史……よかったね」
「……? なにが?」
「ううん、なんでもない」
ルナのようすが少しおかしいのが引っかかるが、それよりもこの目をなんとかしないと。こんな状態のまま学校になんかに行ったら、紬にからかわれてしまう。
「その目は目立つから、もう一度タオルで拭った方がいい」
「そうだな。もう一回拭いてくれよ」
「……だめ。自分で拭かないと」
さっきは甲斐甲斐しく拭いてくれたのに、今度は自分でしろと言い出した。
「なに怒ってるんだよ」
「怒ってない。ちゃんと自分でやらないとだめだって言ってるの」
いや、明らかに怒ってるだろ、と突っ込みを入れたかったが、そんなことを言うと喧嘩になりそうなので、黙って言われた通りに自分で目を拭う。
「隆史、終わったらご飯を作ってほしい」
「うん、わかった。ちょっと待ってて」
ルナがさっさと洗面台から出ていく。
俺も早く朝食の準備をしないと。
家族として再出発し、父親の死を受け入れ、新たな門出だ。
これで四章は終わりです。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
もしよろしければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります。




