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8話 許せ、ルナ……っ!

 俺たちが向かったのは地元の繁華街。この町に住む人たちは買い物にしろ、遊びに行くにしろ、とりあえずここに向かう。


「とりあえず、適当にお店に入ろっか」


 莉子の言葉通り、俺たちは近くの店に入る。

 二人は俺を置いて、ワイワイと楽しそうに服を吟味していた。こうなってしまうと男の俺は暇だな。なにもすることがない。適当な椅子に座り、二人の買い物が終わるのを待った。


「た、た、隆史くーん!」


 莉子がいきなり血相を変えて、ルナを引き連れて俺に駆け寄ってくる。


「どうした?」

「る、る、る……ルナちゃんの頭に猫耳が付いてる!?」


 あ、しまった。服を買いに行くんだから。そりゃバレるよな……。


「だから私は猫なんだから当たり前だと言ってるだろ」

「え、え、え!? ね、猫なの!?」


 嘆息し、目を回しながら慌てる莉子を宥め、ルナが家に来た経緯を説明した。


「な、なるほどね……?」


 理解はしてないが、とりあえず納得してくれたようだ。


「じ、じゃあ……この猫耳も本物ってこと?」


 おもむろにルナの猫耳を触る。


「い、イタイ……」

「あ、ごめん! で、でも凄い……体温もあるし、感触が気持ちいい……」

「あ、あはははは! く、くすぐったい!」

「…………」

「くふふっふふ!! いや、ひゃはっ! や、やめ……あーっはっはっはっは!」


 ルナがどれだけ暴れ回ろうと、莉子は何かに取り憑かれたように猫耳を触り続ける。


「だははははあはは! た、たか、し止め……りこおおおあははははは!」

「莉子……そろそろやめてあげて」

「はっ!」


 なんかルナの猫耳を触り続けてしまうのが様式美みたいになってるな。

 猫耳をひたすらくすぐられたルナが横に倒れ、肩で息をしていた。よほど笑い疲れたのだろうか、全身をピクピクと痙攣させている。


「ご、ごめんルナちゃん。あまりにも気持ちよくて、つい……」

「い、いや……だ、だいじょ、ぶだ……」


 肩で息をしながらよろよろと立ち上がるその姿に、思わず嗜虐心が芽生えた。もしここで脇腹や背中を突こうものなら、彼女は笑い悶えるんじゃないか。

 人差し指で軽く背中を軽く突いてみた。


「ひゃああああああっ! な、なにをする!?」

「…………」


 まるでイナバウアーのように背中をのけ反らせる。その過剰な反応がさらに俺の嗜虐心をくすぐった。追撃するように背中をさらに何度も突く。


「ひゃはっ! ち、ちょっ……やめ、た、たかし……っ!」


 背中だけに留まらず、脇腹、首筋、お腹などありとあらゆるところを突いてみた。その度にルナは身体をくねらせ、笑い転げる。


「ち、ちょっと……た、隆史君、そろそろ止めてあげて……」

「…………」


 莉子の制止する声が聞こえたような気がしたが、今の俺にはその言葉が雑音にしかならなかった。


「ひひひひぬはははあはははだはははっ!」


 口の端から涎を垂らしながら笑い倒れそうになるルナ。しかし、俺の指が彼女を倒れることを許さない。右に身体が傾けば右手の指で突き、左に身体が傾けば左手の指で突き、ルナの身体はサンドバッグの様に左右に揺れる。

 許せ、ルナ……っ!

 八卦六十四掌……っ!!!! 

 千手観音を彷彿させる無数の指がルナの身体を貫く。俺の猛攻撃を受けた彼女は、膝を着き床に突っ伏した。


「だ、大丈夫、ルナちゃん!?」

「ふ……日向は木の葉にて最強……」

「最後の言葉はそれでいいか……?」


 な……っ!

 ユラユラと立ち上がるルナに驚愕してしまった。あの猛攻撃を受けて、まだ立ち上がるなんて信じられない。迫りくる彼女の拳。それが人生の最後かのようにゆっくりと見えた。


     ※ ※ ※


「ひょし、しゃっしゃとひゅくほひょほう!(よし、さっさと買いに行こう)」

「隆史君、顔面がボコボコだけど大丈夫……?」

「らいほうぶ(大丈夫)」

「自業自得だ」


 ルナの言う通りなので、なにも言い訳できない。それよりも、顔面が陥没して前が見えねぇ……。

 俺たちの様子を見ていた店員さんが、申し訳なさそうに近寄ってきた。


「あの、申し訳ありません。あまり、店内では騒がないで頂けると……」


 今頃気付いたが、俺たちはまだお店の中。こんなに騒いでたら店員さんに注意を受けるのも当たり前。俺たちは平謝りし、買い物に戻った。


「えっと、確か猫耳があるからパーカーとか帽子を中心としたコーディネートがいいんだっけ?」

「うん、よろしく頼むよ」


 それからルナの服や下着を買い込み、店を出た。


「莉子は隆史と同じ学校だったな」

「うん、そうだよ」

「私も学校に行きたいのだが、どうしたらいい?」

「絶対だめ!」


 今朝と同じように提案を却下した。

 なぜこうもこいつは学校に行きたがるのか。


「ルナちゃん学校に来たいんだ。私は大賛成だよ!」


 けど、否定する俺とは対照的に莉子は諸手を上げて賛成する。


「おいでおいで! ルナちゃんが来たらクラスが明るくなりそう!」


 おいでおいでって……そんな簡単に行けないだろ。


「制服とやらが欲しいのだが、どこに行けば貰える?」

「あ、制服なら私のあげるよ。着なくなったのがあるから」

「そうか、ありがとう」


 どんどん二人で話が進めるので、慌てて止めに入った。


「待て待て、試験とかあるだろ! そんな簡単にいかないって」

「隆史、大丈夫だ。私に策がある」


 どうせ碌でもない策なんだろうな。


「じゃあ、今から私の家に寄っておいで。制服あげるから」


 新しい友人と学校に行けるのが楽しみなのか、なぜか莉子は積極的にルナを学校に通わせようとしている。

 止めようと声をかけようとしたが、先頭して上機嫌で歩いて行ってしまった。

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