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18話 目の前の女性は

 向かったときはあんなに辛かった獣道も、帰り道はそんなに苦にはならなかった。体感にして行きよりも半分の時間で戻れた気がする。

 もうそろそろ夜の帳が下りる頃合いだ。

 空を覆いつくす夕焼けに暗闇が混じり、帰宅を促す音色が商店街に響いた。

 まるでさっきのことはなかったかのように、お互いに言及しない。俺の手を取るルナは、不自然なくらいにご機嫌になっていて、なるべく気まずい雰囲気にさせないように無理に明るく振る舞っている気がする。


「今日はなにを作る予定なんだ?」

「うーん、なににしようかな……まぐろ以外でなにか食べたいものでもあるか?」

「隆史の作る料理は美味しいからなんでもいい」


 それが一番困るんだけど……でも、料理が美味しいと言ってもらえるのは純粋に嬉しい。

 ルナがさっきのことをあえて話題に出さないなら、俺もそのことは話題にしないでおこう。そのほうがありがたいし、できればずっとこの関係を続けていきたい。


「……隆史?」


 背後から誰かに呼び止められた。振り返ると、中年くらいの女性が俺を見て、驚き固まっている。

 誰だろう……? もしかして知っている人なのかもしれない。けど、必死に記憶を辿るも該当する人物には思い当たらない。


「隆史の知り合いか?」

「いや、わからない。向こうは知ってるようだから、赤の他人ってわけじゃないと思うけど」


 ルナと小声で話し合う。

 相手の年齢的に小学生のとき、それとも中学生のときの先生か? 友達のお母さん……はありえないな。俺に莉子と紬、岡田以外の友人はいないし、彼女たちの母親ではない。


「隆史よね……? ああ、こんなに大きくなって……っ!」


 俺と会えたことがよほど嬉しいのか、見知らぬ女性は喜びを噛み締めている。

 目を凝らしてその女性を観察することで、ようやくそれが誰かわかった。

 記憶からは随分変わっていたが、所々面影を残した姿。


「かあ……さん?」


 目の前の女性は、俺を生んでくれ、幼少の頃に育ててくれた人だった。

これで三章は終わりです。


ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

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