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17話 デートの最後は……

「えへへ、可愛い……ぎゅぅ~……っ」


 ゲームセンターを出た後も、ルナはずっとぬいぐるみを抱きしめている。その熱い抱擁に、原型を失ってしまうぬいぐるみ。ペシャっと潰れたようすから、よほど嬉しかったことが窺えた。


「ん~……タカシ~……」

「呼んだ?」

「違う、ぬいぐるみのほうだ。この子の名前をタカシと名付けたんだ」

「やめてくれ……」


 自分の名前が付けられたぬいぐるみなんて、恥ずかしくて死んでしまいそうだ……。


「タカシ、お前はなんて可愛いんだ。これからは私のことをママと呼んでいいからな」

「…………」

「なになに、おっぱいが飲みたい? タカシは本当に甘えん坊だな」

「わざとだろ、わざとそんな変な会話してるだろ! 絶対タカシはそんなこと言ってない! こいつは気高くて孤高で正義感にあふれる立派な戦士なんだ! そんなおっぱいが飲みたいとか言ってない!」

「……隆史は黙ってて。タカシはおっぱいが大好きな甘えん坊で、私がいないとなにもできない赤ちゃんなんだから」

「やだぁ……タカシって呼ばないで~……」


 字面だとわかるが、言葉にされるともう訳が分からないから……まるで俺が赤ちゃんプレイしてるみたいでやだぁ……。


「それよりも、もうデートは満足したか? そろそろ遅い時間だし、行きたいところがないならご飯でも買って帰ろうか」


 太陽が沈み始め、空を埋め尽くす真っ赤な夕焼け。足元から伸びる影も長くなっていた。

 もう充分に遊び尽くした。これ以上は夜の帳が下り、辺りは真っ暗になるだろう。晩御飯の支度も遅くなってしまうし、俺としてはそろそろ帰りたいと思ったのだが。


「あと一つだけ、行きたい場所がある」


 なのに、ルナはまだ満足していないのか、まだまだ遊び足りないのか、行きたい場所があると言ってきた。


「まだあるのか。それは今度行こう、今日しかデートできないってことはないんだから」

「ううん、だめ。どうしても今日行きたい」


 俺をしっかり見据える瞳。そこに宿る決意や覚悟が、帰ろうと言い出せない雰囲気を醸し出している。


     ※ ※ ※


 向かった先は、人の手が一度も入ったことが無いと思われる森の中。獣道と思われる、木の根が地表にせり出され、デコボコした不確かな道を当てもなく進んでいく。夕陽の光が木々に遮られ、足元を照らす光はごく僅か。昼間ならまだしも、陽が落ちるこの時間帯に、こんな険しい道を歩くのは少し危険だ。


「おい、まだ進むのか? こんな場所に夜までいたら遭難しちゃうぞ」

「大丈夫、もう少しで着くから」


 目印が無いので、今自分がどこを歩いているか不確かだ。しかし、前を進む彼女はどこをどう歩いているのかわかっているのか、その足取りはしっかりしていた。


「本当にもう少しで着くのか? これ以上時間がかかるようだったら危ないし引き返すぞ」

「うん、私を信じてついてきて。もう少しで着くから」

「……それ、十分前にも聞いたから不安なんだけど」


 大丈夫、もう少しで着く。オウムのようにそれしか返してこないルナの言葉。

 焦燥感に駆られながら、前を歩く人物を信じて、その背中を目指しながら歩いていく。


「……もうそろそろだ」

「やっとか……」


 あれから歩き続けること三十分。もう少しで着くと言いながら、全然もう少しではないほど時間をかけて着いた先には、今までの覆い茂る木々が嘘のように無くなり、一瞬で視界が広がった。

 周りを覆っていた木々が無くなったことで、風が吹き抜け、歩き疲れた身体を癒してくれる。


「ここは……」

「私が猫の時によく来ていた場所だ。ここは私の一番のお気に入りで、どうしても隆史と来たかった」


 一心に前だけ向いて歩いていた彼女が、こちらに向き直る。


「隆史にどうしても伝えたいことがあった。とても大事なこと……」


 楽しかったデート。それを締めくくるのは、定番の告白。


「私は、このことはずっと隠していようと思った。けど、どうしても隆史には知ってもらいたい……」


 自分の秘めた思いを伝えるとっておきのシチュエーションなのかもしれない。


「隆史、聞いてほしい」


 けど、俺はその言葉を聞きたくなかった。それを知ってしまったら、今の関係が壊れてしまうから。


「……隆史」


 覚悟を決めた眼差しが俺の身体を貫く。その強い視線に、思わず身体が強張ったのがわかった。

 彼女は勇気を振り絞るように拳を固く握る。


「……ううん、やっぱりなんでもない」


 けど、その勇気は、自分の秘めた思いを伝えるにはちょっと足りなくて、あと少しのところで二の足を踏ませる。


「すまない。こんなところまで連れてきたのに、私には言う勇気が足りない」

「……大丈夫」

「でも、必ずちゃんと言うから。その時は、隆史も聞いてほしい」


 心臓が早鐘を打っているのがわかる。

 もし、あのままルナに告白されていたらどう答えていただろう。身内として見ていた人に思いを告げられて、俺はどう返せばよかったのだろう。

 振っていたのか、それとも受け入れていたのか。それは今やわからないこと。


「隆史、帰ろう。早く帰らないと遅くなってしまう」


 片手でぬいぐるみを抱きかかえながら、もう片方の手で俺の手を取った。よほど緊張していたのか、その手は微かに震えていた。

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