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8話 クッキー(2)

 一通りの用事が終わり、欠伸を噛み殺しながら階段を昇る。

 このあとは、なにしようかな。漫画を読むか、セクシー動画を見ながらオ〇ニーするか。時間を無駄に浪費できる寝る前の自由な時間が一番幸せな刻かもしれない。


「ふぁ~……て、こら」


 自室に戻ると、幸せな刻を奪おうとするやつがいた。ベッドに我が物顔で寝そべり、漫画に耽っている猫耳銀髪の少女。


「なんで勝手に入ってるんだよ。漫画を読むなら貸してやるから、自分の部屋で読めよ」

「うん、わかったわかった……」


 だめだこりゃ、完全に生返事。漫画に夢中で俺の話なんか右から左に聞き流してる。こうなってしまっては全然話なんか聞いてくれないので、漫画が読み終わるまで待たないと。

 せっかく楽しみにしていたオ〇ニーライフが無駄になってしまった。気持ちも息子も萎えてしまう。せめて漫画だけでも楽しもうとしたのに、読もうと思っていた漫画はルナが持っていた。

 今日は適当にネットサーフィンだな……。

 それからは特に会話することなく、ルナは漫画に熱中し、部屋にはページの捲る音と、俺のマウスを押す音だけが響いた。

 時間を見ると、もうそろそろ寝る時間。


「ルナ、俺はそろそろ寝るから。漫画、まだ読むなら部屋に持って行けよ」

「まだここで読みたい」

「そこで読まれたら俺が寝れないだろう。部屋に戻れって」

「私の隣で寝ればいいじゃないか」


 そう言って、ベッドの端に寄ってくれる……こともなく、いまだ真ん中に堂々と鎮座する。せめて横にずれてくれたりすれば寝やすいのに、そうベッドを占拠されると寝れないだろうが。

 仕方ないので、壁に背中をくっつけるようにして寝転がる。俺のベッドなのに、どうしてこんな窮屈な思いをして寝なければいけないのか。

 ちなみに、俺は正しい位置で寝ている。枕も置いてあるし、近くにはスマホを充電するケーブルも転がっている。なのに、目の前には細くて透き通るほど真っ白なしなやかな脚が見える。

 ルナが上下反対で寝ているからだ。逆に言ってしまえば、ルナの顔の近くには俺の脚がある。

 ショートパンツでは隠せない、柔らかそうな太もも。そしてその薄い布生地の下にある、丸みを帯びたお尻も目前に横たわっている。

 うーん、これが前の俺だったら、これをおかずにしていただろうが、今やルナは身内みたいなもの。そんな邪な気持ちになれない。正直、邪魔という感情しか湧かない。

 ……気のせいかな、お尻がどんどん大きくなっているような。

 いや、これは大きくなっているんじゃなくて、近付いてきているんだ。

 どんどん迫りくる美味しそうな桃、じゃなくてお尻。今や目と鼻の先にまで迫って来ていた。

 顔を少しでも動かせば、お尻の割れ目に鼻を埋めることができるほどの近さ。

 鬱陶しいので、押し返そうとお尻に触った。腕に力を込めようとしたとき、押し返してもいないのに、お尻が目の前から消えてしまう。

 いつの間にかルナがベッドから飛び降りていて、真っ赤な顔しながらお尻を抑えている。


「お……お尻……さ、触った!」

「え、うん。目の前にあるんだもん。邪魔だったから押しのけようとして触ったけど」

「お尻、触った! セクハラ、痴漢、変態!!」


 痴漢って……自分から近付けておいて、邪魔だから仕方なく触ったのに。これが世にいう冤罪ってやつですか。


「セクハラ、痴漢、変態!!」

「わかった、もう触らないから。早く寝ようぜ」

「隆史は触ったくせに、自責の念が足りない!」

「ごめんってー。早く寝かせてくれー」

「……これしてくれたら許す」


 持っている開きかけの漫画を見せてきた。そこには裸のカップルが、腕枕をしてあげているシーンが。て、これ事後じゃねえか、なんでこんな漫画俺の部屋にあるんだよ。

 面倒臭かったが、しないといつまでもうるさそうなので、仕方なく腕を伸ばしてあげる。


「はい、これでいいだろ」


 ルナがしずしずと俺の腕に頭を乗せる。腕に圧し掛かる重さに耐えつつ、ようやく眠れるという疲労感で、瞼を閉じようとしたとき。


「頭……な、撫でて……」


 更なる要求をしてきた。もう眠気で一杯だった俺は、早く寝たいがために言われるがまま頭を撫でてやる。

 梳くように上から下に頭を撫でてあげると、嬉しいのか猫耳がピコピコと小刻みに動いていた。

 ……そういえば、世間には猫吸いというものがあるらしい。それは麻薬のような中毒性があるらしく、例えるならお日様の匂いや、干したての洗濯物、焼きたてのパンの匂いがすると聞いた。

 目の前には人間の姿をしているが、元々は猫。もしかしたら猫と同じ匂いがするかもしれない。


「ふんふーん…………ひゃっ!」


 ルナの銀髪に顔を埋め、思いっきり吸い込んでみる。


「すうううぅぅぅ~」

「ぁぁ……た、隆史……?」


 うん、お日様の匂いなどはしないけど、いい匂いがする。女性特有の甘い匂いというか、ずっと嗅いでたくなる。


「すううぅぅ~、すううぅぅ~…………すうううぅぅぅ~!!」

「ふああぁぁ……」


 目の前の猫耳がより一層ピコピコと激しく動き始めた。その柔らかそうな耳、人間にはない猫特有の柔らかさが含んでそうな魅力に、思わずハムハムと甘噛みしたくなった。


「……ハム」

「ひゃあぁぁ……」


 甘噛みといっても歯を立てるわけではなく、唇で挟むだけ。

 うーん、柔らかくて気持ちがいい。


「ハムハム、ハムハム……ハムハムハムハム」

「んん……」


 やばい、気持ちよすぎてずっとハムハムしたくなってきた。このまま猫耳に埋もれて……。

 あまりの快楽にどんどん意識が混濁してきた。瞼が鉛のように重くなり、気付けば俺の意識は泥の中に入っていくような、奥深くに落ちていく。

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