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4話 勉強会

 ルナの小テストの点数が悪く、これはまずいと思った莉子たちがわざわざ勉強会を開いてくれた。元々猫だったので、彼女は勉強がわからない。中学生の問題すら少し怪しいというか……いや、これでも凄いと思う。まだ一年も経っていないことを考えると、小学生の問題が解けるようになっていることは驚異的な学習能力だと思う。

 けど、俺たちは高校生。小学生の問題が解けてもしょうがない。なので、勉強会を開いてくれたのだが。

 なぜか俺の部屋でやることに。

 あまり自室に人を招くのは好きではないので、気乗りしないが、ルナのためだここは我慢しよう。


「隆史ー、エロ本とかないのー?」


 ……ルナのためだ、ここは我慢しよう。


「昔の漫画とかアニメだったらベッドの下に隠すのが定番よねー」


 ……ルナのためだ……ここは我慢……。


「うーん、ないなー。あとは机の中とか、パソコンに保存されてるのかな」


 ……ルナのためだ……ここは……。


「我慢できるかー! 勝手に人の部屋を物色するな!!」


 好き勝手に人の部屋を漁る紬に突っ込んだ。

 莉子たちがやってきたのはいいんだが、人の部屋に入るなり、紬が宝探しとばかりにエロ本を探し始めた。


「まあまあ、健全な男子高校生ならあるのが普通じゃん。別にあたしは引かないって」

「引く引かないじゃなくて、勝手に漁るのはやめろ」


 莉子や岡田はいいとして、紬は目を光らせておかないといけないな。

 少し大きめの机を用意し、みんなが勉強道具を置き始めた。ちなみに俺も小テストの点数があまりよろしくなかったので、ルナと同じように勉強を教えてもらう羽目に。


「じゃあルナちゃんは、この中学生の問題からやってみようか。わからないところがあったら聞いてね」

「うん、わかった」

「隆史君は、どこがわからない?」

「うーん、ここがわからない」

「そこはね……」


 莉子が率先して教えてくれる。隣に座る彼女から、ふわりとしたいい匂いが鼻腔をくすぐり、その密着具合にすこしドキリとした。睫毛の長さがわかるほどの至近距離にドキマギしながら勉強を教えてもらう。


「ここがわからないのだが……」

「あ、ルナちゃん……私で、よかったら……教えますよ……」

「ありがとう、石田」

「岡田です……」


 岡田がルナを、莉子は俺に付きっきりで教えてくれる形になった。

 ……あ、しまった。計算ミスしてしまった。

 消しゴムを取ろうと手を伸ばしたとき、気を使ってくれて同じように消しゴムに手を伸ばしてくれていた莉子と手が当たった。少し触れただけなのに、彼女はまるで熱湯を触ったかのようにバッと手を放し、耳まで顔を真っ赤にしていた。


「あ、ごめん」

「う、ううん、こっちこそ……はい、消しゴム」


 ……気まずいな、できれば岡田に教えてもらいたかった。


「……隆史、ここがわからないのだが」

「え、俺じゃなくて岡田か莉子に聞けよ。俺より教えるの上手だから」

「……隆史だと、教えられないのか?」

「そうじゃないけど、勉強ができない人に聞くより、できる人に聞いた方がいいだろ」

「……わかった」

「ルナちゃん……どこが、わからない……ですか?」

「……ここ」


 なぜ一々俺に聞いてきたのか。せっかく岡田が気を利かせて教えてくれるのに、これじゃあ彼女の教え方に不満があるみたいに勘違いされるだろう。


「隆史君、ここ間違ってるよ」

「え、どれどれ?」

「ほら、ここ」


 俺の身体に、莉子がグイッと身を寄せてきた。彼女からは遠い場所にある問題を間違えたのだから仕方ないのだが、あまりの密着具合に、腕から伝わる莉子の柔らかい感触を意識せざるを得ない。


「……イデデデデッ!!」

「え、どうしたの急に!?」


 突然、脇腹をなにかに噛まれたかのように強烈な痛みが襲った。あまりの痛さに最初はムカデに噛まれたかと勘違いしたほどだ。けど、それはムカデなんかじゃなく、机の角を挟んで左隣に座るルナだった。なぜかしかめっ面になりながら、俺の脇腹を思いっきり抓っている。


「痛いってルナっ! なんでいきなり抓るんだよ!」

「隆史が私に勉強を教えてくれなかったから……」


 抓っている手を振り払ったが、あまりに思いっきり捻られたせいで、まだじんじんと脇腹が痛んでいる。


「だから俺よりも適任がいるんだから、そっちの方がいいだろうって」

「……そうだけど」


 俺がどれだけ説得しても、なにが不満なのかわからないが、ルナの表情は優れない。


「ルナっちは隆史に教えてもらいたいんでしょ。だったら教えてあげたらいいじゃん」

「紬、俺の話を聞いていたか? 勉強ができない人が教えるって、非効率なことないだろう」

「いいじゃん、それでも。楽しく勉強したほうが効率的だって」


 んー、それだけ言うなら仕方ない。俺じゃあまり役に立たないと思うけど、ルナに教えてやるか。


「どれがわからないんだ」

「ここ、ここがわからない」


 そんなニッコニコで指差さなくても……。

 解けなかった問題を凝視してみる。たぶん、莉子たちなら簡単に解けるであろう問題。しかし……。


「すまん、わからない。俺には難しい」


 中学生の問題すらわからなかった。

 がっくりと肩を落とすルナだったが、それでも諦めきれないのか、違う問題を指差した。


「……そうか。じゃあ、こっちの問題は?」

「……」


 えっと、わかりません。実に驚いた、今時の中学生はこんな難しい問題を解いているのか。さすが国別IQランキングで上位に入る国だ。こんな問題を小さいときから解いているんだな。

 中学生のときの記憶がすっぽり抜けてしまったのではと思うほど、俺の記憶にはこんな問題を習った覚えがない。


「ルナ、やっぱり俺じゃなくて違う人に教えてもらった方がいいかも」

「……うん、そうみたい……石田に教えてもらう」

「岡田です……」

「ルナっちが可哀想ー。せっかくルナっちが比較的簡単な問題を指差したのに、隆史が役立たずで教えられないなんて」


 なにが楽しいのか、紬は口の端を吊り上げ、怪しい笑みを浮かべていた。

 俺を挑発してるのか、それともただ楽しんでいるのか、よくわからないその笑みを無視して、引き続き莉子に勉強を教えてもらった。


「……イデデデデッ!」


 莉子が俺に身体を寄せるたびに訪れる痛み。それに耐えながら。

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