表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/107

25話 部屋から出てこないルナ

「おーい、ルナ。ご飯食べるかー?」


 うんともすんとも言わない扉の前で、俺は何度もノックを繰り返した。

 体育祭から三日ほど経った。よほど負けたのがショックだったのか、ルナは自室に引きこもってしまい、出てこなくなってしまった。一応、ご飯は扉の前に置いておけば、空になったお皿が扉の前に置かれているので、空腹の心配はないけど。


「ルナ―。元気出せよー」


 この三日ほど、何度も声をかけてみるが、ルナからの返答は一度もない。

 学校にも登校してこないことに、紬や莉子、岡田も心配していた。みんなは心配のあまり、家に来たいと言われたが、最初は断った。なぜなら、ルナはみんなの頑張りを報いるために必死に走ったのに、それに応えることができなかったから。みんなが来てしまうと、罪悪感でさらにルナを追い込んでしまう。

 が、紬たちの懇願に根負けした俺が、昨日みんなを連れてきてしまった。


『ルナちゃーん、出てきてー』

『負けたのはルナっちのせいじゃないよ。みんなが頑張った結果なんだから気にしなくていいよ!』

『グラウンドの、ことは……気にしなくて、いいですから……』


 みんなが声をかけたときは、扉の向こうでガタガタッと物音が聞こえた。

 それを聞いたときに、まずいな、と思った。みんなの心配はありがたいし、嬉しいのだが、これは余計に追い詰めてしまってる気がする。

 やはりルナにとって一番辛いのは、みんなの励ましの声だろう。そのあとは、みんなに断って帰ってもらった。もちろん、みんなの存在がルナにとっては辛いなんてことは言わず、今はそっとしておいてやってくれ、なんて誤魔化して。


「ルナ―、まぐろ買ってきたぞー」


 手に持っている、赤い刺身。こんなんで出てきたら苦労しないんだけどな……。

 扉の向こうからガタガタッと、物音がする。

 心揺れるんかい。

 そのとき、来訪者を知らせるチャイムが鳴った。


「はーい」


 まぐろを扉の前に置いて、玄関に向かった。階段を下りて、玄関の扉を開けると、そこにはキラキラとした、まるで自信を表しているかのように自己主張する金髪の女性。小鳥遊白鳥がいた。


「……白鳥か」

「ちょっとよろしいですか? ルナさんに用事があるんですの」

「……ああ、いいよ」


 白鳥を家に招き入れる。まるで自分の家であるかのように、闊歩しながら玄関を潜るさまは流石だな。


「ルナさんはどこにいらっしゃいます?」

「こっちだよ」


 階段を上がり、ルナの私室まで案内する。扉の前に置かれていた綺麗になった皿を片付け、顎で指し示した。

 ゆっくり頷いた白鳥が、扉の前で止まり、片手を上げた。すらりとした、細く綺麗な指が折り曲げられ、軽い拳の形を作る。そして、数回ノックをした。


「ルナさん、小鳥遊ですわ。学校に来られてないそうですわね」


 白鳥の声に、張り詰めた空気が扉の向こうからするのが伝わった。それは今までとは違う、物音一つ立てないようにしている緊迫した雰囲気。


「ルナさんに伝えたいことがあるんですの。体育祭は確かにわたくしが勝ちました。しかし、グラウンドの使用はソフトボール部と交代に使うことにしましたから」


 ダンッと、扉が壊れるじゃないかと思う勢いで、強固な門が初めて開いた。あまりにも凄まじい勢いで開いたものだから、扉が生みだした風が、ふわりと俺や白鳥の前髪を撫でた。


「ふざけるな……」


 そこには、怒りに震えるルナの姿があった。彼女は白鳥の言葉を聞いて、小刻みに震える手を押さえつけるかのように、拳を固く結び、わななく唇で静かに怒る。


「ふざけるな……そんな同情をするような、敗者を見下すようなまね、誰も頼んでいない……人をバカにするのも大概にしろっ!」

「誰も見下してなんかいませんわ」

「見下してる……私を憐れみ、煽るようなまねをして楽しいのか……っ!」

「……誤解しているようですわね」


 身体を畳むように、深々と頭を下げる。キラキラと光る金髪が、地面に落ち、ルナにつむじを向けたのだ。


「……申し訳ありません」

「…………」


 突然のことに動揺したのか、ルナは目を大きく見開き、全身を覆っていた怒りが霧散していく。


「……なんのまねだ?」

「その先は俺が説明するよ」

「隆史……一体どういうことなんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ