4話 初めてのご飯
ん、待てよ……恩返しならなんでもいいんだよな。じゃあ、こいつにご飯でも作ってもらうか。
「ルナはご飯作れるか?」
「作れないぞ」
自信満々に答えられた。逆になんだったら役に立つことができるのか問い質したい。
さっさとご飯作ってしまおう……。
「あれ、元々猫ってことは食べられないものとかあるよな?」
「たぶん、大丈夫だ」
なんてご都合主義設定なんだ……。
ハンバーグを三人分さっさと作り、机の上に置いた。
「ほら、ご飯できたから食べようぜ」
三人で席に着く。しかし、ルナは目の前のハンバーグをどうやって食べたらいいのか困惑していた。
「これはどうやって食べるんだ?」
「皿の横に置いてあるナイフとフォークで、ハンバーグを食べやすいように切り分けて食べるんだよ」
実際にハンバーグを切り分け、口に運んでお手本を見せてあげた。が、それでもルナにとっては難しかったようで、悪戦苦闘しながらハンバーグと戦っていた。
「……難しい。もう直接食べた方が早いだろ」
「こら、犬食いはお行儀が悪い」
ナイフとフォークで食べることを諦めたルナが、直接ハンバーグに齧ろうとして彼女の隣に座っていた希さんに怒られる。
「私は猫だ!」
「そういう風に食べることを犬食いっていうの」
「納得いかない……同じように食べてるのに、どうして犬になるんだ」
「ほら、ちゃんと持って」
「むぅ、難しい……」
ナイフとフォークを使って食べようと頑張るも、何度も肉を皿の上に落としてしまう。
「とりあえず今日はフォークを鷲掴みでもいいから、犬食いだけはやめよう」
上手持ちと言い、フォークの柄をグーで握ってハンバーグに突き刺すやり方を見せてあげる。
「ハンバーグは私が切り分けてあげるから、フォークで頑張って食べてみよ」
皿を手前に寄せ、希さんはルナのハンバーグを食べやすいように切り分けてあげる。
「わかった」
ルナは言葉には出さないが、表情は不平不満を垂れている。面倒くさそうにしながらも、俺が教えた通りにフォークを握り、ハンバーグを突き刺して口に運んだ。
「あ、美味しい! なんだこれは、隆史お前は天才だな!」
「大袈裟だな」
照れ隠しで苦笑してしまったが、そうやって褒められるのは嬉しかった。
「明日はルナちゃんの服でも買っておいで。いつまでも私の服じゃ可愛そうだから」
「でも、俺だと女性の服とかわからないんですけど」
「莉子ちゃんにお願いしてみたら?」
莉子か。彼女なら快く頼みを引き受けてくれそうだ。
「莉子とは誰だ?」
「友達だよ」
莉子とはクラスメイトであり、小中と同じ学校に通っていた幼馴染。明るく誰からも好かれる性格で、困った人がいたら率先して助けようとしてくれる彼女なら、ルナの服装も見繕ってくれるだろう。
「そういえば、こうやって隆史君と晩御飯を食べるのは久しぶりだね」
「いつも別々なのか?」
「そうね。私は仕事があるから夜遅くに帰ってきて、隆史君とはあまり生活時間が合わないの」
「……それは寂しいな」
「うん。隆史君にはいつも寂しくさせてごめんね」
希さんが俺に向かって、申し訳なさそうに眉を下げ笑った。
「もう子供じゃないんだし、寂しくないですよ」
「もう強がっちゃって」
それからもルナはハンバーグに舌鼓を打ち、絶賛の声を上げる。俺は久しく聞いてなかった家族の食卓に満足した。
「ごちそうさま。ルナちゃん、先にお風呂に入っておいで」
「フロとはなんだ?」
「お風呂知らないの?」
「ルナは猫だったって設定だから、なにも知らないんですよ」
「おい、設定とはなんだ」
というか、この会話に希さんはなにも思わないのか?
「……ちなみに希さんは人間なんですよね?」
「当たり前じゃない」
「で、親戚のルナは猫なんですよね」
「そうね」
「希さんが人間で、親戚のルナが猫っておかしくありません?」
「なにもおかしくないよ」
矛盾しまくってるけど。ルナが使った光の影響の凄さを思い知った。もう、なんでもありなんだな……。
「お風呂の使い方教えてあげるからこっちにおいで」
希さんがルナの手を引っ張り、お風呂に連れて行った。
俺は部屋にでも戻ろうかな。




