21話 頑張れ!
それからの一週間は、時間があるときは河川敷でひたすら練習した。岡田なんかは部活は休んでまで練習に打ち込んでくれ、莉子や紬も時間を割いて練習に明け暮れた。
ルナはなるべく負傷した足首を痛めないように、気を付けて日常生活を送り、河川敷で練習しているみんなの手伝いに励む。
そして、ついに体育祭前日。
家でルナにテーピングをしてあげ、包帯を変えてあげていた。
「明日はついに体育祭だな」
「……うん」
「不安か?」
「……うん。今までこんな経験をしたことがない。みんな、練習を必死に取り組んでくれた。みんなが私のワガママについてきてくれた。一人で戦ってきた自分に、みんなが力を貸してくれた。それなのに、それなのに負けるのは絶対に嫌だ。みんなの努力を、私が水の泡にしてしまうかもしれない。そう考えたら、不安や緊張で一杯だ」
緊張やプレッシャーがその小さい身体に圧し掛かり、ルナの身体が少し震えているような気がする。
一人で戦ってきたときには感じたことのない重圧。
今のルナは満足に戦うことができない。みんなに協力してもらって、舞台に立つことがやっと。
けど、そんな歯がゆい思いを堪え、足を引っ張る自分に力を貸してくれることに感謝した。
「莉子は、運動神経が悪いと言っていた。けれど、誰よりも練習をしてくれて、今では安心して走っているのを見ていられる。
岡田は部活動があるのにも関わらず、休んでまで練習に参加してくれた。
紬は、私を叱責してくれた。彼女のおかげで、私はみんなに頼ることができた。」
「みんな、時間をできるだけ作って協力してくれてたな」
「だからこそ、勝ちたい。これだけの練習を積み重ねてきたんだ、みんなの努力に報いたい」
「……ルナなら勝てるさ。明日は頑張れよ」
言った後に、しまったと思った。
ルナがどれだけ頑張ってきたのか、俺は知っている。頑張っている人に頑張れという言葉がどれだけ非情なものか。
それでも彼女は、百万ドルの笑顔を俺に向けてきた。
「うん、ありがとう」
まるで俺の言葉など、気にしていないという風に。むしろ、その言葉に感謝した。
けど、俺としては気まずくなってしまう。
走れないもどかしさに耐えながら、莉子にアドバイスを送り、動画などでバトンの渡し方を研究し、ルナなりに精一杯努力してきてるのに、無神経にも頑張れなんて言葉を言ってしまった。
「隆史、どうかしたか?」
「いや、頑張れって無責任なことを言って申し訳ないなって思って」
「なんだ、そんなことか。私は嬉しかったぞ」
「だって、ルナは頑張ってるじゃないか。そんなやつに頑張れって、どれだけ失礼なことか」
「ん、よくわからないが……隆史は、頑張っていないから頑張れって言ったわけじゃないんだろう。応援したくて言ってくれたんだろう? 私は隆史の言葉じゃなくて、その気持ちが嬉しくてお礼を言ったんだ」
「もちろん、応援したくて言ったんだよ」
「うん、ありがとう。だから、明日も頑張れって言ってくれ。隆史の応援の言葉が、私にとってなによりも励みになるし、力になる」
「もちろん、何度だって言ってやる」
「うん、何度でも言ってほしい。どんなときでも、隆史の声は聞こえるはずだから」
たかだか俺なんかの言葉にそんな力があるなんて思えないけど、嬉しそうにしているルナを見ると、何回だって言ってやりたくなる。




