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19話 一人で戦ってきた

 体育の授業が終わった後も、そのあとの休み時間もルナはみんなと話すことはなかった。紬は露骨にルナを視界に捉えないようにしてるのか、一切こっちに顔を剥けない。莉子や岡田はこの状況にどうしたらいいのかわからず、ルナに話しかければ紬と衝突しそうになる、紬と話せばルナと衝突するだろうと思ったのか、二人はオロオロするばかり。そして、助けを求めるように俺に視線を送る。

 俺はどう説得すればいいか悩んだ。授業もそっちのけで、ひたすらこの状況を打破しようと。

 ルナの気持ちはわかる。

 彼女はきっと、今まで一人で戦ってきたんだろう。それは俺も経験してきたことだから。

 家に初めて来たときの言葉を思い出す。


『え、と……それで、ルナちゃんは親御さんはどこにいるの?』

『親か、いないぞ』

『あ、それはごめんね』

『気にするな。親を見たことないし、なにも思わない』

『見たことないって、小さい時に亡くなったとか?』

『いや、捨てられた』


 親に捨てられた言った言葉。誰にも頼れず、今まで一人で戦ってきたんだと思う。

 だからこそルナにとって、戦うことは当たり前のことで、諦めるということは全てを失うということ。

 それが全てであり、それを否定することは、ルナの人生を否定しているように思える。

 戦うことを諦めろ、お前の生き方は間違っていたんだ。そんなこと、俺は言えない。

 彼女の意思を尊重してあげたい。

 けど、一人で戦うことが全てではないことを教えてあげたい。

 俺はチラシを生徒に配り、それを回収することを学校に言われたとき、一人でそれを行動に起こした。誰にも助けを求めず、一人でするのが当然だと思ったからだ。

 そんな俺をみんなは助けてくれた。

 あのとき、莉子と紬に聞いてみた。


『どうして拾うのを手伝ってくれたんだ?』

『困ってる友達を助けるのは当たり前だよ。隆史君だって、みぃちゃんを探すの手伝ってくれたじゃん。それと同じ』

『あたしは暇だったから。っていうのは冗談で、莉子と同じだよ。困ってる友達を助けるのは当然』

『困ってる友達を助けるのは当然……』

『隆史って、困ってる人は放っておけないくせに、自分が困ってるときは全然助けてって言わないよね』

『…………』

『隆史君は一人でなんとかできちゃうからね。それって素敵なことだけど、ちゃんと助けてって言えるのも素敵なことだと思うよ』

『……迷惑じゃないのか?』

『逆に助けてって言ってくれない方が迷惑。隆史みたいに黙っていられると、助けてあげたいのになにもしてあげられないから』


 そのとき、気付いたんだ。

 だから、ルナにも知ってほしい。みんなの優しさに。

 紬だって、ルナが嫌いで怒ったわけじゃない。ルナのためを思って怒ったんだ。

 そして、紬たちにも知ってほしい。

 ルナのことを。

 否定しないであげてほしい。一人で戦ってきたことを、諦めないことを。

 俺は方針を決めて、紬を説得しに向かった。

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