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12話 親睦会


「ルナちゃん岡田さん、今日はこの後なにかある?」


 白鳥との一悶着が終わり、下駄箱に向かうと紬と莉子が待っていた。


「特に何もないぞ」

「わ、私も……特に用事とかは、ないです……ちょうど、さっき無くなりました……」

「紬ちゃんと話して、この後リレーのメンバーで親睦会をしようって流れになったんだけど行こうよ!」

「私も、いいんですか……?」

「もちろん! 岡田っちはメンバーだから、いいに決まってるじゃん!」

「…………」


 さて、問題です。この流れは俺も行くべきでしょうか。それとも俺が行ってしまったら、変な流れになってしまうやつでしょうか。リレーのメンバーで親睦会という流れだから、ここで俺が参加したら、メンバーじゃないじゃんというように変な目で見られてしまうかもしれない。けど誘われたときに俺もいるわけで、俺だけ仲間外れにするのも考えにくい。

 うーん、これはどうしよう。ここで俺が「俺は誘われてるのかな?」なんて聞くなんて惨めだし、聞いたうえで誘われてなかったらもっと惨めなことになる。

 考えすぎだとは思うが、誰かフォローしてくれないかな。


「隆史も私たちと行くだろう?」


 ナイスフォローだ、ルナ! これなら行くか行かないかの決定権は俺に委ねられる! でもそれを聞くってことは俺やっぱり誘われてなかった!?


「え、隆史も来るの? 一応リレーメンバーの親睦会って名目なんだけどな」


 俺やっぱり誘われてなかったー! 自然な流れでついていかなくてよかったー!


「隆史が行かないなら私は行けない。それに隆史が来ないと困るんだ」

「え、なにが困るの?」

「……それは秘密だ。それよりも隆史が来ないなら私は行けない」

「わかったよ、隆史も来てもいいよ」

「もう紬ちゃん意地悪しない。最初から隆史君も誘ってたくせに」


 なんて陰湿な意地悪をするんだ、こいつは。

 みんなに聞こえないように、こそっとルナが俺に近付いてきた。


「隆史……そ、その……お金を貸してほしい」

「お前、お小遣いは?」

「……まぐろに全部使った」


 ……なるほど、俺がいないと困る理由がこれだったのね。


     ※ ※ ※


 五人でぞろぞろとどこかに行くのかと思えば、ただのファミレスだった。ま、学生がどこかに集まって楽しくワイワイやろうと思えば、ファミレスとかそういうコスパがいいところにはなるよね。

 なんて講釈を垂れてはいるが、実はファミレスに行ったことはない。希さんとは家でもたまにしか一緒にご飯を食べないのだ、ファミレスなんて行くわけがない。


「ルナっちはここに来たことはある? ここのファミレスはね、うちの生徒なら誰もが利用するんだよ」

「そうなのか、ファミレス自体初めてだ」

「え、そうなの!?」

「あの……実は、私も……こうやって知り合いと、ファミレスに来たの……初めてで……」

「岡田っちも!? た、隆史はファミレスに行ったことあるよね?」

「ないけど」

「…………」


 五人中、なんと三人がファミレスを利用したことがないという奇跡。岡田は友達と利用したことがないだけで、家族とは来たことがあるっぽいけど。


「あはは、じゃあ今日はみんなの記念日だね。ルナちゃんと隆史君は家族とも来たことがないみたいだし、わからなかったら聞いてね」


 莉子のフォローがありがたい。こういう気配りができる人がいると助かるな、どこかのツインテールと頭の出来が違うわ。

 中に入ると、店員ではなく、奇声をあげる甲高い声が迎えてくれた。そのあとに駆け回る子供の群れ、それを追いかけまわす親たち。ここは動物園かな?


「あはは、可愛いね。時間も時間だから、家族連れも多いのかな」


 凄い。あのサルみたいに駆けまわり甲高い奇声をあげる子供を見て可愛いという表現ができる莉子に脱帽だ。

 そのあとに店員さんがやってきて、席に案内してもらう。

 俺の隣にルナが座り、向かいの席に女子三人が座る。


「まぐろ、まぐろ。隆史、まぐろを頼んでくれ!」

「ルナちゃん、ここのファミレスにはまぐろどころか、お刺身がないんだよ」

「まぐろが無いのか!? なんて品揃えの悪い店だ!」

「しーっ! ルナっち声が大きい!!」


 まったく恥ずかしいことを大声で言うな。さて、俺も何を食べようか決めようかな。


「はい、隆史君。これで食べたいのをタッチして決めるんだよ」


 莉子がタブレットを渡してくれる。なるほど、これにメニューが載っているんだな。

 指でタッチしてタブレットを起動し、メニューに載っている商品を見て驚愕した。


「お、おい見ろよ、ルナ……この店めっちゃ高いぞ! なんて高いんだ、ボッタくりだろ!! 家で食べたらこの半分の値段で食べられ……がはっ!!」

「あんたも声が大きい。少し黙ってろ……」


 言い終える前に紬にグーパンで殴られていた。

 なんでだよ……至極当然の考えだろ。だって倍ですよ倍! サラダに五百円!! レタスとかトマトとかのサラダに五百円! しかもこれ見てみてくださいよ、レタスだけで三百円!! ここはドバイですか!?


「貸して、もうあたしがメニュー決めるから。とりあえずみんなドリンクバーにポテトでいいわね?」

「私はとりあえずそれでいいかな。岡田さんもそれで大丈夫そう?」

「は、はい……あ、この小エビのサラダも、あると……嬉しいです……」

「はいはいサラダね。無神経二人組もこれでいいよね」


 誰が無神経じゃ。


「うん。よくわからないから、紬たちにまかせた」

「俺もそれでいいよ……あ、待ってからあげも注文してくれ」

「はいはい、からあげね」


 紬が手際よくタブレットで注文してくれ、そのあと一斉にぞろぞろと立ち上がった。

 な、なんだ……なんで急に立ち上がるんだよ。


「あ、隆史君ルナちゃん、ドリンクバーはセルフだから、自分たちで取りに行かなきゃいけないの」

「ミルクはあるのか?」

「み……牛乳のことね。うーん、たぶん無いと思うな。ドリンクバーで牛乳があるとこって、あんまり見たことないかも」

「ミルクが無いのか!? なんて品……もがもがっ!!」


 慌てて俺がルナの口を塞いだ。さすがにこれ以上店の中で悪口を叫ぶのは居たたまれなくなってしまう。


「ミルクが無いのか……じゃあ、なんでもいい。隆史、私の分も適当に入れてきてくれ」


 がっくり項垂れてしまったルナを置いて、みんなでドリンクバーに向かった。多種多様な種類のジュースや紅茶などが入れられる機械が並び、コップを片手に持つ客がそれに吸い込まれるように並んでいる。

 一人、変わった客がいた。コップの三分の一くらいにジュースを注ぎ、また別のジュースを三分の一入れ、計三種類くらいのジュースを混ぜたグロテスクな調合品を作るツインテールの女性……紬だった。


「なにしてんだ、お前。そんなに混ぜてしまったら変な味になるだろう」

「んー、わかってないな隆史。こんなことできるのはドリンクバーだからこそ、こんなオリジナルジュースを作って楽しむのも醍醐味なんじゃない」


 そういうものなのか。それを聞いてもマネをしようとは思わないけど。だって見るからに不味そうなんだもん。

 俺は無難にコーラを注ぎ、ルナの分にはオレンジジュースを入れてやった。

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