11話 小鳥遊白鳥
HRが終わり、教室に吐き出されていく生徒たち。俺とルナもそれに続いて教室から出ると、今どきのアニメでも中々聞かない高笑いが聞こえてきた。
「おーほっほっほっほ! あなたが宇上ルナさんでして?」
「…………」
三人組の女子生徒が俺たちの前に現れた、うち二人は一組の陸上部で、体育の授業でルナにぼろ負けした二人だ。
そして、その二人の前に立つ、口元に手を当ててお上品に笑う女子生徒。金髪に勝気なつり目、これでもかというほどお嬢様キャラを詰め込まれた女子が俺たちの前に立ちはだかった。一つ残念なのが、髪をロールしていないところ、それさえあれば完璧なのに……。
「そうだが……」
「わたくしが誰かは言わなくてもわかるでしょ?」
「いや、だれだ」
「……そちらの男子生徒なら、わたくしが誰かはわかるでしょ?」
「ごめん、だれ?」
「……っ!」
いや、そんなに睨まれても困るというか。知らないものは知らないんだししょうがなくね。皆さまご存知のわたくしですって登場されても知らんわ。
「お前ら、この方を知らないとは失礼だぞ!」
後ろに控えてた取り巻きの陸上部が俺たちを怒鳴る。
「この方はな、この学校の陸上部のエースである小鳥遊白鳥さんだぞ!」
「おーほっほっほっほ! そう、わたくしが世界一速い小鳥遊白鳥ですわ!」
なんか、どっちも苗字みたいな名前だな。
「ふむ、隆史。私は知ってるぞ、あれは所謂ステレオキャラ、記号的キャラといったものだろ」
「すて……記号……キャラ……?」
白鳥が聞きなれない単語に首を傾げる。こんな濃ゆいキャラの前でもマイペースに話を進められ、会話の主導権を渡さないルナが凄い。
「む、それともあれか、ツンデレというものか」
「ツンデレじゃありませんわ!」
それは知ってるんだな。
「なに、ツンデレではないのか! それならツンしかないではないか。ふむ、隆史、私は知ってるぞ。それは所謂、更年期障害というやつだろ」
「ぬぁんですってぇぇぇええ!!」
火に油を注ぐとはこのことだな。ルナの発言に白鳥の目がどんどんつり上がり、背中から炎が燃え盛っているのが見える。
「ルナさん……あなた、そうとう足が速いらしいですわね。こちらの陸上部二人を、偶然にも!勝ったとか。ということは、もちろん体育祭もリレーに出場するんでしょう?」
「うん、リレーに出場する予定だ」
「それならわたくしの三組と勝負しません? わたくしもリレーに出場予定ですの」
「別に大丈夫だ。私が勝つからな」
「ち、ちょっと待て! いくらルナが速くても、そっちは陸上部が出るんだろ、明らかにこっちが不利じゃないか!」
「大丈夫ですわ。わたくしのクラスには陸上部はわたくし一人ですから、所謂ハンデというやつですわ」
「別に私は四人全員陸上部でも構わないぞ。それでも勝ってしまうからな」
二人の視線が交差し、バチバチと火花が散る。
リレーのメンバーを抜きにしてどんどん話が進んでいく。
「あの……ごめんなさい……そこ通してください」
「あ、ごめんごめん」
どうやら廊下で騒いでたせいで、他の生徒の通行の邪魔をしていたらしい。石田……じゃなくて、岡田が俺の背中で立ち往生していた。脇に避けてあげると少し頭を下げて、通り過ぎていく。のを、白鳥が呼び止めた。
「あら、岡田さん。今から部活ですか? 悪いんですけど、今日のグラウンドは陸上部が使用するので、ソフトボール部は別で練習してくださいます?」
「え……そんな……昨日だって、陸上部が……使って……」
「弱小のソフトボール部より期待されている陸上部が使うのは当たり前だろ!」
「そ、そんな……こう、毎日だと……私たち、練習できない……」
可哀想に。HRのときに言ってたグラウンドを取られるというのはこういうことだったのか。確かに陸上部は強豪かもしれないが、それでも同じ部活動なんだから、なんどもなんどもグラウンドを横取りされるのはひどいな。
「……さっき、お話聞いてました……リレーで、勝負するんですよね? それなら、私たちが勝ったら……これからは、グラウンドの使用は……ちゃんと交互に使えるように……」
「はは、素人が陸上部に勝てるとでも!? 小鳥遊さん、この勝負受けましょうよ」
「いいですわよ。その賭け、受け入れますわ」
「……いいんですか?」
まさか、ほんとうに勝負を受け入れてくれるとは思わなかったのか、岡田が驚きに大きく目を見開く。
「もちろん、そのままの条件ならわたくしたちになんのメリットがありません。なので、そちらが負けたらグラウンドの使用は今まで以上に陸上部が使えるように、というのが条件ですわ」
「そんな……これ以上、グラウンドが使えないなんて……週に一日とかになっちゃうじゃないですか……」
「石田、構わない。私が絶対に勝たせてみせる」
「ルナさん……岡田です……」
「なら決まりですわね。精々首を洗って待ってるといいですわ。おーほっほっほっほ!」
来たときと同じように高笑いをしながら、取り巻きを引き連れて去っていく。
「……お前な、莉子や紬に相談なく勝負なんか引き受けるなよ」
「む、ならあのまま見過ごせというのか。苦汁を飲まされているのは石田だ、そんな困っている人を放っておけというのか」
「あの宇上君……条件を出したのは、私だから……ルナさんは責めないで……あと、岡田です……」
そう言われると困ったな。確かにあのままだとずっとグラウンドは横取りされたままだ。それを助けたいと思ったルナの気持ちも汲んでやりたい。
しかし困った。これは俺はなにもすることがないな。ただ応援することしかできないぞ。




