10話 体育祭、競技決め
「今日は来月に迫った体育祭の種目を決めたいと思います」
HRの時間。クラス委員長の莉子が教卓に立ち、誰がどの体育祭の種目をするかを決めるため進行をしていた。
「隆史、体育祭とはなんだ」
ちょんちょんと、隣に座るルナが俺の腕を軽くつつき訪ねてきた。
「体育的な集団活動を通して、心身ともに健全な生活の実践に必要な習慣や態度を育成する。さらに、生徒が運動に親しみ、楽しさを味わえるようにするとともに体力の向上を図るイベントかな」
「……?」
なんと、俺がこんなにも懇切丁寧に説明してあげたのにいまいちピンと来ていない! これ以上ない体育祭の説明であろう! なんたってネットで調べて、それをそのまま言ってあげたんだから!
「クラスごとに紅組白組で別れて、色んな競技で勝負したり応援して、最終的に得点が多かった組が優勝するお祭り的なイベントかな!」
フォローするように莉子がルナに説明してくれた。
「なるほど、つまり全員倒せばいいんだな」
「脳筋的な発想だが、つまりそういうことだ」
「それじゃあ私は全部の種目に出るぞ。莉子、その黒板に書かれてる種目に全部私の名前を足してくれ」
「あはは……それは無理なんだよねルナちゃん。一人一種目しか出れないから、どれか一つ選んでね」
「一つしか出れないのか……」
ルナががっくり肩を落とす。それに意見をするかのようにツインテールの女子が手を挙げた。
「はい! ルナっちは足が速いんだから、やっぱり花形のリレーとかいいんじゃないかな!」
「うん、それでいいぞ。私が優勝に導いてやる。メンバーも誰でもいい、私が勝たせるんだから」
凄い自信だな。まあ、あれだけぶっちぎりに速かったら、誰もがルナをリレーに推したくなるのはわかる。
「メンバーは……隆史は決定として……」
「ルナちゃん、リレーは男女別だから隆史君とは一緒に走れないんだよ」
「む、そうなのか。じゃあ、誰にしようか……」
「はいはい! あたしがやりたーい!!」
またもやツインテールの女子が手を挙げた。紬もまあ足が速かったし、リレーのメンバーに相応しい気がする。
「リレーのメンバーは四人までだから、あと二人だね」
「なにを言ってるんだ莉子。莉子もメンバーの一人なんだから。残りは一人だけだ」
「……わ、私!?」
まさか自分が指名されるとは思わなかったのか、心臓が飛び出そうなくらいに驚き身体をぴょんと浮かせた。
「私は無理無理! 運動音痴だし、足も速くないから!」
「関係ない。どれだけ足が遅かろうが、私が勝たせるんだから。安心して泥船に乗ったつもりでいてくれ」
大船な。古典的なギャグをしないでくれ。
ルナに押し切られる形で莉子もメンバー入りをしてしまった。残りはあと一人。
「もう隆史が女装すればいいんじゃない?」
「紬、いいアイデアだ。隆史が女装すればいいんだ」
「……うん。隆史君が女装すれば解決だね」
「おおい!? なんで莉子まで賛同してるんだよ! 明らかに無理があるだろ!」
メンバーに選ばれたショックで莉子がおかしくなってしまった!
俺たちのバカ話をよそに、おずおずと手を挙げる女子生徒がいた。たしか名前は石田だったような気が……すまん、クラスメイトの名前を殆ど覚えていないんだ。
「あ、岡田さん……なにか意見でもある?」
しかも名前間違えてた。石田じゃなくて岡田でした。
岡田は眉の上で水平線に揃えられた前髪が印象的な女子だ。比較的大人しい性格で、あまり話したことはなかったのだが……いや、声を聞くのも今が初めてかもしれない。それくらい接点がない女子だ。
「あ、あの……私でよかったらリレーに参加したいですけど……」
「うん、いいぞ。たしか石田だったな、泥船に乗ったつもりでいてくれ」
「岡田です……あと、大船……」
消極的なイメージのある岡田が立候補するとは珍しい。俺と同じように目立つことが苦手な印象があったので、こういった花形の種目には出たがらないと思っていた。
「岡田っちが立候補するなんて思わなかった」
紬も俺と同じ意見だったのか、岡田の立候補に意外そうに驚いた。
「あの……だめでしたか……?」
「だめじゃないんだけど、岡田っちにしては珍しいなって思って」
「私、ソフトボール部なんですけど……いつも、陸上部にグラウンドを取られてて……たぶん、リレーとか陸上部が出てくると思うんです……せめて、こういうときくらい……勝ちたくて」
「まかせろ。私が石田の今までの雪辱を晴らしてやる」
「岡田です……」
ルナはさっさと名前を覚えてやれ。
そのあとは、特に揉めることなくクラスメイトの種目が決まっていき、俺は綱引きを選んでおいた。これが一番目立たずに済むと思ったからだ。




