27話 新たな一週間
休日を挟んだ月曜日。莉子のことが心配だった。
果たして莉子は立ち直ることができたのだろうか。
家族が亡くなったのだ。それは耐え難い辛さである。一日二日でその辛さや悲しみが癒えるとは思えない。
学校に来ることができるのか、今もなお彼女は枕を濡らしているのか。
「莉子が心配か?」
考えていることが伝わったのか、隣で一緒に通学路を辿るルナが話しかけてきた。
「そりゃ心配だよ。家族が亡くなったんだ」
「大丈夫。莉子は弱くない、彼女なら立ち直れる」
まだ知り合って日が浅いルナが、莉子のなにを知っているというのか。甚だ疑問だが、それでもルナにはなにか確信めいた予感があるのか、その言葉には信じて疑わないものを感じさせられた。
そして、その予感は当たっていた。
「あ、おはよー!」
校門の前で待っていた莉子が、俺たちを見つけるや否や大きく手を振って駆け寄って来る。
「今日から一週間また学校だね。ルナちゃんは学校慣れた?」
「少し慣れたかな」
「そっか! 勉強とかわからないことあったらなんでも聞いてね!」
「ありがとう」
先週と変わらない、むしろ明るいくらいの莉子がそこにはいた。
……どうして、どうしてそんなに明るくできるんだ。
まるで信じらない出来事に、俺は驚きを隠せないでいた。家族が亡くなったのに、どうしてそこまで明るくできるのか。
「……莉子は悲しくないのか?」
つい不躾な質問をしてしまった。せっかく莉子が立ち直ろうとしているのに、それを否定するかのような質問。それでも俺は聞かずにはいられない。
「もちろん悲しいよ」
そんな質問に対して、莉子は笑顔で答えてくれる。
「でもね、ずっと泣いてたらミィちゃんが心配しちゃうから。ミィちゃんが安心していられるように、私は明るく過ごそうって決めたの」
「……」
「莉子が笑っていると、彼女も安心するだろう。彼女のことは忘れないであげてくれ。誰からも忘れられ、誰からの記憶にも残らなくなったときが、本当に亡くなったときなんだ」
「もちろん、ミィちゃんのことは一生忘れないよ」
なんて強いんだ……。
悲しくて辛いだろうに、それを微塵も感じさせないその強さに脱帽してしまう。
「あ、紬ちゃーん! じゃあ、私は先に行ってるね!」
紬を見かけた莉子が、また大きく手を振りながらその場を離れて行った。
心配している俺たちを安心させるために、わざわざ校門で待っていてくれた。自分のことよりも俺たちを気遣って。
「…………」
「ほら、言っただろう。莉子なら心配ないって」
ルナの言った通りだ。少し無理をしているところはあったが、それでも莉子は明るく振る舞っていた。それは誰にでもできることではない、彼女が強いからこそできる芸当。
「莉子は強い。まだ完全には立ち直れてはいないが、それでも彼女なら立ち直れるさ」
「……そうだな」
校舎に吸い込まれていく生徒たち。俺たちもそれに続くように学校に向かった。
また新たな一週間が始まる。
これで一章は終わりです。
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