25話 罰は一人で
職員室でお小言を貰ってしまった。もちろん無許可で校内活動とは無関係のチラシ配りについてのお説教。担任の先生が俺をガミガミと口うるさく、耳からタコができるんじゃないかと思うほど、唾を飛ばしまくってくる。
莉子が助け舟を出してくれたのは本当に助かった。
「隆史君は私のためにやってくれたんです」
そう言ってくれたおかげで、無許可でチラシ配りをしたことは許されないことだが、友達を思っての行動ということで情状酌量の余地あり、比較的軽めの処分で済んだ。トイレ掃除とその他の罰を言い渡される。
「……はあ」
ようやくお説教から解放され、職員室を後にすることができた。
長かった……あの女性教師、よくもまあこれだけ長く説教ができるもんだな。むしろ感心してしまう。同じ言葉をなんどもなんども、ネチネチ言いすぎて途中チネチネになってたぞ。もうほとんど暴言だろ。
職員室に入ってから三十分近くも経ってる。
「隆史君、本当にごめんね」
職員室の外でずっと待っていてくれたのか、先に帰らされていた莉子が俺を迎えてくれる。
「莉子は悪くないだろ。俺が勝手にやったことなんだから」
「……ううん、私が昨日ちゃんと連絡していれば」
「昨日は全員が相当疲れていたからな。見つかった安心感でそのまま寝ちゃっても仕方がない」
現にルナは速攻寝ていたし。
「どんな罰を言われたの?」
「トイレ掃除だって」
「私も手伝うよ!」
「……男子トイレだぞ」
「……頑張るよ!」
「頑張るな」
男女で男子トイレに入ったらそれはそれで別の処分が出される。
それから休み時間のたびにトイレ掃除に出かけた。一つのトイレだけでなく、学校中のトイレ掃除を言い渡されたのだ。
お昼休みになっても、俺は変わらず教室から出て罰をこなしていく。
「隆史、ご飯は食べないのか?」
「ああ、うん。食べてる暇がないから食べててくれ」
ルナにお弁当を渡し、一人で教室から出て行った。
※ ※ ※
ちなみに、罰であるトイレ掃除はもう終わっている。俺がやってるのはもう一つの罰。今朝配ったチラシを片付けること。校内のいたるところに捨てられた自作したチラシ。配ったはいいが、無残にも捨てられていたのだ。それを残さず片すようにするのが最後に残った罰。
おー、おー。こんなところにも捨てられてら。
粗方校内に捨てられたチラシを拾い、今度はグラウンドに捨てられたのを拾うため校庭に出る。花壇の中に丸められた紙、窓から紙ヒコーキにして飛ばしたと思われる折り目がつけられたもの。
あー、木の上に引っかかってるのもあるや……。
たぶん、紙ヒコーキにしてどっちがより遠くに飛ばせるか競走したんだろうな。木の上にはいくつかの紙ヒコーキが刺さっている。
これはよじ登って取りに行くしかないな。
覚悟を決めて木に手をかけようとした瞬間、どこかの女子生徒が凄い勢いで木に駆け登っていった。
す、凄い……パンツめっちゃ見えてるけど……。
銀髪の猫耳を着けた女子生徒、つまりルナだったんだが、スカートも気にせず木に登りあっという間に紙ヒコーキを取り除いてく。
「こっちにも落ちてるよー」
「あー、これなんかぐっしょぐしょに濡れてる、汚いなー」
背後から聞こえた声に、耳を引っ張られるように振り返ると、莉子と紬が片手に汚れたチラシの束を持ち、地面に落ちてある紙を拾い集めていた。その拾い集めた量を見ると、昼休み中、ご飯も食べずに拾っていたことが予想できた。
「……なんで知ってるんだ」
捨てられたチラシを拾うように言われてたことは内緒にしていた。チラシを配ったことは俺が勝手にやったことだし、その罰を受けるのは俺一人でいいと思っていた。
「先生に聞いたの。水臭いよ、隆史君。この罰は、私の罰でもあるんだから」
「あたしも朝に手伝うって言ったんだから、そりゃ手伝うよ」
笑顔で手伝ってくれる莉子と紬。そして、木の上で紙ヒコーキを集めてくれてるルナ。
「……ありがとう」
みんなの好意が嬉しかった。そんなみんなの親切に素直にお礼を言えればよかったのだが、照れくさくてぶっきらぼうに言ってしまう。
そうか、これが協力するっていうことなのか。
今まで一人で過ごしてきた俺にとっては、恥ずかしくてこそばゆい、そわそわと落ち着かない感覚に陥るが、嫌悪感はなくなんとも言えない感覚だった。
「……隆史」
頭上から聞こえる声。もちろん、ルナにも感謝してるよ。
「ルナもありがとうな」
「……うん」
「ほら、もう降りて来いよ」
「……降りられない」
「……え?」
「怖くて、降りられない」
ズコーッ!
思わずズッコケてしまう。
木の上に登ったはいいが、意外と高いことに登ったあとに気付いたみたいで、木の枝を足場に彼女は震えていた。
「今、はしご持って来てやるから!」
ちなみにルナのいる位置は、高さ三メートルくらい。飛び降りるには少々危険かもしれない。慌てて体育用具からはしごを持って来て設置してあげる。
枝にはしごを引っ掛け、紬と莉子が動かないように支える。俺は万一に備えて、落下したときに受け止められるようルナの下で待ち構える。
ルナが恐る恐るはしごに足を掛け、ゆっくりと慎重に降りてくる。
「よかったー」
地面に足が触れると同時に、莉子がルナを抱きしめた。
登ったはいいが降りられなくなるなんて猫っぽいな。
「あ、あそこにも捨てられてる。紬ちゃん、行こ行こ!」
「さっさと拾ってご飯食べよう。あたしお腹空いちゃった」
「木の上にあったら私を頼ってくれ。登って拾ってくるから」
「ルナはもう登るな」
みんなで協力してチラシを拾ってくれたおかげで、なんとかご飯を食べる時間を確保しつつ、昼休みの間に拾い集めることができた。




