20話 耳かきです
「だ、だから……疲れてないと……言っただろう……」
「そうね。想像以上だったわ」
他に気持ちよくさせる方法とかないかな?
そのとき、雷に撃たれたような衝撃が脳に走った。これが神のお示しなのか、神の啓示を受けたように、スッと脳裏によぎる。そうすることが運命というように、定められた宿命のように思えた。ムハンマドが神から啓示を受けたときは、もしかしたらこういう感じだったのかもしれない。
俺が思い付いたのは、耳かき。
耳には迷走神経というものがあるらしく、そこを刺激されるから気持ちがいいらしい。そして、それは女性器にもあるらしく、言ってしまえば耳かきは性行為なのだ。
ちなみにこれは神からの啓示なので、にわか知識である。なのでこの知識が間違っていても、それは神が間違っていたということなのであしからず。
「ルナ、耳かきしてやるよ」
「……う、うん?」
彼女の隣に座り、ここに頭を乗せるようにと太ももを叩く。なにかを怪しむように、訝しげな視線をぶつけてきた。
「……い、いや……いい……」
先程の肩もみのせいだろう。また変なことをされるのではと警戒していた。少し後ずさりし、すぐにでも逃げられるように体重を背中に乗せている。
「耳かきしたいの!」
「…………」
ずいっと身を乗り出し、逃がさないように手首を掴んだ。俺のあまりの気迫に目を剥き、逃げられないと悟ったのか諦めたように従う。
「わ、わかった」
「ほらほら、早く頭を乗せて」
おずおずと慎重に俺の太ももへ頭を乗せ始める。ルナが俺に身を任せ、足から伝わる彼女の体温や体重がくすぐったい。耳が見えやすいように、横向きになって寝転がる。
あれ、そういえば猫耳を耳かきすればいいのかな? 人間の耳って付いてるの?
人間の耳がある部分を、さらさらの銀髪をかきわけ探すと、そこにはちゃんと人間の耳が付いていた。猫耳を耳かきしたことがないので、とりあえずこっちのほうを愛撫……もとい掃除することに。
ルナの耳に触れると柔らかい感触が指に伝わる。
「……んっ」
くすぐったいのか、少し声を漏らし微かに身体を動かした。それでもそれ以降は抵抗らしい抵抗はなく、俺に身を任せてくれる。机の上にある綿棒を掴み、耳に軽く当てた。
いきなり耳の奥に綿棒を突っ込まず、まずは耳の周りを綿棒で軽くなぞるように当てる。
「……ん、く」
「痛いか?」
「……大丈夫」
緊張しているのか、ルナの身体は強張っていた。全身に力が入ってるのが伝わる。その氷のように固まった緊張を解すために、まずは耳の周りから始めたのだ。
耳の穴の周りを筆を使うようになぞり、時折綿棒を離しては、耳を指でマッサージしてあげる。
「……ん、んあ……」
緊張が解れてきたのか、少しずつ甘い声が漏れてきた。けど、まだまだ俺は手を緩めない。ここで気を急いて穴に入れてしまうと、せっかく解した緊張がまた逆戻りしてしまう。
急かさず焦らず、マッサージし綿棒を軽く当てるだけを繰り返す。
「……んん……ぁ、んぁ……」
大分緊張が解れたのか、全体重を預けてきてくれている。甘い声も最初に比べれば出るようになり、それを皮切りにゆっくり穴の中に入れる。あ、これは耳かきですよ?
いきなり奥まで突っ込まない。まずは手前から、そして徐々に奥に入れるのがコツだ。綿棒を慣らすために手前を軽く掃除してあげる。軽く掃除し、そして耳の穴から出すピストン運動を繰り返す。
「ぅん……ん……はぁ、はぁ……んんん……ぁん……」
気持ちよくなってきたのか目を細め、ルナの口から微かに喘ぎ声にも似た声が漏れる。何度も言うが、これは耳かきです。あ、ローションとかいるかな。そしたら滑りがよくなるだろうし、奥に入れやすそう。
手前だけだとそこまで汚れてはいなかった。綿棒は最初に使った時と変わらず、真っ白のまま。
奥が見えやすいように指で穴をゆっくり広げる。リビングの明かりを頼りに、奥の方を覗き込んだ。
「少し奥まで入れるからな」
「う、うん。痛くはしないでほしい、優しくしてくれ……」
字面だけ見るとやらしく感じるかもしれないが耳かきです。
奥まで綿棒をゆっくり挿入していく。
「んっ……くっ……」
異物感が奥まで入り込む感覚が怖かったのか、緊張で身体が強張った。さっと軽く周りをなぞるだけにし、綿棒を引き抜く。先端が少し汚れていた。
うん、やっぱり奥の方が少し汚れているな。少し怖いだろうけど、もう一度奥まで挿入しないと。
ルナの中に綿棒をゆっくり沈み込ませていく。
「はぁ、はぁ……ん、く……ん……」
なにかが奥まで入りこむ味わったことのない感覚に襲われるも、ルナは俺を受け入れてくれた。歯を食いしばり、目尻に涙を浮かべながら甲斐甲斐しく耐えてくれる。
「ゆっくり動かすからな」
「う、ん……んぁあ……あぁ……ぅ、んぅく……」
ゆっくり奥に入った綿棒を動かす。棒を動かすたびに、気持ちいいのか苦しいのかルナが軽く痙攣を繰り返す。
あ、ここ凄い汚れている。ここを重点的に拭いてあげて……お、綺麗になった……。
「は、く……そんな、激しく……もう、少し……ゆっくり……」
「あ、ごめんごめん」
耳掃除に夢中になっていて、どうやら激しく動かしていたらしい。自重し、気分を落ち着かせるために一息呼吸を入れた。
うーん、意外と人の耳を掃除するって気持ちがいいな。こう、なんていうんだろう。中がどんどん綺麗になっていくさまは、 筆舌に尽くしがたい快感。
ここも結構汚れてるな。よ、と……もう少し、で……取れた!
「あぁん……た、かし……き、もち、いい……」
「…………」
見えづらいな……カメラ付き綿棒とかあれば最高なのに……。
「そ、んな……お、く……まで、入れられる……おかし、く……」
「…………」
うわ、この耳垢めっちゃ頑固じゃん! なんども擦らないと取れない……。
「んんんっ……はぁんっ、そ、こ、ばっかり……こす、らない……」
「…………」
この耳垢だけ、しつこいな……てか、耳の中が狭すぎて動かしづらい……。
「た、かし……や、ばい……」
「うるさいっ! 静かにしろ!!」
「…………」
俺が一喝すると、ピタッとルナが閉口する。
まったくこっちは真剣に耳掃除してやってるのに……あ、やっと取れた……ふぅ、なんてしつこい耳垢なんだ……。
それからはお互いに無言になり、耳掃除に集中することができた。ずいぶん熱中していたのか、気が付けばそれなりに時間が経っていた。始めたときとは比べ物にならないほど綺麗になった耳の中を見て、まるで心が洗われるようにスッキリする。
気持ちいい……なんて気持ちいいんだ……。
「ほら、耳の中だいぶスッキリしただろ」
「う、うん……ありがとう……」
俺から離れたルナが、ピューッと逃げるようにその場を後にした。
なんだよ、そんなに耳掃除が気持ちよかったのかな。
あれ、てか俺はなんで耳掃除なんかし始めたんだろう? なんか目的があったような気がしたけど……ま、いいか。




