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14話 俺の言うことを繰り返せ

 教室の扉が勢いよく開かれ、先生とルナが入ってきた。それまで騒いでいたクラスメイトたちが慌てて各々の席に座る。

 教室内がピタッと静まり返るも、ルナを一目見たクラスメイトが、その容姿に再びざわつく。

 まずその見た目、日本人離れした顔立ちにオッドアイ。そして銀髪といった容姿に感嘆のため息があちこちで聞こえてきた。もう一つはその服装に驚く声。ブレザーの下にパーカを着てきて、しまいにはフードを被ってくる転校生がどのくらいいるだろうか。いきなり制服をアレンジしてくる度胸に、クラスメイトは驚いていた。


「はい、男子喜べー。美少女転校生だ。名前は宇上ルナ。名前の通り、宇上の親戚の子らしい」


 先生の紹介に、一斉に視線が俺へと集まる。

 ああ、こんな形で注目されたくない……日陰者にはこの視線はキツイです……。


「宇上、自己紹介を軽く頼む。よろしくお願いしますとか、そんなのでいいから」

「わかった」


 先生にため口ー!

 ルナのため口に、またもや騒然とするクラスメイト。先生は力を使われた影響からかわからないが、ルナのため口には意に介さない様子。


「宇上ルナだ、よろしく頼む」


 鈴を転がすような声が教室内に響いた。神秘的な容姿と相まって、その声を聞いた誰もが彼女に惚れただろう。先生にため口だとか、パーカーを着てきているだとか、そんなことはどうでもいいと思えるほど、クラス中の誰もが彼女に魅了された。

 そして、彼女はさらにクラスメイトを驚かせる発言をする。


「私は猫だから、人間のことはよくわからない。だから色々と教えてもらえると嬉しい」


 その発言を聞いた瞬間、クラスメイトの頭に?マークが浮かんだのが見えた。涼宮ハルヒを彷彿させるようなとんでもない発言。誰もが彼女の言葉に対して、何を言ってるんだと思ったであろう。俺はというと、その発言を聞いた瞬間頭を抱えてしまった。

 反応が薄いクラスメイトを見て、信じてもらえていないと思ったのだろうか、おもむろにフードを外し猫耳を曝け出す。


「この猫耳が証拠だ」


 あのバカ―! せっかく猫耳を隠すためにパーカーを着させているのに無意味にしやがって!

 ルナの猫耳を見て、教室中が水を打ったように静まり返る。

 ああ、終わった……。


「…………」


 誰もが彼女の猫耳を見て、息を呑む。その現状に頭を抱えていると、突然、頭上から割れんばかりの歓声が上がった。


『きゃー、可愛いー! え、あれってコスプレ!? めちゃくちゃ可愛いー!』


 地鳴りのような大歓声。学校中に響くかと思うほどの喜びの声があちこちに木霊した。その歓迎の声に安堵の溜息を漏らす。

 ……よかった。そりゃそうだよな。普通、猫が人間になるなんて誰も思わないし、猫耳を見てもコスプレって勘違いするよな。


「はいはい、静かに」


 先生が手を叩き、クラスを落ち着かせた。そして、俺の方に顎を向ける。いや、正確には俺の隣の空いている席に。


「あ、そこ空いてるな。じゃあ転校生は宇上の隣に座るように」


 え、いや待て待て。確かに隣は今空いてるけど、別に誰もいないってわけじゃなくて、たまたま欠席してる田中くんの席なんだけど。

 そんな俺の意図を汲み取ってくれたのか、莉子が手を上げてくれた。


「せ、先生……そこは欠席している田中くんの席なんですけど……」

「あー、田中は昨日、家庭の事情の不慮の事故でトラックに引かれる交通事故に合って異世界転生したから」


 おいおい……めちゃくちゃだな……。


「ということで、転校生は宇上の隣に座れ」


 ルナが俺の隣に座る。

 家で顔を合わせてる人が、学校でも隣って変な気分だな。


「じゃあ、これでショートホームルームは終わり」


 そう言い残し、担任の先生は教室から出て行った。入れ替わるように一限目の数学の先生がやってくる。筋肉隆々にスキンヘッドの容姿は、担当科目を間違えてるような気がする。


「ふむ、隆史。私は昨日漫画で知ったぞ、あれはコスプレというやつだな……確かDBの天津飯だったはずだ」

「ばっ……違う!」


 数学の先生を見て、とんでもないことを言い出した。


「なに、違うのか……そうか、スポポビッチの方だったか」

「どっちかっていうとナッパだろ!」


 遠くから「ツッコミが間違ってる!」という莉子の声が聞こえた気がしたが、青筋を立ててる先生の顔が怖すぎてそれどころではなかった。


「転校初日から騒ぐとは、いい度胸じゃないか転校生」


 先生が右手を上げる。

 あ、これは、かの伝統なクンッが見れるかもしれない! やばい、この教室が焦土と化してしてまう!

 もちろん、そんなことあるはずがなく、先生の右手には教科書が握られていた。


「転校生にはさっそく問題を解いてもらおうかな。そんなに騒げるくらいなら楽勝に解けるだろ?」


 ルナはまだ教科書を持っていないので、隣の俺が教科書を貸してあげる。


「六四ページの問三を解いてみろ」


 うわ、これはルナには絶対解けない。しょうがない、こうなった原因は俺にもあるし助けてやるか。

 先生には聞こえないように、ルナに小声で話しかける。


「ルナ、俺の言うことを繰り返せ」


 俺の問いかけに、無言で彼女が頷いた。


「答えはBって言え」

「答えはBって言え」

「……言え?」


 繰り返しすぎたバカ! 先生が怪訝な表情をしてるだろ!


「繰り返しすぎだ! 言えは言わなくていいから!」

「繰り返しすぎだ! 言えは言わなくていいから!」

「だー! B! Bってだけ言え! それ以外なにも言うな!」

「だー! B! Bってだけ言え! それ以外なにも言うな!」

「お、おい、転校生……だ、大丈夫か?」


 奇行を繰り返すルナに、さきほどまで怒っていた先生が冷や汗をかき心配し始める。


「B! B! B! Bー!」

「B! B! B! Bー!」

「…………」


 気でも狂ったようなルナの発言に、先生の視線はどんどん厳しくなり、ルナに奇異の視線を向ける。


「お前バッカ! ほんとバカ! 臨機応変に対応もできないバカ! バカバカバカ!」

「…………」

「なんでこれは繰り返さないんだー!」

「あ、すまない。紫外線を見ていた」

「そんなの見えるかー!」


 くそ、バカな発言させて先生に怒らせる俺の作戦が失敗した!

 ふ、と。俺の頭上に影が差した。目の前でナッパが仁王立ちしていたからだ。熱くなっていて気が付かなったが、もはや小声でアドバイスではなく、大声でツッコんでいたらしい。


「ほう、今までの発言は宇上が言わせていたんだな」


 あ、やばい……今度こそクンッが来る。

 俺の席は先生によって焦土と化された。

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