13話 初登校
通学路を誰かと登校するなんて、小学生の時に集団登校して以来かもしれない。黄色い帽子を被って、五人一組の班で上級生に連れられ登校した遠い記憶。集団行動があまり得意ではない俺にとっては苦痛以外のなにものでもなかったが、この年になってまた誰かと登校する日が来るとは思わなかった。
「ふんふんふーん」
なにが嬉しいのか。肩を並べて、一緒に登校しているルナが上機嫌に鼻歌を歌っている。
「ご機嫌だな」
「ふんふーん、そんなことはないぞー」
まるで説得力がない。
そう、今日からルナは一緒に学校に通う。どんな策があるかは知らないが、ルナ曰く、学校に通えるようになるらしい。
「学校なんて楽しくないのに、自分から通おうとするなんて変わったやつだな」
「家に一人でいるのは寂しいからな」
昨日のことを思い出してみると、ルナは確かに寂しそうにしてた。家の中に、まるで捨てられたかのような、寂しいような辛いような表情。学校は楽しくない場所なのかもしれないが、ルナにとっては寂しさを紛らわせてくれるところになるかもな。
校門のところで、誰かを待っているように佇む人物がいた。その人物は、俺たちを見かけると、喜びを表すように精一杯手を振り迎えてくれた。
「あ、隆史君、ルナちゃーん!」
その人物とは、昨日買い物に付き合ってくれ、今日という日を待ち望んでいた莉子だった。子犬のようにパタパタと駆け寄ってきて、ルナに抱き着くその様子は、まるで十年来の仲のように思える。
「今日から通うんだよね。私、凄く楽しみにしてたんだ!」
「うん、今日からよろしく」
「とりあえず職員室かな? 案内するね!」
莉子に尻尾があったら千切れんばかりに振ってただろうな。
彼女はルナの手を取り、職員室に向かった。
※ ※ ※
職員室というのはどうしてこうも入りづらい雰囲気があるのだろうか。その威圧するような雰囲気は、入るときに緊張感をもたらしてくれる。職員室まで案内してくれた莉子にお礼を言い、先に教室に帰ってもらった。中に入ると、ピリピリした感じが、チクチクと心臓に突き刺さる。少しやさぐれた担任の女教師にルナを会わせると、怪訝な表情をされた。
「こら、宇上。部外者を勝手に入れるんじゃない」
「すいません。親戚の子なんですけど、うちの高校に入りたいらしいんですよね」
「そんな好き勝手に入れるわけないだろ」
そりゃそうだ。こっからどうやって高校に入るつもりなんだ。
ずいっとルナが俺と先生の間に割って入る。そして、手を先生の前に突き出し。
「私は今日からここの生徒だ」
そう呟いた瞬間、手から青白い、眩い光が発される。その光を一身に受けた先生の瞳は小刻みに揺れ、うわ言のようにルナの呟いた言葉を繰り返した。
「……うん。確かにこの子は今日から来る転校生だ」
やったな、こいつ……。
まさか力を使うとは思わなかった。いや、十分に予想できることではあったけど。
その力を職員室にいる先生全員に使い。ルナは無事、転校を済ませた。
ルナは先生と一緒に教室に来る予定になったので、俺だけ教室に向かった。
※ ※ ※
教室に入ると、莉子が真っ先に駆け寄ってきた。
「あ、隆史君。ルナちゃんは無事転校出来た?」
「ああ、この後先生と一緒にクラスに来ることになると思う」
「楽しみだね」
莉子は破顔して楽しそうにしていたが、俺は不安で仕方がない。
あいつが来てから、平穏な日常がどんどん崩れていってる。学校でもその期待は裏切らないであろうからな。
「なになに、転校生が来るの?」
目ざとく聞き耳を立てていたのか、紬がツインテールを揺らしながら俺たちの会話に入ってくる。
「うん。隆史君の親戚の子でルナちゃんっていうんだよ」
「あ、昨日言ってた親戚の子か。うちの高校に転校してくるんだ。で、その子は美少女なの?」
「すっごい美少女! もう漫画とかアニメの世界に出てきたんじゃないかって思うくらい美少女」
「だってさ。よかったじゃん隆史!」
「いや、俺の親戚の子だから」
ちなみに、莉子にはルナが元々猫という説明をしたときに、親戚という形でうちに居候することになったことも教えておいた。
「美少女の転校生……これは恋の予感!」
「あはは、私たちには関係ない話だけどね」
「莉子、あんたはわかってない。そのルナちゃんって子の好感度を上げれば、必然的に隆史の好感度も上がるんだよ。ああ、なんて優しい子なんだって感じに!」
「は!? なるほど!」
……そういう話は俺がいないところでやってくれ。




