12話 この部屋、なにか匂うぞ
「今日買ったルナちゃんの服を見てみたいな」
希さんの一言から始まったルナのファッションショー。
食事を終えたあと、リビングをランウェイにし、色とりどりの服を着ては希さんの前で披露してあげ、その一つ一つに称賛の声を上げていた。今は被ってないが、莉子は俺が望んだ通り、多様な帽子も見繕ってくれていた。
「うわー、可愛いー! ルナちゃんスタイルいいからなんでも似合うわね」
それには同調せざるを得ない。均整のとれたスタイル、その上日本人離れした顔立ち。まるで芸術のように思える。けど、俺は希さんほど歓声をあげることはなかった。
「これも可愛いー! ね、ね、隆史君もそう思うよね」
「そうですね」
抑揚のない、棒読みな感じで同意した。なぜならこのやり取りは二回目だからだ。莉子も、ルナの服を着せては同じように感嘆の声を上げ、俺に同意を求めてきた。
褒められて満更でもないルナがあれこれと率先して服を着て、しまいにはノリノリで一回転しだしパリコレばりのファッションショーを披露しだす。
そんな彼女も、ある服の前では少し不満な表情を見せた。
「このスカートというのは、足元がスースーして嫌だな」
「似合ってて可愛いのにー」
「うーん……」
それでもルナの顔には不満気が残る。スカートの端を持ち上げバサバサと上下に仰げ始め、彼女が着ている下着がチラチラと見えた。
「ああ、だめだめルナちゃん。女の子がそんなスカートをバサバサしてはしたない」
「足元がスースーして気持ち悪い……」
速攻で俺の脳内カメラが起動し、パシャパシャとシャッターを切る。
「…………」
保存保存っと。
うむ、今日も銀髪猫耳オッドアイの巨乳物を探してみよう。あ、もう一度スカートをバサバサしてくれません?
もちろん希さんに注意されたため、俺の望みは叶うことはなく、ルナの下着はこれ以上見れることはなかった。
ルナのファッションショーが終わり、二人は仲良くお風呂に向かった。つまり、俺は一人で自由にできるということ。すなわち、オ〇ニーライフを謳歌できるということ。
※ ※ ※
自室に籠り、ノートパソコンを立ち上げ、先生に教えを乞う。もちろん検索欄に銀髪猫耳オッドアイの巨乳と打ち込む。
お、この動画良いな。
その動画のコメントに「code?」と書き込みする。こうすれば親切な人がその動画の詳細を教えてくれることがある。
カチャカチャ、とベルトを外し、ズボンを下す……。
瞬間、ドアがノックされた。ノートパソコンをすぐに閉じ、ズボンを上げる。僅か一秒にも満たない早業で、何事もなかったかのようにノックした人物に返事をした。
「どうぞ」
「隆史、入るぞ……なぜそんなにも怒っている」
このやろうぉ……一度ならず二度までも邪魔しやがって……。
知らず知らずのうちに感情が顔に出ていたのか、どうやら俺の顔は相当怒っていたらしい。
「漫画を貸してくれないか」
「……貸すから早く出て行ってくれ」
「なにを怒っているかわからないが、借りていくぞ?」
早く出て行ってくれよー……ご馳走が目の前にあるのにお預けを食らった犬みたいな状況なんだから……。
「あ、ちょっと待ってくれ」
「うん、どうした?」
部屋から出ていこうとしていたルナを呼び止めた。小首を傾げながら振り返る彼女に気になっていたことを聞いてみる。
「その、恩返しってなんでもいいんだよな?」
「ああ、もちろんだ」
「じゃあ、肩もみとかでいいから恩返ししてくれよ」
さっさと恩返ししてもらおう。
そう思った俺は手っ取り早くできる内容を考えて伝えた。彼女は俺との距離を縮め、少し思案するように顎に手を当て俺のことを凝視してくる。そしてかぶりを振り始めた。
「だめだ、それは心からの願った頼みではないから聞けない」
「え、なんでもいいんじゃないの?」
「心からの頼みならな」
まじかよ、そういうのは早めに言ってくれよ。
「じゃあお金が欲しい。これなら心からの願い事だ」
「……確かに。わかったやってみる」
お、これなら大丈夫なのか。よし、これで俺は億万長者になれるな。
「それで、皆はお金をどこに保存しているんだ?」
「どこって、銀行とか?」
「よし、そこを襲いに行こう」
「はあっ!?」
「大丈夫、私の力があれば相手は無抵抗で差し出してくれる」
「だめだー!」
まじか、こいつ! 考えてることが野蛮すぎるだろう! てかそれで捕まった場合、首謀者はお金を全部貰った俺になるわけで、最も罪が重くなるのは俺じゃん!
「やっぱなし! この頼みごとはなし!」
「……よくわからないが、わかった」
もうこいつの考えてることが怖い。こいつからあんまり目を離さない方がいいかも。
「もう用事は無いのか?」
「ああ、うん。漫画持って行っていいぞ」
「…………」
しかし、ルナは中々部屋から出ていこうとしない。辺りを見回し、鼻をすんすんと嗅ぎ始めた。
「この部屋、なにか匂うぞ。イカ臭いというか……」
「…………」
「なにか食べたのか?」
「さあ……」
「気のせいかな」
パタンと扉を閉じて、やっと部屋から出ていった。彼女が出て行った部屋には気まずさだけが残った。
俺は無言でファブリーズを掴み、スプレーを至るところに吹きかける。まるで銃を持ったガンマンのように、トリガーに指を掛け匂いを殺していく。
何度も撃つ撃つ撃つ撃つ……。
なにかに取り憑かれたかのように、無心で撃ち続けた。その結果、俺の部屋からラベンダーの香りが充満していた。鼻から深呼吸すると、肺が爽やかな空気に満たされ、あまりのいい匂いに頭が少しクラッとした。
ふう……これで匂いなんて一つも残っていないはず。
図ったかのように扉がノックされた。促すとルナが戻って来た。
「前に借りた漫画を返しに来た」
ふ、どうだルナ。これならイカ臭くないし、なんなら部屋中いい匂いで満ちているだろ。なんせラベンダーの香りだからな。いい匂いの代表であり、香料の種類には必ずといっていいほど名前があがるラベンダーだからな。
よほどいい匂いだったのだろうか。部屋に入るなり、さっそく鼻をひくつかせ部屋の匂いを嗅ぎ始めた。
「クサいぞ」
「…………」
「この部屋、さっきよりもクサい。頭が痛くなりそうだ」
漫画を本棚に戻し、逃げるように部屋から出て行った。彼女が出て行った部屋には気まずさだけが残った。
ファブリーズの匂いを消すファブリーズが必要だな……。
あれ、そうするとさらに別の匂いがキツくなるだけで、また別のファブリーズが必要になるわけで……以下無限ループ!?
ちなみに、部屋を換気したらすぐに匂いは無くなった。




