9話 今度は俺がルナを助ける
気付けば朝になっていた。
二徹目を終え、不思議と眠気は来なかった。
それよりも、むしろ目が冴え始めた。
まるで目玉が飛び出てるのではと思うほど、目がギンギンになっている。
いけるかもしれない……これをずっと繰り返せば寝ないで過ごせる。そしたらルナは死なない。
高揚感が身体を駆け巡る。
なのに、背中に感じる視線は、不安そうにしていた。
「……隆史、私のことはもういいから。寝た方がいい」
「大丈夫だって、全然眠くないから!」
嘘偽りのない言葉。なのに、俺の顔を見たルナはより一層心配そうにする。
「自分の顔を見たか? 目の下のクマが酷いことになっている」
そういえば、見てなかったな。
朝ご飯を作るついでに、シャワーを浴びて、そのときに鏡も見て来ようかな。
洗面所で自分の顔を見て驚いた。
「…………」
これは酷い、目の下が真っ黒になっている。
いつの間にこんな酷い状態になっていたのか。確かに、こんな姿を見たらルナが心配になるのもわかる。
それでも不思議なことに、頭がすっきりと冴え渡っていた。
お風呂に入り、昨日と同じく冷水を全身に浴びる。
「ひゃぁぁあああ!」
なぜか無性にテンションが高い。
今ならなんでもできそうだ。
鼻歌を口ずさみながら、冷水で身体を洗い、昨日と同じようにご飯を作るも、ルナの食欲は元に戻ることはなく、少ししか食べてくれなかった。
※ ※ ※
鬼門の昼間。
なぜかわからないが、昼間になると無性に眠くなる。
しかし、今日の俺は一味違うみたいだ。顔に酷いクマを作りながらも、異様に興奮してまったく眠くなかった。
昼ご飯を作る前に、ルナの身体を拭いてあげることに。
今や彼女は、一人で立つことも歩くこともままならなくなった。
お湯を張った桶とタオルを用意し部屋に戻る。
「……それは?」
俺が持っている桶とタオルが不思議なのか、ルナが聞いてきた。
「身体を拭くために用意した」
桶の中にタオルを突っ込み、十分に吸わせた後、力の限りそれを絞る。
「シャツ脱がせるから」
「……自分でやる」
「今のルナじゃ無理だろう。ほら、起こすぞ」
「……うん」
背中を支えながら起こしてあげ、シャツを脱がしてあげると、白磁の肌が曝け出される。
ブラに包まれた胸はとても大きく、何度も見たはずなのに、思わず生唾を飲み込んでしまった。
「ブラジャー、外すぞ」
「……やっぱり拭かなくてもいい」
「拭かないと気持ち悪いだろ」
「……そ、そうだけど」
なにをそんなに抵抗しているのかわからないけど、お風呂にも満足に入れない今は、俺が拭いてあげないといけない。
……まさか初めて女性のブラを外すのが、こういう形になるとは思わなかったけど。
背中に付いているブラジャーのホックを外そうと、ルナの背中に手を伸ばす。
「……あれ?」
外れない……これどうやったら外れるの? 無理矢理引っ張ったらだめかな?
四苦八苦している俺を見かねて、ルナがぽつりと呟いた。
「自分で外すから」
「……ごめん」
「ううん、むしろ嬉しい。慣れてたら逆に嫌だった」
なにが嬉しいのかよくわからないけど、両手を使っても外すせない俺とは違い、ルナは器用に片手だけでブラジャーのホックを外した。
背中に手を回すのが辛いのか、少し苦しそうに顔を歪める。
ブラジャーから解き放たれた双丘が、プルン、と揺れた。
男の悲しい性で、思わずそれを見つめてしまう。
いかんいかん。邪心は捨てて、拭くことに集中しないと。
それでも、タオル越しに伝わるルナの身体は、否応なしに女性の柔らかさを意識させる。
「……熱くないか?」
「……うん、気持ちいい」
やばい、会話が続かない。変な空気が漂っている。
話題を変えるか。
「そういえば、ルナの身体を拭いてあげるの二回目だな」
ルナと初めて会ったとき、バスタオルのことも知らなくて、手に持って首を傾げてたっけ。
「うん。隆史はずっと私を助けてくれた」
「…………」
逆だよ、俺はずっとルナに助けてもらってた。
一人でいるのが寂しくて仕方なかった毎日に、ルナはずっと側にいてくれた。
それがどれだけ救われたか、どれだけありがたかったか。
たぶん、他の人じゃ無理だったろうな。
寂しいけど、近づかれるのは怖い。そんな矛盾した中で、元々猫だったルナだからこそ、近づいて来ても安心できた。
ルナの腕を持ち上げ、丁寧に拭いてあげる。
ずっと助けてもらってたんだ。今度は俺がルナを助ける。
俺は改めてそう誓った。
「よし、これで上半身は終わり。次は下を拭くぞ」
「し、下はいい!」
「遠慮するなって」
「遠慮とかじゃなくて! 自分でやるから!」
またもやよくわからない抵抗をし始めた。
自分でやるって言ってもな、それができなさそうだから俺が手伝ってるのに。
「部屋から出てて! 終わったら呼ぶから!」
「わ、わかったわかった!」
顔を真っ赤にして激昂するルナの勢いに押されて、部屋から出ていく。
しょうがない、本人がやるって聞かないし、任せるか。
それから数十分も部屋の外で待たされることに。




