7話 絶対に忘れないから
お母さんも莉子たちも、ルナのことを忘れてしまった。
このままだと俺も忘れてしまうだろう、一体どうしたらいいんだ。
みんなが忘れてしまった共通点はなにか。
女性だから? お母さんと莉子たちの共通点といえば、性別。
……いや、それは関係ないような気がする。それだとクラスメイトの男子は覚えていないとおかしい。
他にはなにがあるのか。
「…………」
まったくわからない。
混乱する頭をリセットしたくて、かぶりを振った。
あと、共通点があるとすれば、みんな、前日は確かに覚えていたのに、次の日になると綺麗さっぱり忘れていた。
「……もしかしたら」
眠ると忘れてしまうのか?
クラスメイトや先生、そしてお母さんや莉子たち全員に共通することなんて、ほとんど無いと思う。
この考えが正解してるかどうかなんて、わからない。
けど、今俺ができることは全てやろう。
死んでもルナのことは忘れたくない。
※ ※ ※
「……すいません、ちょっと風邪を引いてしまって」
朝、リビングでお母さんにそう言って嘘をついた。
これからはずっと自室に籠って、眠気と戦うことになるだろう。そのためには学校を休む必要がある。
「あらあら、大丈夫?」
「はい、そんな重症でもなさそうなんで。あ、でも家事とかはちゃんとやりますから」
「病人にそんなことさせられないわよ。ご飯とかはお弁当買ってくるね」
「いえ、自分でなんとか適当に済ますので大丈夫です」
「そう? じゃあ、私の分はいいから、ちゃんと横になってるのよ?」
「ありがとうございます」
よし、これで部屋に籠っていても怪しまれない。
そのあとは俺は、大量のエナジードリンクや冷凍食品を買い込み、なるべく疲れないように眠気に備えた。
「……隆史、それはなんだ?」
部屋に持ち込まれた、ビニール袋に入った大量のエナジードリンクの缶を見て、ルナがベッドに横になりながら訝しんだ。
「これからずっと起きてるつもりなんだ」
「どうして?」
「憶測なんだけど、ルナが忘れる原因は睡眠だと思ったんだ。だったら寝なければずっと忘れないで済む」
「…………」
その言葉に、ルナは驚くように目を見開いた。
「本気で言ってるのか? そんなことできるわけない」
「大丈夫、絶対に寝ない。ルナのことはわすれないから」
「……隆史」
絶対に、絶対に忘れないから。




