三国志演義・餓狼討滅戦【中編】~虎狩りの謀略家~
声劇台本:三国志演義・餓狼討滅戦【中編】~虎狩りの謀略家~
作者:霧夜シオン
所要時間:約35分
必要演者数:最低6~7人
6:0
6:1
7:0
キャスト例:(他に良い組み合わせがあったら教えてください。)
曹操・高順:
呂布:
陳宮:
張遼・張飛:
陳珪・関羽:
陳登・劉備:
ナレ:
※ナレをどれかの役と兼ねさせる場合、兼ねられない役は、
呂布、陳宮、関羽、張飛、劉備、曹操、陳珪、陳登
なので、上手く兼ね役を変えるなどして調整してください。
はじめに:この一連の三国志台本は、
故・横山光輝先生
故・吉川英治先生
北方健三先生
蒼天航路
の三国志や各種ゲーム等に加え、
作者の想像
を加えた台本となっています。また、台本のバランス調整のた
め本来別の人物が喋っていたセリフを喋らせている、という事
も多々あります。
その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです
。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただい
ております。何卒ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また上演の際は決してお金の絡まない上演方法でお願いします
。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場
合がありますので、注意してください。
なお、性別逆転は基本的に不可とします。
●登場人物
曹操・♂:字は孟徳。
漢王朝の宰相、曹参の末裔を称する。現王朝の司空の位につい
て、自らの理想とする世を築くべく、皇帝をも大義名分として
利用する。人材収集癖があり、有能な人材を愛する事、女性を
愛するかの如くである。
政治、軍事、文化等のあらゆる分野で後世に名を残す、
”破格の英雄”。
劉備・♂:字は玄徳。
漢の中山靖王・劉勝の末孫を自称。
乱れた世を正す為、義兄弟の関羽、張飛と共に乱世を駆ける。
関羽・♂:字は雲長。
劉備、張飛と共に義兄弟の契りを桃園に結び、乱世を正さんと
戦い続ける。見事な顎鬚と酒に酔ったような赤ら顔をしている
。重さ八十二斤の青龍偃月刀を自在に操る。
張飛・♂:字は翼徳。
劉備、関羽と義兄弟の契りを結び、世を正すために戦う。
一丈八尺の蛇矛を振り回し、酒を愛する虎髭にどんぐり眼の
豪傑。
呂布・♂:字は奉先。
五原郡出身。武芸百般に秀で、方天画戟を枯れ枝の如く振るい
、日に千里駆ける稀代の名馬・赤兎馬に跨って戦場を駆ける。
餓狼の様な性質を持ち、背信と裏切りに塗れた生を歩む。
現在は劉備から徐州を奪い、領主の座に座っている。
三国志最強と言われ、飛将軍の異名や「人中の呂布、馬中の
赤兎」と謳われる。
陳宮・♂:字は公台。
かつては曹操に仕えていたが、次第にその人間性について行け
なくなり、流浪の身だった呂布に接触、推戴して曹操から離反
。
以来、呂布に献策し続け、現在は徐州の実質的支配者とさせて
いる。
張遼・♂:字は文遠。
後に泣く子も黙ると恐れられた武勇を持つ人物。この時は呂布
配下で高順と二枚看板をなす猛将。己の意思とは裏腹に、丁原
、董卓、呂布と次々に仕える主君を変えざるを得なかった。
高順・♂:字は伝わっていない。
呂布配下で張遼と双璧をなす猛将。攻撃した敵部隊を必ず壊滅
した事から【陥陣営】の異名で恐れられる。寡黙で酒は飲まず
、贈り物も一切受け取らない清廉潔白な人物であったという。
陳珪・♂:字は漢瑜。
陳登の老父で徐州の名士。呂布を嫌い、息子と共に密かに曹操
と通じている。
陳登・♂:字は元龍。
呂布の配下だが父の陳珪ともども、劉備から徐州を奪い領主の座
に居座った呂布を心中密かに嫌っている。
はじめは誠実で思慮深いと評されているが、後年、広陵の太守と
なった頃は人々に畏怖・敬愛されたと伝わる。ただし、傲慢で
うぬぼれていると思われることも多かったようである。
密かに曹操と通じ、呂布を滅ぼす為に画策しつつある。
ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者が少ない状態で上演の際は、被らないように兼役でお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:泰山一帯を縄張りとする盗賊たちに曹操軍を迎え撃たせた呂布だっ
たが、徐州城にもたらされた報せは敗北の凶報だった。
陳登は早馬からの報告を受けると、内心ほくそ笑みながら城の奥へ
と向かった。
陳登:申し上げます、将軍。
…泰山が突破されました。
呂布:なにっ、孫観らはどうした!?
陳登:今のところ、生死は不明とのことです。
呂布:ぬ、ぬううう…!
陳登:さらに曹操軍は徐州を四方から囲み、すでに小沛へ進軍しつつある
との報告です。
呂布:なんだと!?
小沛は徐州にとっては喉元にもあたる場所だ。
奪われてはならん!
陳登、陳大夫、何かよい策はないか!
陳珪:やはりここは、将軍が直々に小沛へ向かわねばなりませぬ。
陳登:父の申す通り、先の泰山の例もあります。
寄せ集めの兵や山賊どもには任せておけませぬ。
呂布:お前達の言う通りだ。
俺が出陣するのとしないのとでは、兵の士気も違うだろう。
よし、小沛へ出陣する。
陳珪:それがようございます。
呂布:陳大夫、お前にはこの徐州城を守ってもらう。
いいな。
陳珪:承知しました。
命に代えましても。
呂布:他の者は俺と共に小沛へ向かう。
すぐに出陣の準備をしろ!
陳登:ははっ、直ちに!
ナレ:徐州城内はにわかに慌ただしくなった。
その中、陳珪・陳登父子は、いつも密談の場所と決めている
真っ暗な部屋に隠れ、何事か話していた。
陳登:父上、ついに呂布の滅亡も近づいてきましたな。
陳珪:うむ、わしら親子の待ち焦がれている日がやって来た。
陳登:さいわい、私は呂布に従って小沛へ行きます。
むこうで策を用い、呂布がこの城へ退却せざるを得ない状況を作り
出します。
陳珪:ふむ…それで…?
陳登:その時父上は、この徐州城の門すべてを固く閉じ、
呂布を決してこの城へ入れないようにしてください。
陳珪:………。
陳登:父上、何故ご返事が無いのです?
陳珪:倅よ、それは無理だ。
この徐州城はわし一人だけで守るのではない。
呂布の一族がおる。
わしが開けるなと言ったところで聞かぬじゃろう。
陳登:確かに…この城から呂布の一族を遠ざけておく必要がありますな。
それに関しては私が手を打ちましょう。
陳珪:うまくやれるか?
陳登:お任せを。
! そろそろ出陣です。
ぐずぐずしている暇はありません。
陳珪:そうじゃな。
お前は先に戻れ。
…うまくやれよ。
陳登:では。
【三拍】
将軍、遅れて申し訳ありませぬ!
呂布:陳登、何をしていた!
曹操軍は進撃を待ってくれんぞ!
陳登:はっ、実は父が徐州城の留守を預かる大役をとても心配しておりま
した。それゆえ、励ましていた次第です。
呂布:? 徐州の留守がなぜそんなに心配になるのだ?
陳登:なにぶん、こたびの戦は曹操軍が四方より攻めてきております。
万一この徐州城に危機が迫った時、蓄えられた金銀兵糧、そして
将軍のご一族をどうしたものかと、父はひどく案じておりました。
呂布:なるほどな、確かにその憂いもあるか。
ふーむ……。
よし、陳大夫!
陳珪:ははっ、ここにおりまする。
呂布:お前は糜竺と協力して、我が一族と金銀兵糧を全て下ヒの城へ移し
ておけ、よいな。
陳珪:ははーっ、かしこまりました。
呂布:陳登、これで万全であろう。
陳登:さすがでございます、将軍。
これで憂いなく出陣できるというものです。
呂布:よし、出陣だ!
小沛へ急げ!
陳登:【呟くように】
(…ふふふ呂布め、なんと他愛のない…。糜竺殿も我らと心を同じ
くする者だというのに…。)
ナレ:呂布は気づかなかった。
己の足元にすでに大きく、黒い穴が口を開けていることに。
小沛へ向けて進軍途中、伝令から前線の蕭関が危機に晒されている
という報告をもたらされてきた。
呂布:曹操軍がもう蕭関まで迫ったのか!
おのれ、さすがに早いな…!
ともあれ、軍の向きを変えねばなるまい。
陳登:将軍、お待ちください。
呂布:なんだ、陳登。
陳登:蕭関へはなるべくお急ぎになりませぬよう。
呂布:!?バカな、それでは陥落してしまうぞ!
陳登:それは分かっております。
現在、陳宮殿や臧覇殿も向かっているとの事ですが、
蕭関を守る兵は孫観配下の山賊や氏素性の知れぬ者…つまり、
寄せ集めの輩がほとんどです。
呂布:確かにそうだが…。
陳登:彼奴らは忠誠心も薄く、利に転ぶ可能性もございます。
それゆれ、まずはそれがしが先に向かって関内の様子を調べて参り
ましょう。
呂布:おぅ、よく気が付いた!
その細やかな気配り、お前こそ真の忠臣というものだろう。
よし、行けッ!
陳登:ははっ、では将軍は後から。
【三拍】
…よし、ここからが正念場だ。
失敗すれば自身はおろか、徐州城に残っている父上の命もない。
む、蕭関が見えて来たな…。
開門! 開門せよ!
陳宮:何者だ!
陳登:徐州から参った陳登だ!
至急、蕭関を守備する将に会いたい!
陳宮:おう、陳登殿か!
指揮しているのはこの陳宮と臧覇殿だ!
今、門を開ける!
【二拍】
急にどうして参られた?
陳登:その前に、曹操軍の動きはどうなっています?
陳宮:あれを見られよ。
すでにこの蕭関を攻めるべくあの山の付近に布陣している。
だが、まだ戦闘には至っておらぬ。
陳登:なるほど…。
それでなのだが…貴公らは何か、呂布将軍に疑われるような覚えは
ござらぬか?
陳宮:なに? どういうことか?
陳登:将軍はなぜかここに参られぬ。
陳宮:なっ…ではこの蕭関はどうなる!
いったい将軍は私たちの何をお疑いなのだ!?
陳登:それはわかりませぬ。
ともかく、将軍はここに参られぬことを知らせに参った。
陳宮:そんな…将軍がおいでにならねばどうやって戦えと言うのだ。
今この蕭関の現兵力では防ぎきれん。
下手をすれば全滅しかねぬ。
陳登:私はただの使いに過ぎませぬ。
そう申されても、返答に困ります。
陳宮:陳登殿、貴公は将軍に気に入られている。
ここの現状を伝え、将軍みずから参られぬでも援軍をなんとか
よこしてもらえるよう、説得して下さらぬか。
陳登:むう…わかりました。
やってみましょう。
ではひとまず私はこれで。
【二拍】
よし、最初の仕込みの仕上げだ…。
この矢文を……ッ!
見ておれ、凄惨な同士討ちを演じさせてくれる…!
ナレ:陳宮達に疑惑のくさびを打ち込んだ陳登は、己の策を記した矢文を
曹操軍の陣地へ向かって射込むと、その足で急ぎ呂布の元まで駆け
戻って来た。
陳登:【馬のいななくSEあれば】
どうッ!
将軍、ただいま戻りました!
呂布:おう陳登、蕭関の様子はどうだった?
陳登:…案の定、誠に憂うべき状態です。
すでに陳宮殿、臧覇殿に曹操軍の手が回っているとは…!
呂布:!? ぬう、では彼奴らはやはり裏切りの準備を進めていると言う
のか!
陳登:孫観ら山賊の輩ならばともかく、将軍のご恩を受けていたはずの
陳宮殿までもが裏切ろうとしているとは思いませんでした。
人の心は測りがたいものです…。
呂布:いや、陳宮は近頃、自分の献策が容れられない事で、不満を持って
いるように見えた。
何も知らずに蕭関へ進んでいたら、今ごろ討たれていたかもしれん。
よくやった、陳登!
陳登:ははっ、ありがたきお言葉…!
呂布:だが陳宮め、俺を裏切るというなら目にものを見せてやらねばな。
陳登、ご苦労だがもう一度蕭関へ引き返し、何でもよいから陳宮に
話題を振って時を費やし、酒でも飲ませて酔いつぶさせろ。
そして矢倉から火の手を上げ、乾の方角の門を開けておくのだ。
俺が自身で突入し、彼奴をこの手で成敗してくれる。
陳登:おお、素晴らしき策でございます。
さっそくそのように。
ナレ:夕闇迫る中、陳登は再び蕭関へ引き返すと、わざと慌ただしく陳宮
を呼び立てた。
陳登:陳宮殿ッ! 陳宮殿はおられるか!
陳宮:いかがされた、陳登殿。
それよりも援軍の件はどうなったであろうか?
陳登:そんなことを言っている事態ではなくなりました!
今日、曹操軍がいきなり方角を変え、泰山の間道から徐州城へ
攻め込んできたのです!
陳宮:なっなにッ!
曹操軍が徐州城へ!?
陳登:もはやここを守っていても意味はありませぬ。
お二人ともすぐに兵をまとめ、徐州に救援に向かえとの将軍からの
命にござる。
陳宮:むむむ曹操め、作戦を変えて来たか…!
これはぐずぐずしてはおれん。
陳登殿、我らもすぐに救援に向かうゆえ、一足先に将軍にお伝えく
だされ!
陳登:承知!
では御免!
【二拍】
陳宮:我らはこれより徐州城へ向かう!
将軍に加勢せねばならぬ。
全軍、続けッ!
【多数の馬の駆け出すSEあれば】
【二拍】
陳登:…行ったな…。
呂布への合図の火の手を上げて…よし。
これで陳宮と呂布を同士討ちさせることができる。
そしてもう一度矢文を曹操軍の陣へ射込めば…!
【矢を射るSEあれば】
ナレ:陳登は矢を放った方角を、目をこらして眺めていた。
すると松明の光が彼方に現れ、大きく振って返事の合図を送ってく
る。
間もなくして空になった蕭関に、おびただしい兵馬が海の潮の満ち
るように音もたてず、明かりもつけずに入って来た。
曹操:陳登よ、思った以上に事がうまく運んでおるな。
陳登:これは曹司空殿。
先ほどここを出た陳宮は、必ず呂布とぶつかるでしょう。
暗闇ゆえ、互いに敵と思い込んでの同士討ちは必至でございます。
曹操:さすがは陳登殿だ。
して、その後はどう動く?
陳登:同士討ちが収まれば、呂布たちはひとまずこの蕭関へ戻ってくるで
しょう。
そこを更に奇襲すれば、より打撃を与えられるかと存じます。
曹操:ふふふ、陳登殿の前では呂布も赤子同然であるな。
して、蕭関を失った彼奴らの退却する地はどこと見る?
陳登:おそらく、徐州の城へ退却するでしょう。
小沛では城の規模が小さすぎて、すべての兵が入りきれませぬ。
しかし徐州の城では、すでに我が父陳珪が志を同じくする者たちを
語らい、城を乗っ取っている頃かと思われます。
曹操:ううむ、みごとなものだ。
時間をかけただけあって、惚れ惚れするような策だな。
陳登:ありがたきお言葉…。
呂布が徐州へ移動しているその間に、私は小沛へ向かいます。
そして守将の張遼と高順を偽って徐州へ向かわせますゆえ、
空になった城へ兵を入れて下さいませ。
曹操:うむ!
これで徐州、小沛、蕭関の要所はほぼ全て押さえることができるな。
呂布に残された退路は下ヒの城のみ…。
では、小沛の件は頼むぞ、陳登殿。
陳登:ははっ、まずはここへ引き返してくるであろう呂布軍を叩いてから
ですな。
曹操:我らも敵軍を奇襲後、一部の兵を残して出発する!
陳登殿が小沛の敵軍をおびき出したら、すぐに後を乗っ取るのだ!
曹操・ナレ役以外全員:おうッ!!【SE代用可】
ナレ:そのころ、蕭関を出た陳宮は間もなくして正体不明の軍とぶつかる
。
味方の軍だとは知る由もないままに。
かたや呂布は、陳登の上げた合図の火の手を見て動き出していた。
呂布:おう、合図だ!
陳登め、うまくやって陳宮らを酒に酔わせたようだな。
全軍進め! 裏切り者共を残らず討ち取るのだ!
呂布・ナレ役以外全員:おうッ!【SE代用可】
陳宮:急げ! 徐州の味方を救うのだ!
むっ!? 前方に軍が…敵か!?
呂布:うっ、あれは…もしや泰山に陣取っているという曹操軍だな。
一気に蹴散らせ!!
陳宮:徐州への救援を阻止しようとする曹操軍に違いない!
者共、正面突破するのだ!!
【喚声:SE代用可】
ナレ:目隠しをされた状態で刃を振るう者ほど愚かなものはない。
互いが味方同士とも気づかぬまま、呂布と陳宮は凄惨なほどの
同士討ちを徹底的に演じてしまう。
だがさすがに違和感を覚え始めたか、双方の動きが鈍り始めた
。
陳宮:矛を引け! 者ども鎮まれ!
もしや相手は味方ではないのか!?
呂布:はてな…おかしいぞ。
!! あ、あれは味方の旗ではないか!?
待てッ、お前達は何者だ!!
俺は呂布だぞ!!
陳宮:なっ!!?
こ、これは将軍!
何故ここに!?
呂布:陳宮ではないか!?
おのれ、やはり裏切っていたな!
陳宮:?何のことでございます。
我らは徐州が攻められているゆえ、すぐに救援に向かうよ
うにとのご命令に従って、こうして向かう途中だったのです。
呂布:な、何ッ!?
誰がそんなことを言った!?
陳宮:陳登殿がそう伝えて来ましたが…。
呂布:なんだと!?
俺にした話と全然違うぞ…いったいどういうことだ!?
陳宮:前から疑ってはいましたが、もしや曹操に内通しているのでは…。
呂布:まさか、そんなはずは…。
陳宮:ともあれ、ひとまずは蕭関へ戻りましょう。
詳しい話はそれからでも。
呂布:う、うむ。
全軍、蕭関へ入る! 拠点を空にはしておけん!
ナレ:呂布は陳宮の部隊と共に蕭関に入ろうとした。
だが開け放たれた門へ近づいた刹那、弓矢が雨のように降り注いで
きた。
呂布:なっ、こ、これは!?
陳登:それっ、突っ込め!!
【喚声:SE代用可】
陳宮:ぬうぅいかん、すでに関は乗っ取られていたか!
将軍、暗闇の中攻め込むのは危険です!
ひとまず退却を!
呂布:くそっ、退けッ! 退けェーーーーーッ!!
【二拍】
陳登:ははは呂布め、思い知ったか。
…では曹司空殿、次は小沛にて。
曹操:うむ、また後ほど会おう。
ナレ:蕭関を奪われた呂布はやむなく態勢を立て直す為、徐州城へ転進す
る。
いっぽう、徹底的に追い詰めるつもりでいる陳登は、馬を飛ばして
小沛の城へ向かった。
陳登:小沛城が見えて来たな。よし、張遼と高順を城から出さねば…。
開門、開門ッッ!!
張遼:何者か!
ッ陳登殿ではないか!? どうされた!
陳登:一大事でござる!
曹操軍が間道を抜けて徐州城に不意に現れ城を包囲、
総攻撃を受けております!
急ぎ救援に向かってくだされ!
高順:なんと…曹操軍本隊が徐州城に…!?
張遼:高順殿、急ぎ向かうべきだ!
今なら城を攻め立てているであろう曹操軍の背後を討つ事が出来る
!
高順:うむ…!
陳登殿、我らはすぐに徐州へ向かう。
一足先に戻って将軍にお伝え願いたい。
陳登:心得ました。
では!
張遼:我らは徐州の救援に向かう!
続けーーッ!!
高順:将軍、今すぐ参ります…!
【喚声:SE代用可】
【二拍】
陳登:…くっくっく、馬鹿な奴らだ。
これで我らの策は、半ば成就したと言えよう。
父上、そちらは頼みましたぞ。
ナレ:小沛を守っていた張遼・高順も、陳登の言葉を信じ、全軍を率いて
城を出ると徐州へ向かった。
遠くからそれを確認した陳登は、合図を送って曹操軍を小沛へ招き
入れ乗っ取ってしまう。
それより少し前、呂布主従は徐州の城を臨む辺りまで辿り着いたが
、同時に彼らの動きは、城内の陳珪の元にも伝わっていた。
陳珪:そうか、呂布が引き返してきたか。
倅が上手くやったとみえる。
ならば今度はわしの番じゃな。
皆の者、よいか! ぬかるでないぞ!
陳珪役以外全員:おうッ!!【SE代用可】
陳珪:この徐州には、我らの本当の主に戻ってきていただくのじゃ。
おお、見えてきたわい。
血に飢えた狼めが…!
陳宮:開門、開門ッ!
呂布将軍のお戻りだ!
陳珪:それッ、弓兵ども放てッ!!
【矢が大量に降り注ぐSEあれば】
呂布:!? な、なにッ!
これはどういうことだ!
俺はこの城の主だぞ!!
陳珪:はははは、呂布ッ!
この徐州城の主は汝などではない!
呂布:おお、そこにいるのは陳大夫ではないか!
これは何事だ!
我らを曹操軍と間違えたわけではあるまい!
早く門を開けろ!
陳珪:たわけめ!
呂布よ、血迷うのも大概にするがいい!
今は亡き前太守・陶謙様が頼み込んでこの徐州を譲られたのは
汝ではない!
劉備玄徳殿だ!
呂布:な、何を言うか!
乱世の時代、力で奪い取るのは当たり前ではないか!
今はこの呂布が徐州の主だぞ!
陳珪:まだわからんのか!
その昔、陶謙様の部下が曹操殿の父君を殺して財宝を奪って
逃げた際、曹操殿は烈火のごとく怒って大軍を差し向けて来た。
誰も援軍要請に応じない中、信義を重んじる劉備殿ただ一人だけが
、五千の兵と共に来て下さったのだ!
この時の我らの感激、汝などにはわかるまい!
呂布:ぐ、ぐぬぬぬ…。
陳珪:汝を徐州の領主と認める者など、誰もおらんのだ!
この地は元通り、劉備殿に治めていただく!
汝にもはや用はない!
どこへなりと消え失せるがよいわ!!
呂布:ええぇいおのれェ! 攻め落とせ!!
陳宮:う、うう…
(ここまで劉備が徐州の臣民の信望を得ていたとは…。)
呂布:ッ何をぐずぐずしている!
城を奪い返せ!!
陳珪:ええい目障りな!
弓兵放て! 追い散らすのじゃ!!
【矢を大量に放つSEあれば】
呂布:ぬうううッ!
こ、これでは近づけん!
陳宮:将軍、このままでは被害が増えるばかりです!
態勢を立て直すためには小沛へ向かい、張遼・高順の軍勢と合流す
るべきかと!
呂布:し、しかし、しかしこの怒りと口惜しさをどうやって鎮める!
陳宮:これ以上打撃を受けると、曹操軍に太刀打ちできるか分からなくな
ります!
一軍の将が、冷静さを失ってはなりませぬ!
呂布:ぐ……ッぬううぅうぅうう!!
ナレ:ついに呂布は赤兎馬の馬首を返すと、小沛へ向かって走らせた。
その背後から、城内でどっと笑う声が風に乗って流れてくる。
歯噛みして屈辱に耐えながら、呂布達は馬の足を速めた。
ところが、ちょうど徐州と小沛の中間あたりまで来ると、
彼方から一団の騎馬が土煙をあげて向かってきた。
呂布:うっ、あれは…!?
陳宮:曹操軍が先回りしていたのか…?
いや、違う! あの旗印は張遼殿に高順殿ではないか!?
呂布:な、ば、バカな!
小沛を守っているはずの二人がなぜここにいる!?
陳宮:止まれーーっ!!
お前達は張遼・高順の軍か!?
張遼:!? 貴公は陳宮殿ではないか!?
何故ここに!?
陳宮:それはこちらが聞きたい!
貴公らは小沛の城を守っていたはずではないか!
高順:それが先刻、陳登殿が馬を飛ばしてきて、
将軍が徐州の城で曹操軍に包囲されたゆえ、すぐ救援に向かうよう
にと告げて来たので、こうして全軍で徐州へ向かってきていた所で
す。
陳宮:!!ッ……!
将軍、お聞きになりましたか。
呂布:ぬうううううまたしても陳親子の謀か!!
もう許せん!
彼奴らを八つ裂きにしてやらねば気が済まん!!
陳宮:将軍、おやめなされませ。
恥を重ねるだけです。おそらく陳登はすでに曹操軍を引き入れて
祝杯をむさぼっている事でしょう。
呂布:黙れッ!
これほどコケにされては我慢ならん!
全軍、小沛へ進軍しろ!!
ナレ:呂布は我を失うほど激怒し、小沛へ軍を進めた。
しかし陳宮の予想した通り、城には曹操軍の旗が翻っていた。
呂布:陳登ッッ、いるなら出てこいッッ!!
【二拍】
陳登:おぉあれを見ろ、赤い馬に乗った物乞いが現れたぞ!
飢えているのか、何か吠えているわ!
石でも喰らわしてやれ!
呂布:俺があれほど目をかけてやったと言うのに、よくも裏切りおったな
ァ!!
陳登:黙れ!!
我ら父子は漢王室の臣、汝ごとき粗暴で悪逆な賊などの家来ではな
い、愚か者め!!
それにこの徐州の主は劉備玄徳殿だ!
留守を乗っ取っただけの汝など、誰が主と認めるか!!
呂布:ぐぬぬぬぬ…!!!
かかれ!!
一気に攻め落とせェ!!
陳登:それっ弓隊!
今こそ呂布を討ち倒す時だ!!
放てェッ!!
【大量の矢が降り注ぐSEあれば】
呂布:ぬううおのれェ!!
怯むな! 進め!!
陳宮:将軍!
後方に敵軍が!
呂布:何ッ!?
ええい曹操軍め、城の外にも陣取っていたか!
後方の高順に鶴翼の陣で迎え討つよう伝えろ!
張遼:ははっ!
行って参ります!
【二拍】
高順殿! 将軍から鶴翼の陣で迎撃するようにとの事だ!
高順:承知!
者ども、ここを突破させるな!
…? なんだ? 曹操軍にしては装備が雑多な……!?
張遼:うっ、あ、あれは!
関羽:この時を待っていたぞ!
先の小沛での借り、今こそ返させてもらおう!!
雑兵に用はない、呂布はいずこだ!
張飛:おらおらおらァッ! 張飛様のお通りだ!!
出てこい呂布ッ、その首を貰い受けに来たぞ!
高順:なっ、関羽、張飛だと!?
ではあれは劉備軍の残党か!
張遼:くそっ、数は少ないが何という勢いだ!
高順:く、食い止めねば…!
待てッ張飛! ここは通さん!
張飛:ああ!?
雑魚はすっこんでいろ!!
高順:雑魚かどうか、この陥陣営・高順の手並みを見てからほざけッ!
ぬうんッ!
張飛:ハッ、なんだその軽い打ち込みは!!
今度は俺様の蛇矛でも、喰らってみろォッ!
高順:!! ッぐぅぅぅぅなんて重い一撃だ!
張飛:そォら、もいっちょォォ!!
高順:うっぐぅぅ!!!
ま、まだまだッ!!
張飛:おっと!
ふん、それなりにやるじゃねえか!
だがまだまだだなァ!
そらッ!
そらァッ!
そらそらそらァァッ!!!
高順:ぬっ、ぐっ、うぐっ!
だ、駄目だ、支えきれん…!
勝負は後日!
張飛:けッ、邪魔するんじゃねえ!
呂布はどこだ!!
ナレ:数も少なく、装備も整っていない軍隊と言えど、率いる将が関羽・
張飛とその名を世に轟かせた豪傑であれば、すなわち精鋭となる。
高順の部隊が蹴散らされ、その動揺は呂布の中軍にも波及していた
。
呂布:ちいぃ、なんという無様だ!
急ぎ態勢を…!!
張飛:見つけたぞ、呂布ッ!!
この張飛様がその首を貰い受けるぞ!!
呂布:何ィ!? 俺を甘く見るな!!
返り討ちにしくれるわ!!
おぉうッ!!
張飛:ッぐう!
やるな! おらあァッ!!
呂布:ッえぇい!!
貴様こそな!
関羽:そこにいるのは呂布ではないか!
自慢の赤兎馬はまだ健在か!?
呂布:!ちいい、関羽か!
張飛一人に手こずっている時に!
さすがにこの場は分が悪い…!
ッッ!
張飛:あっ、待ちやがれ!!
関羽:ぬうう逃げるな、呂布!!
呂布:貴様らの首をうつのは後日だ!
勝負はそれまで預けておいてやる!!
関羽:くっ張飛、追うぞ!!
張飛:分かってらァ!
呂布:貴様らの凡百の駄馬が、この赤兎馬に追いつけるとでも思っている
のか!
関羽:~~ッ駄目か!
あの名馬にはとても追いつけん…!!
張飛:くそっ、忌々しいがどうにもならねぇ!
関羽:ともあれ今は曹操軍に合流し、兄者にお会いしよう。
張飛:そうだな!
どうせ呂布にもう逃げ場はねェ。
兄貴、小沛の城へ行こうぜ。
関羽:うむ。
全軍、城へ入る!
ナレ:呂布は関羽・張飛の両雄を前に不利を悟ると退却する。
関羽らは曹操軍と合流すると、劉備に再会。
互いの無事を喜び合った。
劉備:そういえば小沛落城の際、二人はどこに逃れたのだ?
関羽:それがしは海州の田舎に潜んでいました。
張飛:俺はやむなくボウ蕩山に逃れて山賊をしていた。
劉備:はっははは、正直だな翼徳!
曹操:劉備殿、この徐州は元々貴公の城だ。此度の戦が終わったら、
また領主の座に戻られるがよい。
陳珪殿、ご子息の陳登殿と共に呂布軍内部の攪乱、実に見事であっ
た。貴公には十の県の俸禄を与え、ご子息には伏波将軍の位を与え
る事とする。
陳珪:ははーっ、ありがたき幸せに存じます。
陳登:ついに呂布を追い詰める事が出来、我ら父子の念願がようやく叶っ
た心地がします。
曹操:よし、今宵は大いに飲んで食べてくれ!
ナレ:陳珪・陳登父子による内部攪乱の計略が図に当たり、意気上がる
曹操・劉備連合軍。
一方、小沛から追われた呂布達は唯一残された拠点、下ヒ城へ向け
て馬を急がせていく。
餓狼はついに、檻の中に入った。
【三国志演義・餓狼討滅戦【後編】~生と死の白門楼~に続く】