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とある物理学者の挑戦

作者: おでん

この物語は、現代物理学における最重要実験の一つである二重スリット実験に挑戦する一人の男の無謀な物語である。

◆ 二重スリット実験とは何か

二重スリット実験とは、簡単に言えば、電子や光の粒子を二つのスリットに向かって放つと、粒子の振る舞いが「波」と「粒」のどちらにも変化する、という量子力学の基礎を示すものだ。この原理は科学の奇跡とされ、多くの実験により検証されてきた。しかし、ここにきて、思いがけない挑戦者が現れた。


その挑戦者とは、スイスの著名な理論物理学者であり、月額20万円課金を誇る廃課金者のアルダーケ・カキンシタイン博士だ。博士は「自身の研究ピックアップガチャ結果」に基づき、この現代科学の根底をなす理論実験の矛盾を暴こうとしている。


◆ ガチャの二重スリット実験

博士の主張する「ガチャの二重スリット実験」はこうだ。


ガチャには「ピックアップ」と「すり抜け」という二つのスリットが存在する。例えば、推しキャラがピックアップされたガチャで、十数万円を注ぎ込んだ場合、その結果は観測者プレイヤーの意思によらず、ほぼ全てすり抜けという形で表示されるのだ。


博士は、この実験結果から「二重スリット実験」が理論破綻していると怒りを込めて説く。


「これまで量子論では、粒子ガチャには、『ピックアップ』と『すりぬけ』の二重性があると言われてきました。しかし、今回の私の研究結果では、粒子ガチャは、すりむけの性質しか示しませんでした。これは現代量子論の根底を覆すほどの衝撃的な結果であると言えます!」


さらに博士は続ける。


「運営が公表する『0.5%』の排出確率は科学的ではない。これはただのファンタジーだ!」


そして博士は、かのアルバート・アインシュタインの言葉をもじって、震える手でスマホを強く握りしめながらこうも語る。


うんえい賽子かくりつを振らない。」


◆ SNS上と実験結果での重なり合わせに対する見解

他方、上記理論と一見矛盾するようだが、博士はこう語る。


「SNSはまさに量子力学的な世界である。ただし、これが事実であるならば…」


これは、SNS上では「無料10連で二枚抜きした!」「単発で神引き!」「人権キャラが出た!」という報告が後を絶たないからである。


しかし、博士はこれに異を唱える。


「そんなものは有意の観測結果ではない。あれは、波動関数が収束する前の幻想、いわば量子の幽霊である。」


博士が実験で観測できたのは、十数万円注ぎ込んでも推しは出ず、無駄にすり抜けたキャラが重なる「爆死の干渉パターン」のみだった。


「現実のガチャ結果は、SNS上と異なる波動関数に収束する。つまりSNSの報告は、運営が観測者を欺くためのフェイクデータだ!現実のはずがない!そんなの…ずるいよ…」


博士は、スマホの画面に入った無数のヒビと涙の跡を残しながら、静かに震える。


◆ 運営側の反論

この理論に対し、運営は公式声明を発表した。


「博士の主張は、科学的検証に基づくものではなく、個人の感想である。」


さらに、運営は追い打ちをかけるようにこう言った。


「ガチャの排出率は統計的に正確であり、運営が確率を操作することはない。ただし、ピックアップは『ピックアップされる確率が高くなる』とは言っていない。」


◆ 天井確定性理論

最後に博士は、量子力学の不確定性原理に代わる新たな理論である「天井確定性理論」を発表した。


「恐ろしいことだが、観測者プレイヤー観測かきんを続ける限り、最終的にお目当てのキャラの出現確率は100%である。しかし、それは観測者ユーザーの運によるものでも、ピックアップの確率によるものでもない。それは予めうんえいにより設定された『回数ゆるし』によって生じる。つまり『天井』だ。そしてこの天井の存在こそが、ガチャにおける唯一の確定的事象であり、ガチャの回数を確定させる決定要因となる。これが天井確定性理論であり、うんえいの意思そのものであると言える。」


◆ 二つの天井確定性理論

さらに博士は続ける。


「ちなみに天井は二種類あり、まず上記の天井を一般天井という。そしてもう一つは…クレカの限度額という究極の天井である。これを特殊天井という。今回の実験における私にとっての天井は、こちらの天井だ。つまり爆死、完全なる爆死だ…うぅ…」


こうして博士の研究は、悲劇的な最後で幕を閉じた。その後博士はスマホを叩き割ったまま、再び研究に戻ってくることはなかったという。


しかし、博士の悲痛な叫びは、多くの爆死者たちの共感を呼び、彼の説は廃課金者の間で、今も静かに支持されている…。


「ぜってえー弄ってんだろぉ!!」

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