8、
「流石ねぇ…フォセットの教え方が授業よりもわかりやすいわ」
エビーチェはフォセットに勉強を教えて貰いながら嬉しそうにしていた。
「それは良かった。私なりの解釈もあるから少し不安ではあるけど…」
「いいえ!今度の成績は期待出来ると思うわ」
絶対に大丈夫と言いたげなエビーチェの熱量にフォセットは若干引いていた。
「そうなのかな?それじゃあ高得点を目指して頑張ろうね」
「ええ!…そういえばフォセットのお姉様って生徒会よね?姉妹揃って優秀なのねぇ」
姉のノエリアは学園で一応は優秀ではあったらしく生徒会の書紀になっていた事を知った。
しかしフォセットの事は会長のみが知る形で通達されていたので詳しい事情等について生徒会のメンバーは知らなかった。
「さぁねぇ…それはどうだろうねぇ?」
「…」
フォセットが多くを語らず含みを持たせるとノエリアもこの話はあまりしない方が良さそうだと感じた。
「話に夢中になるのはいいけど…ここ間違えてるみたいだよ?」
「えっ?嘘っ!」
今彼女達がしているのは魔法学で魔法陣に組み込む魔法の配置だった。
「もしこれに魔力を込めた場合は爆破になるからあまりお勧めはしないかな」
「ば、爆破は嫌だわ」
それは生活魔法の火を上手く調整するための部分の紋様を書くものだったのだがエビーチェはうっかり最大火力で組み込もうとしていた事に気付いてギョッとして慌てて書き換えた。
「これなら温かい火になるね」
「ねぇ、貴女ならこれに何を足すの?」
「そうだねぇ…出来るだけ微調整が可能な物にするかなぁ」
「それはかなり便利よね。でもそうなると複雑になるわよね?」
「私の部屋のキッチンはそれだけど?」
「えっ?」
寮は王族と公爵位の寮、侯爵と伯爵位の寮、子爵と男爵と騎士爵位の寮、一般の者の寮と警備の関係で地位によって四つに分かれており伯爵位迄の寮には付き人がいるので簡易型キッチンはない。しかし子爵位からは一人で入寮する者が多いために簡易型キッチンが設けられていた。簡易型キッチンは厨房のような立派なものではなく必要最低限で設えた簡単なものだった。一応は寮内に食堂もあるが伯爵位以下は申請すれば自炊も可能なので食材も提供して貰えるのだがフォセットはその簡易型キッチンに自作の魔道具を設置してたまに自炊していた。
「見に行ってもいい?」
「駄目。校内での身分があまり無くても寮が分けられてるなら別だからね。節度を保たないと後から困ることになっても責任は取れないよ」
これは学園の警備の話で不慮の事故等を想定すると多少の行動の制限は必要だった。
エビーチェは何処までも冷静な彼女を見てふと気になった事を尋ねてみることにした。
「ねえ、フォセットは結婚とかどうするの?」
「結婚?考えてないけど必要ならやるかな?なんか面倒だからやらなくていいならそれが気楽なんだけど…」
「そうなの?でもずっとご実家に居るのは気が引けない?」
「 私が邪魔なら友人の所に転がり込んでも適当に稼げるし…やりようはいくらでもあるから問題ないよ。
今はとりあえず早く仕上げてテスト後は結果が良ければ遊ぶんでしょ?」
「そうだわ!頑張らなきゃ」
フォセットが餌をぶら下げるとエビーチェのやる気が出た。このあとに魔法の練習もすることになった。
魔法は基本的に魔法練習場と呼ばれる場所でしか使えない事が決められていた。それはこの場所には特殊なシールドが張られていて何かあれば被害を最小限に押されられるからだった。
「上手いと思うけど?」
「どうしても緊張するのよねぇ…」
エビーチェの技術は問題なかったのだが彼女は自己評価が低いのか出来ないのだと思い込んでいる節がありフォセットとしてはこれは勿体なく思えた。
「出来るだけ落ち着けるように一緒にいれば少しはいいのかな?」
「そうしてくれる?」
不安そうなエビーチェを安心させるようにフォセットも頷くとエビーチェは少しだけホッとした表情になるのをみてフォセットは出来るだけ当日は一緒にいて緊張を解す事にした。
*****
そして迎えたテスト当日。
「フォセット…緊張してきたぁ…」
筆記試験は問題なかったエビーチェは実技の実践魔法で後ろの方で皆の様子を見ながらガッチガチになっていた。
フォセットは小さな子供にするようにエビーチェを抱きしめると頭や背中を撫でていた。
「エビーチェは大丈夫だよ。私が教えて今までずっと練習してかなり上達してきた。
貴女自身が信じられないなら私と一緒に頑張った貴女の時間と教えた私を信じなさいね」
「わかったわ」
フォセットに抱き締められながら頭や背中を撫でられ声を掛けられただけなのにエビーチェはその穏やかな口調と声に不思議な安心感を感じると余計な力が抜けていった。
「エビーチェ・キャラメツ嬢、前へ」
落ち着いた頃に担当教師が名を呼んだ。
「エビーチェなら大丈夫だよ。貴女は誰よりも頑張った。私と共にいた時間を信じなさいね」
「有り難う。頑張るね」
最後にエビーチェの頭を優しく撫でて優しく微笑みながら肩を軽く叩いて送り出すとエビーチェはその台詞に思わず照れてしまった。
「えっ?」
「本当にキャラメツ嬢なのか?」
「あの子…こんなに出来たの?」
「え?うそ…出来てる!」
余計な力が抜けたエビーチェは何時もより良い結果が出て本人もだが周りも驚いていた。
「フォセット・シャルダン嬢。前へ」
フォセットの番になると周りは一瞬だけざわつきその後は皆が静かに注目した。
実技内容は的当てと威力測定だった。フォセットが指定の場所に着くと的が一斉に出て普通は杖を出すのだが彼女は何も出さずに目を閉じて集中して目を開くとただ指を鳴らしただけだったが的は一斉に爆破していた。
この時の測定値は不可能となっていた。
「…」
周囲は何も言わずただ指を鳴らした音だけしかしなかったので何が起こったのかわからず唖然として静まり返った。
「まさか無詠唱ときたか…君あの頃より腕が上がってないか?」
「そうですねぇ、身を守るならこれは有効ですから無詠唱の法則を研究してましたね」
正確に把握した教師は苦笑しながら普通に話し掛けるとフォセットも普通に対応していていたので周りの生徒達もこれを見てなんとなくこれが普通に思えてきそうな錯覚を覚えて感覚がおかしくなりそうだった。
ジワジワとこの異常さに気付いた生徒達からはフォセットを見る目が変わっていた。
「フォセット凄いわ!どうやるの?」
エビーチェの元に戻ると彼女は手放しで褒めていたがフォセットは淡々としていた。
「有り難う。あれは魔法陣を正確に覚えて後はイメージで出来るよ。そのためには日々の瞑想をして落ち着いて対処すること。
焦ったりすると陣が乱れやすくなるからまずは冷静でいる事は必須なんだよ」
「そうなのねぇ…さっきみたいに緊張して慌ててしまう私は難しそう…」
「落ち着く練習する?」
「やってみたいわ!」
「わかった。それなら今日の放課後は無詠唱でやった事も含めて出来るだけ分かり易く教えるから少し時間空けておいて」
「わかったわ」
「それを私にも見せてくれるかな?」
「…わかりました。では後程使用許可をお願いします」
教師が二人の会話を聞いていて興味深そうにするとフォセットは困ったように眉尻を下げて微笑みながら頷いた。
ここまで読んでくださって有難う御座います。
登場人物紹介です。宜しければご利用下さい。
フォセット…シャルダン男爵家の双子の妹。
エビーチェ…キャラメツ伯爵家のご令嬢。