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5、


 こうしてフォセットは気が進まないまま仕方なく登校する事になった。この時に編入生だと言うことで他の生徒とは制服を別にして登校する事になっていて学園側からの初めの指示はその制服を着けて登校することだった。


「理事長様お久しぶりですねぇ…本当に面倒ですし今更ですが変更は?」


 この学園の高等部は三年制で入学した当時に色が決められていて三年間その色で過ごすことになっていた。

 今は一年が青、二年が紫、三年は白となっていて制服は全て同じ色だが各学年ごとのブローチを着けて分けていた。

 制服は平民も通うのでそれを考慮して男子生徒はブレザーにスラックスパンツで女子はブレザーにロングスカートかスラックスパンツが選べたが貴族令嬢達はほぼ皆がスカートで平民は動きやすいパンツスタイルが多かった。

 しかしフォセットだけはそれに属さない特別な制服で彼女の意思を尊重してスラックスパンツになったのはいいのだがノエリアと同じ最終学年なのに学年を示すブローチは特になく代わりにどの学年にも属さない漆黒のローブを着ける事になっていた。

 この事は生徒会と風紀委員にも既に報告済みとされていて根回しはバッチリだった。


「ありませんよ。アレのお陰で我々も迷惑してますからねぇ…」

「それは申し訳ありません。仕方無いですねぇ…短い間ですが宜しくお願い致します」

「じゃあ頼むね」

「承知致しました」


 手紙に記された内容との照合をしながら変更等を尋ねても特に問題はなさそうだったので教師と一緒に指示された学年の教室に向かった。


「今日は編入生を紹介する」

「皆様初めまして。シャルダン男爵家のフォセットと申します。宜しくお願い致します」


 出来るだけ生真面目さを出して挨拶するとまばらな拍手で迎えられた。そして一限目は早速テストだった。


「来て早々にテストだなんて…」

「編入生はお可愛そうね…」


 ヒソヒソと女子生徒達が囁いていたがフォセットは無視した。

 そして結果が出た。

『一位、満点。フォセット・シャルダン』

 フォセットにするとこれは当然の結果だが皆がザワリとした。


「有り難うございます」

「流石はシャルダン家の才女。その能力は未だ顕在のようだな」

「そのような大層なものではありませんよ」


 答案用紙を受け取りながらフォセットは教師の言葉に苦笑した。それを聞いていた生徒達はまたもやざわついていた。


「フォセット様はどちらでお勉強を?」

「貴女は?」


 休み時間になると少し癖のある青い髪に明るい茶色の目の人懐っこそうな女子生徒が興味津々と言った様子で話し掛けてきた。


「自己紹介がまだでごめんなさいね。私の名はエビーチェ・キャラメツよ」

「あぁ、キャラメツ伯爵家の!始めましてフォセット・ジャルダンです。今後とも宜しくお願いします。

 キャラメツ伯爵領の名産品の蜂蜜は最高ですよねぇ。一度知り合いから頂いた事がありまして伯爵様と領民の皆様の努力は素晴らしいと感服致しました」

「ええ、そうよ!ご存知だなんて嬉しいわ」


 名前ですぐに自領地の事を言われたエビーチェはなんだか嬉しくなった。


「はい。とても質が良いと有名ですよ。その上でこれはあくまでも若輩者の個人的な意見となりますが…折角の素晴らしい蜂蜜ですからもし今後は量産も視野に入れるおつもりならそれはやめる事をお勧めしますよ」

「それは何故かしら?」


 突然経営の話になるとエビーチェは真面目な顔をした。思い掛けない展開に周囲の生徒達も聞き耳を立て始めた。


「あれだけの素晴らしい蜂蜜ですし量産するなら花に力を入れる方向をお勧めします。

 蜜蜂には美味しい密を作るために花に拘る種類もいるのはご存知でしょうか?」

「えっ?そうなの?」


 蜜蜂は皆似たようなものだと思っていたエビーチェは彼女の話に驚いた。


「はい。実は以前に昆虫学の権威の方と話をする機会がありましてその時に蜂蜜の食べ比べをしながら議論したことがあります。

 これはその時の話ですが私達の意見としては蜂蜜の生産量は現状維持で抑えて花に拘る方が良いと言う結論になりました。

 もしこういった話を進めようとしているのであれば生産量は現状維持で味を追求して付加価値を付ける方をお勧めしますよ」


 確かにエビーチェは父親が『そろそろ何かを…』と考えてるのは知っていたので彼女自身もヒントを探していた。そして突然湧いて出た筋の通る話にエビーチェは何か思案している表情だった。


「あの、もし宜しければ我が家に来て頂けないかしら?」

「流石に学園の外では身分的に…」


 あまり目立ちたくないのもありやんわりと断ろうとしていたフォセットの様子を見ながらエビーチェはこういう話が出来る機会はなさそうな気がしたのでフォセットを逃すと言う選択肢はなかった。


「そこは問題なくてよ!貴女のその素晴らしい知恵を是非とも貸して欲しいの!」

「承知しました。では日時が決まり次第お報せ頂けますか?」

「堅苦しいのはいいから私の事はエビーチェと呼んでほしいわ」

「わかりました。では私のことはフォセットとお呼びください」

「宜しくね!」

「こちらこそ」


 二人は握手を交わすとこの時から互いを親しく呼び合うような友人となった。


「ねぇ、フォセット」

「なんでしょう?」


 それから休み時間になるとエビーチェは必ずフォセットに話し掛けていた。


「もう少し砕けなさいね。貴女って勉強が出来ないのではないの?」

「勉強は出来ないのではなくて楽しんで覚えてるので必要がないだけです。私も噂を耳にしましたけど恐らくですがあれは私を妬む者が流した偽りだと思いますよ」

「そうなのね。でもなんだか凄いわね…私も一度は勉強は必要はないってそんなことを言ってみたいわねぇ…」


 エビーチェはフォセットと一日一緒に過ごしただけで噂が嘘だと気付いて苦笑した。


「でも貴女にも問題はありそうね」

「まぁそうでしょうね。でも上辺だけなら誰でも騙せますよねぇ…」


 エビーチェは困った表情で話すフォセットに何か含みがあるものを感じて違和感が湧いた。


「それって…噂を流した人がわかってるって事よね?」


 少し話してエビーチェの勘の良さに気付いたフォセットはこの時も何かを察している様子の彼女に好感を抱いていた。


「まぁ、そうですねぇ…敢えて関わりたく無いので無関心を装いますけど腹の中ではかなり怒りはありますよ」

「そうなのねぇ…」


 エビーチェは誤解されやすそうなフォセットを不憫に思えたがそれはなんとなく彼女に失礼な気がして口にするのはやめた。

 それから二人は軽く話すとそれぞれの寮の部屋に戻った。








ここまで読んで下さって有難う御座います。

登場人物のザックリ紹介です。

フォセット…主人公。双子の妹。

理事長…この学園を任されてる人。

エビーチェ・キャラメツ…キャラメツ伯爵家の令嬢。気さくな性格。

(裏話:エビーチェの名前はお腹が減っていて海老が食べたかったのとキャラメツはなんだかキャラメルか食べたくて適当に付けました。特に意味を持たせてませんので気楽にお楽しみ下さい)

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