3、
『フォセット様…噂はかねがね耳にしておりますけど私達を馬鹿にしてらしたのね。
退学する程に出来ないのに本当に腹立たしい事ですわね』
日々は過ぎても相変わらず自由気儘でのんびりとした日常を過ごしていたある日。
フォセット宛に元学友から意味不明のこんな手紙が届いた。
「………?」
フォセットは最初はこの意図と経緯がわからず困惑していたが姉ノエリアが最近なにやら積極的にお茶会に参加してたのを思い出すとなんだかドッと疲れが出た。
「なるほどねぇ…本当に愚かな…」
今後の規模を考えて流石に目を瞑れないと判断したフォセットは仕方なく父キリアックの書斎を訪ねる事にした。
「お父様、まずは此方をどうぞ」
フォセットはいつものようにまずは何も言わずに手紙を差し出すとキリアックは手紙に目を通して怪訝な表情になった。
「これはどういう事かな?」
「ノエリアの事でお話があります」
こう切り出して昔からこの屋敷で起こっていた事を話すとキリアックは困った表情で頭に手を当てながら溜め息が漏れ出ていた。
「彼女はとても正義感が強い方なのですけど…これ…どうなさいますか?
この方からこのような手紙が来る程です。今後を考慮するとこのまま黙って見過ごすと後から面倒ではないでしょうか」
フォセットは多くを語りはしないがその目は呆れていてキリアックからも疲れたような溜め息しか出なかった。
「……確かに…噂にも限度がある…お前からあの子に何か言ったのか?」
「拗れるのがわかってて話しませんよ。彼女は自分で自分を貶める行為をしてますから下に見てる私が出ると面倒な事は一目瞭然なので掛ける言葉すら何も出てきませんね。
個人的に努力家は好ましいのですが…ああいう周りの迷惑を考えないような思慮の足りない人間は嫌いです。
何より誰かと比較させるやり方でしか他人に認めらないと思ってそうな辺りが無理。しかもそのためだけに誰かを態々貶めて引き立て役に利用する努力しかしない自己承認欲求の塊のような人間は本当に面倒臭いので近付きたくもないですよ。
その場合の動機が不純ですから一生懸命に努力して得た成果でも個人的な達成感ではなくて誰かに褒められる目的でしか動いてませんから本人の求める結果にならなければどうなると思います?私には他のターゲットに変えたりして被害者が更に増える事しか想像が出来ませんしその後はもっと悲惨ですよ。
周りも関わりたくなくてそのまま遠巻きにして放置していると次第に事が大きくなってから孤立した時にその人が自分を冷静に見つめて自分の行いをある程度でも認めて反省する事が出来ると思いますか?私には何かを拗らせて更に誰かを妬んでその後は破滅しそうな予感しかないですね。
だから良くも悪くも全ての自分を受け入れるために自分を知ろうともしない彼女が腹立たしいですしそんな人間は己のプライドだけは高いと思いますから見下げていたい相手から『もう他人を気にせず今まで頑張った自分自身にも目を向けて悪いことも全て認めた上で今ある自分の良いところだけを自分で褒めろ』と言われてもその真意については殆と言っても良いほどに理解が出来るとは思えませんからそんな相手に掛ける言葉はないと思いますよ」
キリアックは忖度せずに自分を貶めた事よりもそう言う残念な努力しか出来ない姉が腹立たしいと感じているからこそ出来るならもっと自分を大切にして欲しいと話すフォセットに対して本当に優しい人間はこういうものだと思い娘の成長に少し嬉しくなっていた。
「確かにそれなら下手な言葉はかけられないだろうね。わかった。少し調べたと言う内容で注意しておこう」
「宜しくお願いします」
キリアックからも指摘をする話になるとフォセットは特に何も言わないがホッとした表情で頭を下げると退室した。
「本当に賢いな…」
キリアックは必要最低限で話して退室した娘が女であることを惜しんだ。
*****
「ノエリア。今フォセットを貶める噂が此方にも届いている。お茶会に出てる時にこれについて何か聞いたことがないかな?知ってたらなんでもいいから教えて欲しいのだけど…」
キリアックは翌日にノエリアを書斎に呼び出していた。
「いいえ…」
この時のノエリアの目が泳ぎ明らかな動揺を見せたのでキリアックから溜め息が漏れた。
「もし、このまま噂が広がれば我が家はこの醜聞を引き摺る事になる。まだ先の話ではあるけどそうなるとお前達の嫁ぎ先はこの家に大きな影響を与えるのはわかるかな?」
「…はい」
「…調べた限りでは、これで得するのは一人だけだね。可哀想な姉…等と周囲から同情を引いてお前一人だけは得をするようだ。
その反面で我が家にはフォセットへの批判が広がって『こんな娘しか育てられなかったのか…教育を失敗してる』等と醜聞になるのだけどノエリアはそこを理解してるのかな?」
「…」
そこまでは考えが至らずノエリアは言葉に詰まった。
「どうやら残念な事に我が家を貶めたい者がいるようだからその者を炙り出してそれが使用人なら解雇するしかない。
フォセットはそれが事実であればありのままを評価する程に冷静な目を持つ子だ。まず他人を貶める事はしないからこの謂れのない醜聞を受ける我が家とあの子を守るために見付け次第すぐに追い出すか…何かしらの対処をしなければならなくなりそうで私はとても寂しいよ」
キリアックは確信めいた話し方をしたかと思えば態とらしくまだ誰かはわからないけど…といった話し方でノエリアを翻弄した。
ノエリアは流石に誰かが追い出されるとは思っておらず青ざめていた。その様子を見てキリアックは浅慮な娘に疲れた表情になっていた。
「もしこの噂が嘘だとわかると今度はノエリアが矢面に立たされるのはわかるね?そうなると我が家では庇いきれないからノエリアも今後の言動には注意しなさいね?」
「はい…」
確かにもしフォセットがまた学園に通う事になった場合は今まで話したことは全て嘘だと露呈する可能性は高い。
この時のノエリアは今まで優越感に浸りたくて行った事が知らぬ間に大きくなり危うい事になっている事にやっと気付いたがどうしてもいいのかわからず困った。
ここまで読んでくださって有難う御座います。
登場人物の紹介です。
キリアック…シャルダン男爵家の当主。双子の娘の父親。
フォセット…双子の姉ノエリアの妹で面倒臭がり。一応主人公。
ノエリア…フォセットの双子の姉。社交の場では一応真面目。既にやらかしてる張本人