1 ……淡い恋をしてみませんか?
いつか、またね。
誰もいない教室のホワイトボードに書かれている、誰かの落書き。(思い。……あるいは、告白)
……淡い恋をしてみませんか?
「ねえ、私の恋の応援をしてくれないかな?」
そんなことを花村咲が宮森実に言ったのは、ある春の午後の時間だった。
放課後の教室の中に二人以外の生徒の姿はない。
実がぼんやりと咲のことを見ていると、咲はにっこりと笑って、「ねえ、いいでしょ? どうせ暇なんだし付き合ってよ」と実に言った。
実は自分が暇かどうか、お前にわかるのかよ、と思ったのだけど、実際、部活動もしておらず、かといって勉強に励んでるわけでもない実は確かにずっと暇だった。
実は少し考えてから、「……わかった。いいよ」と咲に言った。
すると咲は「やった。じゃあそこに座って」と嬉しそうな顔をしてそう言った。
咲の指差した席は、窓際にある咲自身の席だった。
その咲の前の席は、宮森実の席だった。(二人は縦に並んで座っていた)
咲は自分の席に腰を下ろした。
実はそのあとで、さっき席を立ったばかりの自分の席に座った。
実はそこから後ろを振り向いて咲と向かい合うような姿勢になった。
咲は机の上に両手をついて、手のひらの上にその小さな顔を乗せ、開けっ放しの教室の窓から入ってくる春の風に自分の長い黒色の髪を好きなまま、静かに揺らせていた。
「じゃあ、相談を始めるね」花村咲がにっこりと笑ってそう言った。
「おう。任せておけよ」自信もないのだけど、強がって宮森実はそう言った。