対策会議inマグノリア学園1
「…という事よ。」
「………」
ここはマグノリア学園の一室。先日、創造神ミナティこと高木美奈子がエスターシェンで召喚された勇者・聖女と接触した事を受け、緊急会議が設けられたのだ。
参加者は彼らとの接触に同席したロザリーとシンシアを始め、ハルモニア、アンジェラ、ソニア、カトレア、セーラ、フローレ、マリーゼ、それからアニー=ヒルトン。彼女たちは皆、前世で美奈子と懇意にしていた者たちだ。
「…召喚された勇者と聖女がよりによって美奈子ちゃんを虐めていた人たちだなんてね…」
ハルモニアはそう呟いて溜め息を吐く。
「この中で、その佐藤誠と松尾朋子を知っている人はいる?」
アンジェラが皆の顔を見回し尋ねる。するとソニア、ロザリー、シンシアが手を挙げる。少し間を置いてアニーも控えめに手を挙げる。
「私は美奈ちゃんから聞いただけだけど。余程腹に据えかねていたんでしょうね、彼らの事はよく聞いたわ。」
ソニアがそう言うとロザリーも頷く。
「私、佐藤なら直接知ってるわよ。」
とはシンシア。これを聞いて皆、シンシアに注目する。
「私、美奈子ちゃんとはよくそういった事を相談し合っていたから。」
とシンシアは苦笑する。
「そんな中に今回の連中の事もあったの。それでほんの偶然だったんだけど、美奈子ちゃんと会っていた時に佐藤に出会した事があったの。」
皆は真剣にシンシアの話しに耳を傾ける。
「一言で言って、佐藤は“救いようの無い勘違い野郎”よ。」
「………」
皆、開いた口が塞がらない。
「何て言うのかな?自分は何もかも正しい!って信じ込んで他人にもその価値観やら正義感を押し付けてくるウザ迷惑な人種?」
シンシアは首を傾げながら、自分が感じた佐藤誠を評する。
シンシアの評を聞き、皆は黙り込む。
はっきり言って自分たちの想定していた通りの人物評だ。…むしろ想定通り過ぎて咄嗟に反応出来なかった、という感じである。
まあ、勇者なんて立場に酔い痴れるような輩は概ねそういった傾向があるのは理由するし、またそうでなければ勇者は務まらないと言われればそうなのだろうが…何事も程度というものがあるのだ。
それにしても今回、美奈子に対面した奴らの態度は到底許せるものではない。
ロザリーとシンシアから聞いた限りではあるが、創造神がかつて自分たちが虐めた相手だと認識した途端に態度が横柄になったという。
それに飽き足らず罵倒の限りを尽くし、更には際限なく自分たちの要求を飲ませようとしたらしい。
聞けば聞くほど呆れ果て、侮蔑の念が沸き起こってくる。
そりゃ。あちらの世界で命を落とし、こちらの世界に生まれ変わった自分たちとは違い、ある日突然異世界に放り込まれ、勇者・聖女だと言われたら戸惑いも浮かれもするだろうが…だからと言って何でもかんでも好き勝手に自分の要求を押し通していい訳がない。
大体彼らが召喚されて大変な思いをしているのは美奈子や女神様たちも同様なのである。
ただでさえ“悪意ある侵略者”なんて意味が分からない存在にこの世界が脅かされているというのに、更に意味不明なダンジョンの出現や勇者・聖女の召喚なんてイレギュラーが発生して彼女たちこそ大変迷惑しているのだ。
「これも“悪意ある侵略者”の企みの一環なのかしらね?」
ポツリとカトレアが呟く。
「え?」
「どういう意味?」
皆、一様に首を傾げる。
「だって。ここまで美奈子に関わりのある人物がこの世界に集められているのよ?今までは味方ばかりだったけど、勇者・聖女はむしろ美奈子ちゃんの敵よね?正直、質の悪い悪意を感じるわ。」
「………」
言われてみれば確かにその通りだ。
「まあ。それならそれで、受けて立ってやろうじゃないの!」
セーラがそう言うと、フローレ、マリーゼもウンウンと同意を示す。
「貴女たち…そんな簡単に……」
ハルモニアやアンジェラはやや呆れ気味だが…
「それでもよ。何より私たちが正真正銘生まれ育った世界の事よ。美奈子ちゃんだけの問題じゃ無いでしょう?」
セーラにそう力説され、ハルモニアたちも心が決まった。
「そうね。まあ何にせよ、まずは勇者・聖女らの件をどうにかしないとね。」
彼女たちには、今後も何かと勇者・聖女の厄介事が降り注いで来る予感がある。今回は大人しく引き下がったが、召喚された勇者・聖女はあの二人だけでは無い。勇者も聖女もまだ各2名ずつ残っている。
まずは今回接触した佐藤誠と松尾朋子以外の勇者・聖女の事を調べ上げ、継続して傾向と対策を練って行く、という事を合意を得て今回の会議はお開きとした。