勇者・聖女との対話
私がエスターシェンからやって来た勇者・聖女を見て愕然としていると
「創造神様?」
しばらく待っても声を掛けられない事を訝しんだのか、勇者の佐藤誠が顔を上げる。すると
「は?」
素っ頓狂な声を上げる。
それに驚いたのか、松尾朋子も顔を上げポカンとなる。
「え?何であんたがそこにいるのよ?」
…そんな事、私があんたらに言いたいわ……
「…つまり」
結局私が渋々掻い摘んで状況を説明する羽目になり、説明を受けた誠と朋子は渋い表情になる。
「この世界はあんたが作った小説の世界で、創造神はあんた、と…」
朋子はあからさまに嫌そうに言う。
「私と誠はあんたが勝手に作った世界に呼び出された…って訳?」
「ったく!お陰でこっちは大!迷惑!を被ったんだぞ!責任取れや!」
誠も不機嫌全開で凄む。
「そうよそうよ!異世界召喚するならちゃんと環境を整えなさいよ!あんたがサボるからこっちは大変だったのよ!」
等等等等…………
誠と朋子の暴言は留まる所を知らない。
「そんなにご不満なら、さっさと勇者も聖女もお辞めになったら如何?」
誠と朋子の傍若無人な態度に、遂にロザリーちゃんがキレた。
「…何だよ、あんた?」
突如割り込んできた金髪美少女に面食らいつつ、誠は問いかける。
「私はロザリー=エメットと申します。一応、侯爵令嬢ですわ。」
ロザリーちゃんは冷たい表情と口調で名乗る。
「は?侯爵令嬢?」
誠は何故この場に侯爵令嬢がいるのか理解出来ず、目を白黒させている。
「本当に。ロザリー様の仰る通りですわ。何かご不満がお有りなのならば、潔く勇者も聖女も辞めておしまいになれば宜しいではないですか。」
不意にそう言われ、誠と朋子はギョッとした表情になる。
「…あんたは?」
誠は呆然とした表情で問いかける。
「私はシンシア=ディレノス公爵令嬢ですわ。」
今度は青銀の美少女がこれまた冷たく表情と口調で名乗り上げる。
「………」
誠も朋子も上手く状況が把握出来ずにポカンと口を開けたまま固まってしまった。
「あのさ…」
私は額に手を当てて、頭痛を堪えながらどうにか尋ねる。
「とりあえず…あんたら、一体何しに来た訳?」
私が女王様に聞いていたのは、勇者・聖女の有用性を私に認めさせる為…って事だったんだけど?
正直こいつらの態度を見る限り、勇者・聖女の有用性なんぞこれっぽっちも感じないわ。
「そ、それは…俺と朋子がこの世界に必要だって事を………」
誠がモグモグと何かを言い募っているが…
「今までのあんたたちの態度で、そんな風に評価して貰えると思ってんの?」
「………」
誠も朋子も何も言えず、押し黙ってしまう。
「あんたたちはさ。ネット小説とかみたいに異世界召喚されて早々無双出来なかった!って、不満たらたらだけどさ。そもそも私、そんな事想定して無かったんだけど?」
私は溜め息を吐きながら説明する。…ああ、面倒臭い!
「は?どういう事だよ?」
誠も朋子も目を剥いて驚いている。
「私はあくまで私の為だけにほのぼの話を書いていたの。私の本来の予定では、ダンジョンも勇者も聖女も存在しない内容だったんだよ?」
「………」
「大体さ。この世界には色んな女神様が存在するんだよ?もしこの世界に何かあったなら、まずは女神様たちやその神官たちがが動く。それで何か不足があれば私がどうにでも出来る世界なの。そんな世界に勇者だの聖女だの需要があると思う?」
「………」
私の話に二人は何も口を挟めない。
「それでも不測の事態でこの世界にダンジョンが現れ、不安に思った他国の人たちが異世界召喚を行い勇者と聖女が召喚されてしまった。私の本音としては勇者も聖女も要らない。だけど召喚されてしまったものは仕方無いから、“黙認”しようと思っていたんだよ?」
私はここで言葉を切り、勇者と聖女を睨み付ける。
「でも、あんたたちは創造神が私だと知った途端に暴言を吐いた。」
「………」
二人の顔色が心なしか青褪めてくる。
「それも、しつこくしつこく私を詰り倒した。そんなあんたたちを私が必要とすると思う?」
この言葉に、二人は哀れなほどに青褪め、ガクガク震えだす。
「エスターシェンに戻ったら国王様に伝えてよ。」
この言葉に二人は俯いていた顔をパッと上げる。
「『そちらで召喚した勇者・聖女に関しては、私は何も言わないし関与もしない。そちらで責任を持って“管理・運用”するように。ただし、これ以上の勇者・聖女は不要。今後一切、異世界召喚儀式は行わないように』ってね。」
私はそれだけを伝えると立ち上がり、ロザリーちゃんとシンシアちゃんを連れて部屋を後にした。
誠と朋子はしばらく呆然と佇んだ後、神官たちによって神殿を追い出され、力無くエスターシェンに帰還するのだった。