いざ、ダンジョンへ!
「足元に気を付けろよ。」
マルティーヌに注意を促され、佐藤誠と松尾朋子は慎重に歩を進める。
今回探索するダンジョン“ワットソー洞窟”は既に騎士団によって調査を終えており、そこまで危険な魔物はいない事が確認されている。
その為今回探索するダンジョンとして選ばれたのだが、前回のエム・カズミ遺跡の例もある。念には念を入れ誠と朋子が入る直前に改めて調査が行われた。
今回はダンジョン攻略ではなく、あくまでも誠と朋子の力試しの為の探索である。故に全階層を調査した訳では無いが…さてどうなる事か。
「あ、階段が見えてきた。」
朋子は前方に現れた階下へ続く階段を見つけ指を差す。ゲームやネット小説ではお馴染みだが…洞窟内に綺麗に整備された階段があるのは実際に目にすると、中々違和感が凄い。そして更にダンジョンの不思議な所は…
「洞窟に階段というのも謎だけど…これはもっと謎よね。」
階段を下りた先には草原が広がっていた。辺りは薄暗く、如何にも何かが出てきそうなおどろおどろしい雰囲気が漂っている。
「私たち、洞窟に入った筈よね?」
松尾朋子の呆れたような口調が響く。
「さあ、魔物が出るぞ。気を引き締めて行け。」
マルティーヌの声に誠と朋子は頷く。
「お、来たぞ!」
そう言ってマルティーヌが剣を抜き一閃する。
「おわ!」
「あら。」
出て来たのは“リンデルの雫”スライムだ。足元で無数のスライムがポヨンポヨンと飛び跳ねる様は何だか可愛らしいが…
「こいつは弱いが数が多い。気を抜くな!」
マルティーヌに言われるまでもなく、いつの間にか足元はすっかり色とりどりのスライムで埋め尽くされていた。
「…流石にこれだけ数がいると不気味だな…」
誠は大分無駄が無くなった動きで剣を振るい、着実にスライムを仕留めつつ呟く。
見渡す限り飛び跳ねるスライムに埋め尽くされた様は結構不気味である。特に薄暗い中飛び跳ねる目玉ばかりが目立つ為、中々ホラーな光景だ。
「…これ、魔法で一掃出来ないかなぁ?」
朋子がポツリと呟くと
「マツオ、頼む!」
マルティーヌに請われ、朋子は気合を入れる。
「じゃ、行きますよ!【大光玉】!!」
朋子は両腕を前に突き出し【大光玉】を繰り出す。
すると、朋子の身長程の大きさの光の玉が出現。
「とりゃ!!」
朋子はそれをスライム目がけ、思いっきり巨大な光の玉を飛ばす。光の玉は物凄い勢いでスライムに直撃した。巨大な光玉の直撃を受けたスライムは、哀れにも瞬く間に消滅した。
「今だ!畳みかけろ!!」
朋子の光玉で一気に三分の一程消したスライム。ここが好機とマルティーヌは誠と騎士たちに指示を出す。
「俺だってやってやらァ!【紫電閃光】!!」
誠は朋子に負けじとスキルを放つ。
誠が剣を一閃すると、紫の斬撃がスライムを襲う。そしてスライムは一匹残らず消え失せていた。
「よっしゃ!」
初めて使ったスキルが成功し、誠はガッツポーズを取る。
「よくやったな、サトウ。」
珍しくマルティーヌにも褒められ、誠は嬉しそうに笑う。
「しかし。探索はまだまだこれからだ!引き続き気を引き締めて行け!」
「はい!」
そして時折遭遇するスライムを蹴散らしながら更に進んで行くと、またもや階段が現れた。
「おお!また階段があった!ここから次の階層かぁ。」
誠はしみじみと呟く。
「次の階層には豚のような魔物が彷徨いている。そこそこ強い。決して油断をするなよ。」
マルティーヌに注意を受け、思わず誠と朋子は顔を見合わせる。豚のような魔物って…いわゆるアレだろうか?
そして階段を下りると、今度は鬱蒼とした森が広がっていた。そして暑い。その様子はまるでアマゾンの密林を思わせる。
「うへぇ、暑っちい〜〜!俺、暑いの苦手なんだよな〜」
早くも誠が愚痴りだす。
「誠…」
そんな誠の様子に朋子は呆れたような顔になる。とはいえ、そういう朋子もこの暑さには辟易しているが。まあ誠は鎧を着込んでいるので余計に暑いのだろう。と、その時
「来たぞ!」
マルティーヌの鋭い声が飛んで来る。
誠と朋子も警戒しつつ辺りを見回す。すると魔物が木の陰から飛び出して来た!
「おわ!」
いきなり誠の真横から豚のような魔物が襲いかかり、咄嗟に反撃する誠。
「吃驚させんな、この豚野郎!!」
猛然と反撃する誠。
「うわぁ~、来るな!【光玉】!」
朋子も光玉を一心不乱に連発する。この光玉も前回とは比べ物にならない程威力が増しており、これで充分魔物を圧倒し倒している。
この二人の成長を、マルティーヌ始め騎士たちは満足げな笑みを浮かべている。
そして、この魔物も問題無く討伐を終えた。