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勇者・聖女、ダンジョン探索する

 勇者・聖女たちの鼻っ柱が圧し折られたエム・カズミ遺跡の探索。

 自分の不甲斐なさを思い知り、心を入れ替えて訓練に励んだ佐藤誠と松尾朋子に平山香織。そして怖気づき蹲って立ち上がる事が無かった清水明彦と谷川哲郎。そしていつまでも我儘ばかりの中尾和美。

 あれから数ヶ月が経ち、前者と後者で歴然とした実力差が浮き彫りになった事で周囲の対応にもはっきりと差が出て来た。




「ふむ。サトウとマツオ、お前たち二人はそろそろダンジョン探索に出ても良さそうだな。」

 その日の訓練を終え、騎士団長のシモン=ヴェールにそう告げられた佐藤誠と松尾朋子。

「!」

 二人は思わず顔を見合わせ、それからシモンと副団長のマルティーヌ=グレダをまじまじと見つめる。

「この数ヶ月、お前たち二人は真面目に訓練に取り組み力を付けた。そろそろ力試しをしてもいい頃だ。」

「………」

 マルティーヌにそう言われ、佐藤誠と松尾朋子は思わず涙が溢れそうになる。




 あのエム・カズミ遺跡での体たらくに自らを恥じ、必死に訓練に臨んだこの数ヶ月。その甲斐あって佐藤誠は剣技を始めいくつかの攻撃魔法やスキルを覚えたし、松尾朋子は中級の光魔法や回復魔法を覚える事が出来た。今では“閃光”は得意魔法である。




 この二人の傍らで悔しげに唇を噛むのは平山香織。彼女は今回のダンジョン探索に指名されなかった事に軽く屈辱を覚えていた。

 平山香織はどちらかというと松尾朋子に張り合う形で訓練を受けて来た。そのせいか、松尾朋子に比べ光魔法や回復魔法の習得が遅く精度も良くない。

 しかし平山香織本人は松尾朋子に引けを取らないと思っており、今回の決定に納得がいっていない。

 “何で朋子だけなのよ…?” 

 自分だって訓練に励んで実力を付けてきたのに!と。




 因みに今回のダンジョン探索に平山香織を外したのは彼女に未だ聖女としての自覚が足りないと判断された為だ。

 創造神の意に反し、勇者・聖女召喚をやらかしたエスターシェンには何があっても勇者・聖女を使い捨てるような真似は出来ない。

 現状に於いてはこれも必要な事と必死に説明し、学問の女神エスターシャを通して創造神に承諾して貰っている。故にどれだけ彼らの扱いに手を焼こうとも粗末に扱えないのだ。




 前回のダンジョン探索で彼らに勇者・聖女としての自覚が皆無である事がはっきりした。しかし、それを恥じ自ら立ち上がったのは佐藤誠と松尾朋子の二人だけだった。

 この二人はあれから勇者・聖女とは何かと自らに問い考え続けそしてそれが一つの形になってきた。それを踏まえある程度自覚が芽生えたと判断され、国王の許可が下りたのだ。

 しかし、平山香織に聖女の自覚が芽生えた兆しは見えなかった。故に今回は見送られたという訳だ。




「…いよいよだな。」

 本日は待ちに待ったダンジョン探索の日だ。佐藤誠と松尾朋子は今回探索するダンジョン“ワットソー洞窟”を見つめる。

「…上手く行くといいわね。」

 松尾朋子は、期待と不安が入り混じった眼差しで洞窟を見やる。

 



 前回のエム・カズミ遺跡の失敗が頭を過る。あれから真剣に訓練に取り組み力を付けてきたが、いざダンジョンを前にすると前回の事が思い出されてしまう。

「…怖いのか?」

 無意識に身体が震えていた松尾朋子は佐藤誠にそう指摘されハッとなる。

「そんな事!…ううん。ある、かも。…そういう誠は平気なの?」

 自分の気持ちを素直に認めた松尾朋子は、佐藤誠に聞き返す。

「大丈夫、さ。…多分な。」

 佐藤誠もまた前回の失敗が脳裏に浮かび、曖昧な返事を返す。




「お前たち、心配いらない。」

 そんな二人の様子を見て、マルティーヌが声を掛ける。

「マルティーヌさん…」

 二人はマルティーヌを見つめる。

「二人とも、あの時とは違う。あれから真剣に訓練をこなし実力を付けた。慢心は禁物だが、今のお前たちなら大丈夫だ。自信を持て!」

 マルティーヌは二人にそう告げる。 

「はい!」

「うむ。ではそろそろ行くぞ。気を引き締めろよ!」

 そして佐藤誠と松尾朋子はマルティーヌ率いる騎士団と共にワットソー洞窟に足を踏み入れた。  

 







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