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勇者・聖女たちの今

「とお!」 

「は!」

 エスターシェンの王宮は訓練場に掛け声が響く。

 エム・カズミ遺跡での魔物討伐を終え、しばらくの間勇者・聖女たちは惨憺たる結果に打ちひしがれ、意気消沈していた。

 エム・カズミ遺跡で鼻っ柱を完膚無きまで叩き折られた勇者・聖女ら。しかしこのままではいけない!と、いち早く立ち上がったのは一応リーダー格の佐藤誠であった。



 佐藤誠はこれまでの傲慢な態度を改め、あれ程馬鹿にしていた騎士たちに頭を下げ稽古を付けて貰える事になった。

 佐藤誠の激変ぶりに当初は懐疑的だったシモンとマルティーヌだが、誠が一心不乱に訓練を受ける様子を見て、彼の意志が本物である事を確認した。

 今ではシモンとマルティーヌも率先して稽古を付けている程だ。



「もうヤダ〜、お家に帰りた〜い!」

 中尾和美がボヤく。

「なら帰ったらいいじゃない。」

 冷たく応じるのは平山香織。

 この世界に召喚されてから和美と香織は表面上は仲良くしていたが、内心ではお互い蔑み合っていた。特に中々覚えられなかった初級魔法(光玉)をようやく覚えてからは、ライバル意識からか見るからにギクシャクしていた。

「それが出来ないから、ここでこうしているんじゃない!」

 和美が頬を膨らませる。


 

 そんな中、松尾朋子は一人部屋で考えていた。

 “私、きちんと訓練を受けたら正真正銘の聖女になれるかな?”

 というのもあの遺跡で効かないと知りながら必死に光玉を撃っていたら、ほんの僅かだが魔物に効き出したように見えたのだ。

 結局、同行していた光魔法の使い手が閃光を放ったが、あの中で自分も僅かに成長したように感じていた。

 朋子は意を決して立ち上がり、自分に訓練をつけてくれる人物の元へ足を運ぶ。



 残る二人、清水明彦と谷川哲郎は未だに部屋に閉じこもり打ち震えている。

 自分たちは勇者で誰よりも強い筈だったのに…

 なのにダンジョンの魔物にいいように翻弄され、自分たちの攻撃は全く通らなかった。

 その事で完璧に自身を喪失してしまったのだ。

 “自分(勇者)はスーパーヒーローの筈なのに?”

 未だそこから抜け出せない二人だった。



「ほら、食事だ。」

 未だ意気消沈してウジウジするばかりの勇者・聖女を敬う者は最早誰一人いない。

 自分の過ちを認め、歩き出した誠と朋子は別にして城の人間は勇者・聖女の世話を最低限に抑え、後は知らんぷりしている。

 勇者・聖女らはその事に憤慨するも、皆何処吹く風である。



「もぉ~!なんなのよ、アイツらのあの態度!!」

 和美は特に怒り狂っている。彼女は元の世界では、ちょっと可愛らしい見た目で周りからチヤホヤされていて何でも思うがままだった。だから何でも自分の思い通りになるのが当たり前で、こちらの世界でもそれが通じると思っていたのに…

 討伐では聖女である自分の魔法が一切効果が無かった。

 故に和美は今の状況が許せない。

 “私は聖女”なのに…?”

 そこからいつまでも抜け出せない和美である。 

  


 平山香織は腹を立てていた。

 “和美はいつまでも煩いし、朋子は何やら抜け駆けしているし。”

 香織とてこのままじゃ駄目だと思っている。

 “あの遺跡で、私たちの魔法も攻撃もまるで効かなかった。”

 これは何故か?魔物が想定外に強過ぎた?勿論それもあるだろう。しかし…

 “私たちが、弱い…”

 認めたくはないが、それは紛れもない事実だ。

 思えば自分たちはまともに訓練を受けて来なかった。 

 “私たちは召喚された聖女(勇者)だから、初めから最強の力を有している。そんな風に思っていたけれど。” 

 そんな事は無いと、今回の討伐で思い知った。



 ネット小説なんかではそういった設定がよくあるので自分たちもそうだと思い込んでいた。

 しかし、現実はそんな甘くは無かったという事か。

 香織は溜め息を吐く。

 “努力、かぁ…” 

 これから一心不乱に努力して、聖女としての力を身に着けなければならないのは分かっているが…

 “面倒臭いなぁ~”

 香織は基本的に努力は嫌いなのだ。

 更には朋子が既に頭を下げ、訓練している事も中々言い出せない要因だったりする。

 とはいえこのまま朋子に差をつけられていくのも業腹である。

 “仕方無い。朋子の真似みたいで凄く嫌だけど…”

 香織はこれから聖女としてやっていくべく、今朋子が訓練しているであろう場所に足を向ける。


 

 

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