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新たな仲間

「という訳なの。」

「………」

 本日この世界にやって来た私は、どうやら待ち構えていたらしいシンシアちゃんに開口一番新たな転生者、アグネス=ハリソン改めアニー=ヒルトンを紹介された。



 シンシアちゃんの話しによるとこのアグネス=ハリソンはシンシアちゃんがやられた断罪イベントの“ヒロイン”役だったそう。

 そんな人物を快く受け入れているシンシアちゃんの懐の大きさに驚いたけど、詳しい事情を聞くにつれ何となく心情が理解出来たかも知れない。



 アグネス=ハリソン男爵令嬢は元々、自分の力で男爵様になるのが夢だったそう。

 その為に日々努力を重ねていたけど、ある時パトリック=リンデル公爵令息に見初められ恋仲になり、断罪イベントを決行。

 その結果パトリックとアグネスはリンデル領に送られ、下男・下女として働く事になったらしい。

 


 パトリックは日々不平不満を漏らすばかりで仕事に一切身が入っていなかったが、アグネスの方は嬉々として仕事に励んだそう。

 そしてその仕事ぶりが評価され、この度見事男爵令嬢に返り咲いた、と。 



 因みに男爵令嬢に返り咲く際、これまでの柵を一掃する目的で名をアグネス=ハリソンからリンデル領での愛称、アニーから正式名としてアニー=ヒルトンとしたんだって。

 そして現在はリンデル公爵家とディレノス公爵家を後見として、男爵に叙爵されるべく奮闘しているとの事。



 それより私が一番驚いたのが彼女の前世。

 森口真紀というOLは、私が勤務している工場での経理の人だった。

 彼女とは特別親しかった訳では無いけれど、顔を合わせればにこやかに挨拶する程度には良好な関係だったと思う。

 偶に昼食を一緒に食べる時があって、その時に彼女の夢を聞いた事があった。

 彼女は女起業家になって世界中を飛び回りたいと言っていた。今はその為の経験積みの最中何だと笑っていた。



 真紀さんは会社での仕事の合間に、色んな講座やセミナー、資格試験など様々な事をやっているとか聞いた時は本当に尊敬した。

 そうやって日々寝食を削り、頑張り過ぎた真紀さんは過労で倒れ、そのまま退職したと聞いていた。

 真紀さんのその後は凄く気になっていたけれど…



 そして、私の小説世界でまさかの再会。沙織や朝香ちゃんや他の皆と再会する度に信じられない、でも嬉しい!という気持ちになる。



「ふふ、吃驚した?」

 シンシアちゃんの表情はしてやったり!とでも言い出しそうな、まるで悪戯が成功した子供のようだ。

「そりゃ、もう…」

 私は苦笑する。

「私も最初聞いた時は驚いたもの。」

 シンシアちゃんもそう言って微笑う。

「悪役令嬢側で無く、まさかヒロイン側の転生者にこっち側の人がいるなんて想定していなかったもの。」

 まあそうだよね。



 私にしたってヒロイン側に転生者がいる事を想定していたけれど、それはあくまで対立する立場の人だっていう先入観みたいなものは確かにあった。 



「これはやっぱり貴族令嬢だけでなく、庶民にも私たちの仲間が転生している可能性は高くなったわね。」

 シンシアちゃんの発言に私もアニーさんも頷く。

「けど。ここまで来ると何だか出来過ぎな気もするけど…」

 私はポツリと呟く。

 これまでも薄々思っていたのだけれど…現実世界での私の知り合いの死亡率、やけに高くない?

「確かにそれは言えるかも…」

 シンシアちゃんは困った表情で返してくる。

「これも、“悪意ある侵略者”の仕業、なんて言わないよね?」

 もしそうならば、私はどうすればいい?

 

 

「大丈夫よ、美奈子ちゃん。」

 アニーさんが不意に塞ぎ込んだ私の手を取り、顔を覗き込んでくる。

「もし、前世の私たちの死がその“悪意ある侵略者”の仕業だったとしても、それは美奈子ちゃんのせいじゃない。」

「真紀さん…」

「それはあくまで“悪意ある侵略者”がやった事。美奈子ちゃんが責任を感じる筋合いでは無いわ。」

「………」

 本当に、そうだろうか?

「そうよ。そもそも美奈子ちゃんはこの世界を舞台にしたお話を書いていただけ。美奈子ちゃんはこの世界では創造神でも、あちらの世界ではごく普通の人間なんだもの。」



 そう。この世界では私は創造神だけど、現実世界ではただの人間なんだ。

「だから。余り創造神だからと肩肘張らずに、もっと私たちや女神様を頼っていいと思うのよ。」

「そうよ、美奈子ちゃん。」

 シンシアちゃんも私の手を取る。

「私だって美奈子ちゃんの力になりたい。これはロザリーもソニア様やハルモニア様、他の皆だって同じ思いよ。」   

 シンシアちゃんは真摯な瞳で私の目を見つめる。

「うん。ありがとう。」

 これまで自分はボッチだと思っていたけれど…私にはこんなにも頼れる人がいたんだと、ようやく理解出来た気がした。

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