真実の愛の末路〜パトリック&アグネス6
「では、今日はこれまで。」
「ありがとうございました。」
アグネスが屋敷の部屋に移ってからおよそ三ヶ月。アグネスは男爵令嬢に復帰する為に、改めて教養を身に付けるべく家庭教師が付けられている。
あの後、男爵になりたいというアグネスの夢を知ったビアンカが手配したものだ。
断罪事件の後に行われた追跡調査によると、元々アグネスはパトリックと知り合う前は真面目で勤勉な優等生だった。庶民の学校で最高峰であるアンスリウム学園において模範的な生徒であったらしい。
ハリソン男爵家は庶民寄りの男爵として有名である。そしてアグネスは姉マリアンネ共々、庶民の間では親しみ易いお嬢様として受け入れられていた。
それだけに、そのアグネスが断罪事件を起こした事は衝撃であったらしい。
調査の過程で、アグネスを知る庶民たちは『何かの間違いだ』『あのお嬢様に限ってそんな事は有り得ない』という証言が続出し、調査した面々は困惑していた。
そして改めてパトリックとアグネスの関係を調べる内に、調査員たちはある疑惑を持った。
即ち“パトリックはシンシアとの婚約破棄を目論み、アグネスを利用したのではないか?”と。
元々パトリックがシンシア=ディレノスとの婚約を毛嫌いしていたのは周知の事実であった。
パトリックは常々、どうにかシンシア有責で婚約を破棄したいと考えていた節がある。が、シンシアは非の打ち所のない令嬢であり、中々機会が訪れなかった。
そんな折に流行り出した断罪イベント。後の調査でパトリックは、ソニア=スピレイが被害に遭った頃からこれを利用出来ないかと目論んでいた事が判明した。
アグネスと知り合ったのは、アンスリウム学園の生徒が交流を目的として訪問した時だったらしい。
年に数回行われる訪問は、当然ながらアンスリウム学園で模範的な生徒である。
その時にアグネスに一目惚れしたパトリックは、その日の内にアグネスを口説き落とそうとしていた。それは何人もの目撃者がおり、間違いは無い。
当初アグネスはパトリックを相手にしていなかったが、余りのしつこさに根負け、或いは絆されて次第に付き合うようになっていったらしい。
そしてパトリックと付き合う内にアグネスもまた感覚が麻痺していったのだと思われる。
「お疲れ様、アニー。」
今日の講義とレッスンを終え部屋に戻る途中、パメラと会いそう声を掛けられる。
「アニー。お嬢様の勉強と使用人の仕事の両立、頑張っているわね。」
パメラが感心した表情だ。
「うん。でも楽しい。」
そう、楽しいのだ。勉強も仕事も。
今となっては何故パトリックに惹かれたのかが分からない程である。
「領主様や公爵様が私の夢を応援して下さっているんだもの。しっかりやらなくちゃ罰が当たっちゃうわ。」
アグネスがそう微笑うと
「アニーって偉いのね。」
しみじみとパメラが呟く。
「え?」
アグネスは目を瞬かせる。
「あ!嫌味じゃないのよ!」
パメラは慌てて言い添える。
「アニーって、きちんと自分の目標を持って頑張れるんだもの。それ、言うのは簡単だけど…実行に移すのは中々むずかしいわよね。」
「…私は一度、取り返しのつかない過ちを犯したのよ?本当なら、もう二度と追いかけることは許されない夢なの。でも、領主様と公爵様がそれを許して下さったから私はもう一度その夢を追う事が出来るの。それを絶対に忘れてはいけないと思っているわ。」
そう語るアグネスをパメラは
「大丈夫。アニーなら絶対にやり遂げられる!領主様や公爵様だけじゃなく、私もミリアもローザさんも皆、アグネスを応援しているわ!!」
「…ありがとう。」
アグネスは心から礼を述べた。
その後アグネスは晴れて男爵令嬢に戻ると共にパトリックと離婚。
王都に戻ってシンシアに心から謝罪した後、シンシアを始め彼女の仲間たちと親交を深めていく事になる。