真実の愛の末路〜パトリック&アグネス3
「んじゃ、行って来ま〜す!」
今日はアグネスの休日だ。
本来パトリックとアグネスの二人には休日は認められていなかったが、この地に来てからのアグネスの仕事ぶりが評価され、王都のリンデル公爵の許可も得て晴れてアグネスに休日を与えられたのだ。
そしてアグネスは、休日にリンデル領をもっと知りたいと領内の散策を許可されたのだ。
尚、当然ながらパトリックにはこの措置はなされていない。なので、小屋を出る際に滅茶苦茶文句を言われたが知った事ではない。
「ふんふんふ〜ん♪」
アグネスはご機嫌で、道を歩いている。そして今着ている服は、領内を散策するならと領主のビアンカが用意してくれた散歩着である。
シンプルかつ可愛らしいデザインで、上質な生地で仕立てられた服は非常に着心地良くアグネスはとても気に入っている。
「おや、アニー。散歩かい?」
途中、行き合った領民に声を掛けられては
「こんにちは!今日はお休みを貰ったから、領内を探索するの!」
そう返事を返すと
「そうかい?良かったねぇ。」
と領民もニコニコと返してくれる。中には
「あっちに行くと花畑があるよ。今の時期はピンクと紫の花が一面に咲き乱れてとっても綺麗だよ。」
と、見所を教えてくれたりもする。
「ありがとう。早速行ってみるね。」
そう返すと
「ああ。楽しんでおいで。」
領民たちはニコニコと楽しそうに歩くアグネスを優しい眼差しで見送る。
アグネスたちがこの地に送られてから約二ヶ月。顔を合わせる度に何かと手伝ってくれるアグネスを領民たちは可愛がっている。
今回アグネスが休日を貰えたのも、実は領民からの陳情があっての事だった。
領主のビアンカもアグネスが屋敷での仕事ばかりでなく領内での仕事も手伝っている事を把握していた。
なので丁度アグネスに対し待遇の改善を考えていた所だった。
パトリックとアグネスの処遇に関しては王都にいる母にお伺いを立てなければならないが、まず却下される事は無いと思う。
この二人の事は王宮の判断も絡む為すぐにどうこうは出来ないが、王都側も独自の情報網を持つ。ビアンカからも逐次報告を上げているし、母や王宮はこちらに来てからの二人の様子は把握している筈だ。
真剣に頑張るのなら自分や母たちも鬼では無いのである。
「うわぁ~、綺麗〜!」
教えて貰った花畑にやって来たアグネスは感嘆の声を上げる。
「お花、可愛い〜!」
前世では見た事が無い(多分)花の名前は分からないが、可憐な花が咲き乱れる様は正に圧巻である。
この花畑には小道が通っており、花の中を通り抜けられるようになっている。
「♪♪♪」
まるで花の精にでもなった気分で花畑の中を通り抜けると、ふとそれが目に入った。
「?」
それは洞窟というには少々不自然な横穴が、花畑を通り抜けた先の土壁にポッカリと口を開けていた。
「何これ?」
アグネスは不思議に思い、横穴に近づき恐る恐る中を覗いてみる。
「………」
中は真っ暗で何も見えないが、アグネスは妙な違和感を持った。
そのまま息を詰めて中をじっと見ていると、
「…、…、…、」
何やら鳴き声のような、風の音のようなものが微かに耳に入ってくる。
「………」
アグネスは恐怖が込み上げてくるも、同時に怖いもの見たさでそのまま目を凝らし続ける。
すると
「!」
次第に何やら光るものが奥の方から出て来た。しかも一つ二つでは無い。最初は数個程度であったソレは、徐々に数を増やし洞窟の奥を埋め尽くさんばかりに膨れ上がる。
「ひ!」
流石に恐ろしくなって踵を返すと、プチャッと何かを踏み潰した感触があった。
「…?」
アグネスは恐る恐る足元を見ると…
何やら半透明な物体がアグネスの足元で潰れていた。
“え?…何これ?”
アグネスが恐怖で立ち竦み、辺りを恐る恐る見回すと…
“え?これって…”
半透明で水滴のようなボディに目が付いたその生き物?が数匹?アグネスの足元でポヨンポヨン跳ねていた。
“もしや…”
アグネスは息を飲む。その妙な物体はゲームでお馴染みのアレのように見える。
“スライムって奴じゃ…?”
そう認識するや否や
「ぅうっ、ぎゃーーーーー!!」
アグネスの悲鳴が響き渡った。
騒ぎを聞きつけた領民が屋敷に通報し、駆けつけた騎士たちによってその周辺は封鎖され、何度も調査が行われた。
そしてここで確認されたスライム状の魔物は“リンデルの雫”と喚ばれるようになった。