真実の愛の末路〜パトリック&アグネス2
「皆さん、お疲れ様で〜す!」
今日も元気にアグネスが仕事場の皆に挨拶する。
「お疲れ様。」
「お疲れ様、アニー。」
このリンデル領にやって来て一月経とうとする頃、アグネスは仕事場の人たちからアニーと呼ばれるようになっていた。
「お疲れ様です、パメラさん。今日も綺麗ですよ!」
アグネスがニッコリ笑ってパメラにそう言うと
「もう〜!アニーったら!」
仕事場で比較的歳が近いパメラ=エヴァンズは照れてアグネスをバシッと叩く。
「そんな照れなくてもいいじゃないですか~?パメラさんは本当に魅力的なんだから。やっぱり素敵な旦那様がいると、女性は綺麗になるんですね〜」
「も、もう〜!それを言うならアニーだって…、あ!」
パメラは慌てて口を押さえる。
「構いませんよ、パメラさん。…事実ですから。」
とニッコリ笑うアグネス。
この地にパトリックとアグネスが来ることになった経緯を、この屋敷の使用人たちも聞いている。
この二人が実際にこの地に来るまで、どんな高飛車で高慢な人物がやって来るのかと思いきや…
パトリックは予想に違わぬ人物であったが、アグネスは初見こそ予想通りだったものの、実際に交わってみれば中々気さくな働き者であった。
最初こそアグネスを遠巻きにしてなるべく関わらないようにしていた使用人たちも、懸命に全力で仕事をこなすアグネスにいつしか好感情を持つようになっていた。
それに気づいたアグネスは非常に喜び、増々仕事に身を入れるようになった。
この事はリンデル領領主であるパトリックの姉ビアンカ=リンデルの耳にも入っており、今後の待遇について考慮する心積もりのようだ。
そんな時、下男・下女を監督するジェフリーからアグネスが領地の収獲の手伝いに行きたいという申し出があったと伝えて来た。
聞けばアグネスは普段から領民たちとの交流があり、お使いで屋敷の外に出た際は大体何かしら領民の手伝いをしており、領民にも可愛いがられているらしい。
その一環で、この地の名産である野菜の収獲が行われると聞いて是非とも参加したい!と熱意を持って訴えられたという。この地では色々な野菜が栽培されているが、今回はキャベツを収獲するとの事。
ビアンカは一人付き添いが付く事を条件にアグネスが収獲の手伝いに行く事を快諾した。何はともあれ収獲は大事な仕事である。人手は多いに越した事は無いだろう。
当日、アグネスは付き添いとして屈強な身体つきをした守衛のジョニーを連れて、収獲現場にやって来た。
この付き添いにはパトリックがやたらと付きたがったが、ビアンカ始め屋敷の皆の猛反対を受け、敢え無く撃沈していた。
アグネスもパトリックの目論見などお見通しだったので、当然にべもなく断った。
作物の収獲は中々の重労働なので、遊び半分で付いて来られては非常に迷惑だし邪魔である。
そして始まった収獲。皆、鎌を手に青々と豊かに実ったキャベツ畑に足を踏み入れる。
アグネスも農家の老婦人に収獲のやり方を教わりながら丁寧に刈り取っていく。
一つ、二つ、三つ…
一つ一つキャベツを収獲する毎に少しずつ要領が分かってきた。
自分の横でジョニーが黙々とキャベツを収獲していく。ジョニーは何度も手伝った事があるらしく、手つきも慣れたものである。
“身体はキツイけど、楽しい!”
アグネスは無心でキャベツを収獲していく。
そして、これまでで一番大きなキャベツに遭遇。
“おおぅ!これは!”
アグネスは大興奮し、無我夢中でそのキャベツに挑む。
そしてデカキャベツと格闘する事約数分。遂に
「穫ったどーーー!!」
思わずデカキャベツを頭上に掲げ、宣言する。
アグネスのその様子を見て、周囲はくすりと微笑い、盛大な拍手を送るのだった。