召喚された勇者・聖女の日常
「はあ?んなかったるい事やってられっかよ!?」
エスターシェンの王宮に今日も不機嫌な怒号が響き渡る。
何はともあれエスターシェンも召喚された勇者・聖女たちにこの世界の歴史や常識、教養や魔術・武術を会得して貰おうと、国で最最高峰に位置する講師陣を用意したのだが…勇者・聖女の誰一人として真面目に受講する者はいなかった。
「し、しかし…せめて魔術や武術だけでも…」
文官が必死に説得するも、彼らには全く聞く耳が無い。
特に日本で柔道をやっていた佐藤誠は、
「俺たちは勇者だぞ?わざわざテメエらに教わらなくたって、勇者は完璧なんだよ?あぁ?分かってんのか?」
とメンチを切る始末。その上
「ちょっと!召喚されたのは勇者だげじゃないでしょ?私たち聖女だっているんだから!」
と息巻くのは中尾和美。
「私たちは聖女なのよ!分かる?せ・い・じ・ょ!なのよ!!なのに何であんたたちはそんな上から目線な訳?」
それに平山香織がウンウンと頷く。
「そうよねぇ。私たちは聖女としてこの世界に召喚されたんだもの。もっともっと敬われて然るべきだと思うんだけど…」
そう言い放ち、フウッと大仰に為にを吐く。
「これは…異世界人召喚は失敗だったかも知れません…」
頭が痛いとばかりに額に手を当てるエスターシェンの宰相のフランク=ウェルト侯爵か唸る。
「しかし…判定では間違いなくあ奴らは勇者・聖女だという事だったが?」
訝しげに首を傾げるエスターシェン国王アルベルト=クロウ=エスターシェン。
「確かにその通りなのですが…」
フランクは深い深い溜め息を溢す。
「そもそも我々が異世界人召喚に踏み切ったのは、ここ最近で急激に増えてきた“ダンジョン”なる未知なるものへの対策の為でした。」
「そうだの。」
「原因不明のこの現象に、神殿ですら事情を掌握しておらず、創造神ですら子の現状に心当たりが無いという事。」
「…お主、そんな事まで把握しておるのか…」
国王は感心したような、呆れたような表情だ。
「はい。」
フランクは澄まし顔で答える。
「それはさておき。召喚された勇者・聖女共は創造神の本来のは世界から来たと推測されます。ですので…」
ここで宰相は思わせぶりに言葉を切り
「この際ですから創造神が時折降り立つというミナティリアに奴らを押し付けては如何かな?」
「…上手くいくか?」
国王は首を傾げる。あの国は本当に油断がならない。周囲を上手く丸め込んでも、あの国の女王サフィニアには何故か看破され、断られていた。
「ほらほらどうした?もう終わりか?」
召喚された勇者一同、エスターシェン自慢の王宮騎士団・第五騎士団団長エドウィン=シルにコテンパンに打ちのめされていた。
因みに聖女の方は王宮魔導師団にみっちりと魔法の訓練を受けていた。
「ほら、やってみて下さい。」
彼女たちは聖女なので、光魔法・回復魔法を重点的にレクチャーされているのだか…何故か未だに魔法を習得しない。
「なあ、まだなのかよ?」
ある日、突然佐藤誠が文官に絡んでいた。
「俺たち、いつになったら魔物退治に行ける訳?」
誠はあからさまに現状にウンザリしていた。一日でも早くも文字を読み解けたり、退屈な話を延々と聞かれる。
結局、勇者・聖女の不平不満に押し切られ、魔物討伐とダンジョン(仮)の調査に勇者・聖女たちを連れて行く事になったエスターシェン。
彼らの悲劇はこから始まった。