召喚された勇者・聖女の実態
その場は光に包まれた。
「おお、成功だ!!」
光が収まると、数人の男女がその姿を現した。
「え?」
彼らは戸惑いの表情で辺りを見回している。
「おお!ようこそお出で下さいました、勇者・聖女様方!!」
それを聞いて男女は声のした方へ一斉に視線を向ける。
「…はい?」
彼らは一様に驚きの表情を浮かべる。
「勇者?」
「聖女?」
その顔は何処かニヤニヤしつつも未だ不思議そうだ。
「はい。どうか、この世界を救って下さい!」
「って言ったよなぁ?オマエら?」
怒り心頭といった表情で文官に詰め寄るのは、召喚の儀式でこの世界に呼び出された佐藤誠。
「世界を救えって言うから協力してやろうって言ってんのに。何だよ、その態度は!?」
「も、申し訳ありません!」
「申し訳ありませんで済んだら警察はいらねーんだよ!」
そう言うなり誠は文官に丁度手にしていたグラスを投げつける。
「!」
幸いコントロールが悪く文官の横を抜けていったが…
「テメエ、避けんじゃねぇ!!」
と更に熱り立つ。
さて。一体何故誠がこんなにお怒りなのは、美奈子たちの予想通り楽しい冒険が出来ないからである。
召喚された勇者・聖女の醍醐味というのは冒険しながら世界を巡り、魔物を討伐しながら力を付け、魔王若しくは“悪の親玉”を倒し、英雄と呼ばれ、思いのままに生きる、というものだろう。
しかし現実は魔物は存在せず、ダンジョン(仮)が各地に出現しているのみだと言う。
まあ、その中には凶暴な魔物が棲み着いているようだが…それだけだ。はっきり言って何の面白味も無い。
それでわざわざ召喚をやらかすとか…この世界の人間はどれだけ他力本願なのか?そう思わずにはいられない。拍子抜けもいい所だ。
そう思うのは何も誠だけでは無い。誠と一緒に召喚された清水明彦に谷川哲郎、中尾和美に平山香織、松尾朋子も誠ほど感情的にならないものの、同じように思っている。
更に自分たちは世界を救う為に勇者・聖女として召喚されたのだから、優遇されて当然だと思っている。その為か、思い通りに冒険・活躍出来ない鬱憤も溜まって、段々と態度が傍若無人なものになっていく。
そんな勇者・聖女を持て余し始めた召喚国エスターシェンの王宮は、総合神殿に彼らの身柄を引き取って欲しいと打診した。
しかし当然ながら異世界人召喚など寝耳に水の神殿はその申し出を断わった。
神殿はエスターシェン王宮の独断専行に大いに立腹し、助力・協力を拒否した。
その為、ダンジョン(仮)の探索に紛れ込む事も出来ずに、勇者たちの力を付ける唯一の機会を失った。
当然ながら勇者・聖女たちの不満は凄まじく、日々傍若無人さが膨張していく。
この状況を危惧したエスターシェンは、創造神が時折降り立つというミナティリア女王サフィニアに勇者・聖女たちの身柄を引き取って貰うよう交渉したが、のらりくらりと躱されやんわり拒否された。
万事休すとなったエスターシェンは、次は創造神に直接頼み込もうと虎視眈々と機会を伺うも、中々出会さない。
エスターシェンは最早彼らの方が世界に仇なす怪物に成り果てた勇者・聖女を抱え、どうにか持ち直そうと今日も足掻き続ける。