ダンジョン(仮)を調査する2
「では、参るぞ。」
ここはディレノス公爵領に出現したダンジョン(仮)の前である。
前回調査の為に入ったクレアとエマの報告により、急遽ソディリカ神殿の神官数名と現地騎士団、そして剣の女神ソディリカという編成で今回の調査に挑む。
中に入ってしばらくすると、階下へ伸びる階段が姿を現した。
「皆、気を引き締めて参れ!」
ソディリカが先頭に立ち、慎重に歩を進めて行く。
「皆、気をつけよ。」
階段を下りきり真っ暗闇の中、一行は慎重に慎重に進んで行く。
神官のマヤが光魔法を使い辺りを仄明るく照らすと、明らかに騎士たちの表情が緩やかにになる。
「気を抜くでないぞ。」
騎士たちのそんな様子にソディリカは注意をする。
それから、どれ程歩いたか…不意にソディリカが険しい表情になり周囲を見回す。
「皆、止まれ!」
ソディリカは足を止め、警戒を強める。
「ソディリカ様?如何なされましたか?」
神官のメリルが訝しげに問いかける。
「し!」
ソディリカは前を凝視したまま指を口に当て
「…魔物がいる。 皆、心せよ!」
「!」
ソディリカが睨むその先には、夥しい数の蜘蛛の化け物が辺りを覆い尽くしていた。
「皆、大丈夫か?」
ソディリカは夥しい数の蜘蛛を蹴散らしながら、周囲の状況を確認していく。
「しかし…何だこれは?」
ソディリカは苛立たしげに蜘蛛を斬り付け、斬っても斬っても一向に減らない蜘蛛の化け物に辟易する。
ただでさえ蜘蛛なので、一匹いるだけでも生理的嫌悪があるのに、それが無数にウジャウジャ蠢いているのだ。しかも一匹一匹がバスケットボールくらいの大きさがあるのだ。気持ち悪い事この上ない。
当然神官たちも騎士団たちも顔を引き攣らせながら、蜘蛛に斬り掛かっている。
“これは、埒が明かないな。”
蜘蛛は斬っても斬っても何処からか湧いて出てくる。最初から減ったどころか、下手をすれば増えているかも知れない。
こんな事ならフレイジアかソランツァを連れて来れば良かったのかも知れない。
洞窟のような場所で過度に火を使うのは危険だが、ここまで気持ち悪い蜘蛛がひしめき合っているのならば、いっその事焼き払った方が間違いなく効率は良いだろう。
「は!」
ソディリカは気合を込めて目の前の蜘蛛を纏めて斬り伏せる。
それでも蜘蛛の数は減った様子は無い。しかし、こちらの消耗も中々激しい。神官はまだ余力がありそうだが、騎士たちの体力・気力はかなり削られている。
“全く。きりがない。”
このままではジリ貧だ。ここは一度撤退して態勢を調えるべきか…?
そんな事を考えていた時
「どうやらお困りのようね。」
光の女神ルクシアナが現れた。
「ルクシアナ…?」
ソディリカは一瞬ポカンとするも、その間も決して剣を振るう事を忘れないのは流石と言うべきか?
「ミナティ様とサラマンディアの願いによって、光の女神ルクシアナ、ここに参りました。」
ニッコリと笑うルクシアナ。
「………」
ソディリカは無言のままだ。この光の女神、清純そうな顔で色々ヤバい強かな女神だ。尤も女神というのは大なり小なりそんなものではあるが。
何はともあれルクシアナは怒っていた。
この美しい世界に醜悪な異物を送り込み、この世界をぶち壊そうとする悪意の元凶に猛烈に腹を立てていた。
「まず手始めに、あなた達の殲滅といきましょうか。」
そう呟き、ニヤリと嗤うルクシアナ。
「一度で終わらせますわ!皆様、伏せて目を閉じて下さいませ!!」
この言葉を聞いた途端、
「皆、伏せて目を閉じろ!!」
慌ててソディリカが周囲に叫び、自らも伏せて目を閉じる。
「行きますわよ!『閃光』!!」
次の瞬間、猛烈な光が充満する。
「もうよろしいですわよ。」
ルクシアナの声を聞きソロソロと顔を上げると
「…嘘だろ?」
あれだけひしめき合っていた蜘蛛が一匹残らず姿を消していた。
「…お前、相変わらずえげつないな。」
ソディリカが半ば呆然と呟く。
「あら。今回は単純に相性の問題だと思いますわよ?」
ルクシアナは澄ました顔でそう言う。
「ああ、そう…」
ソディリカはそれ以上何も言う気が起こらず、ガックリと肩を落とす。
「気に病む事は欠片もありませんわよ。」
この言葉にソディリカはルクシアナの顔を見つめる。
「今、言いましたでしょう?ここの魔物と私がたまたま相性が良かっただけですわ。」
ルクシアナは苦笑している。
「あの魔物は物理攻撃は余り効果が無いようですわ。だからミナティ様はサラマンディアの助言を受け、私をここへ派遣なさったのですもの。」
「………」
サラマンディアは別件で不在だった筈では?と思ったら、先程神殿に戻って来たらしい。
「さあ。色々思う所はあるでしょうが、こんな所に長居は不要ですわ。一刻も早く戻って、報告と今後の対策を考えましょう。」
「…そうだな。」
こうして第一回ディレノス領の洞窟調査は終了した。