勇者・聖女を考察する
「あ〜、もう!マジか〜!!」
私は心の底から叫んだ。ただでさえこの世界に勇者だの聖女だのは不要なのに、どっか(エスターシェン)の馬鹿が召喚儀式を行っただと?しかも最近流行り?の下衆勇者&俗物聖女ときた。いや、実際に会った訳じゃ無いから確証は無いけれど。話しを聞く限り黒だよ、真っ黒だ!
「はあ…」
思わず溜め息が溢れる。どうせ送って来るならせめて真っ当な勇者・聖女を送って欲しいもんだ。
私はこれから起こるであろう面倒事を思い起こして頭が痛い。
本当、どうしてこうなった?
「ミナティ様…?」
私の様子に女神様たちは戸惑っている。いかんいかん。
「あ、ごめんね。」
私は慌てて笑顔になる。
「ちょっと、これから起こるだろう面倒事を考えて悩ましいだけだから。」
私がそう言うなり女神様たちの顔が曇る。
「それは…どういう事でしょうか?」
リブラが尋ねる。
「う〜ん…、どう説明したものかなぁ…」
私はどう説明したものか悩む。だってこの世界、ゲームのような仕様では無いから、ストレートにそう説明して理解出来るかな?
私の予想では、異世界から召喚された勇者・聖女は選ばれた存在だと有頂天になっている筈だ。まあそこはある意味事実だから別に良い。
次に当然ながら奴らは例えば魔王討伐を想定して、ワクワク冒険を楽しみにしていると思われる。
しかし、この世界にはそんなものは存在しない。いずれ湧いて出てくる可能性はあるが、今現在はダンジョン(仮)が出現しただけである。魔物が跋扈しているという事も無ければ、人々が魔物に襲われたという事(私たち以外)も今の所無いのだ。
更にこの世界はゲームとしての素地は無い。魔法はあれどスキルというものは無いのだ。HP・MPというステータスというものの概念も、冒険者やギルドなんていうのも存在しない。これは私自身王都で見掛けた事は無いし、セーラちゃんもそんな物は存在しないと断言していたし、そもそも私は一切想定していない。
となると、だ。奴らにとってこんなつまらない事は無いだろう。
華々しく悪を討ち倒し、この世界の英雄になって地位も異性も思いのまま!という事も当然無い。
恐らく奴らはその辺の事情を聞いて不満を爆発させ不遜な態度になっているのでは無いか?
私が何とかそう説明すると、リブラたちは渋い顔になる。
「そうしますと、召喚された勇者・聖女は“げーむ”なるものとは異なるという所に不満を持っていると?」
「多分、だけどね。」
私は溜め息を吐く。はあ、もう!一体誰だ?人の作った世界を滅茶苦茶にしやがった奴は!?
「私の世界にね、勇者や聖女が異世界召喚されて悪を討ち滅ぼす、っていう物語が沢山あるんだ。」
「まあ。」
女神様たちは目を瞠る。
「大雑把に言うとそういう物語は大抵、魔物や魔王なんかの脅威に怯えて暮らし、世界を救ってくれって頼まれるの。」
私は女神様たちを見回す。皆、驚いた表情だ。
「で、勇者・聖女はまずは強くなる為に冒険をするんだけど…」
「まずそこの素地が無い、という事ですか。」
テルフィラが納得した、という表情になる。
「そう。まずそこに肩透かしを食ったんだと思う。」
「………」
皆さん、呆れ顔でいらっしゃる。
「まあ、そこはダンジョン(仮)があるからひとまずはいいとして…」
私は溜め息が出る。本当、何だってこんな面倒な事になっているんだか?
「その後の巨悪の討伐が無いんだよね。」
「それならば問題無いのでは?」
ルクシアナが首を傾げる。
「それじゃあ、満足しないんだよ。」
私はどう説明したものか頭を悩ませる。
「ゲームはラスボスを倒してクリアなの。だから、ただただ漫然とダンジョン(仮)攻略だけでは直ぐに飽きるんじゃない?」
「………」
女神様たちは呆れ果てた表情だ。真っ当な勇者・聖女ならばそれでも腐らずに使命を全うしてくれるだろうが、今回召喚された奴らは残念ながらそういうタイプでは無さそうだ。余り期待しない方が良いだろう。
そうして奴らの不満が溜まりに溜まれば、この世界の女神様たちや創造神たる自分にそれが向いてくる事は想像に固くない。
そうなった時の面倒臭さに今から頭を抱える私だった。