女神様たちの会合2
「次にその洞窟のようなものをミナティ様とセーラ嬢は“ダンジョン”と呼んでいたそうだ。」
「ダンジョン?」
女神たちは首を傾げる。
「他の創作物でよくあるそうだ。要は魔物が棲息する場所で、大体冒険者と呼ばれる者たちが探索・攻略していくものらしい。魔物を討伐し、アイテムや経験値の獲得が目的だという事だ。」
「…そんなものが本当に存在するのですか?」
ポレーナがそう問うと
「あの方の世界で“げーむ”なる遊戯や小説など空想の世界でのみ存在するものだそうだ。」
「なる程。」
ポレーナは一応納得したようだ。
「けれど…何故そんなものがこの世界に?」
リブラが首を傾げる。正直、それが一番理解出来ない現象なのだ。
そもそもこの世界は創造神たるミナティこと高木美奈子が創作した世界である。その美奈子は決して闘争的な性格をしていない。むしろ飄々とした性格で、争いを好まない。というより面倒なので回避したいという感じだ。
まあ、だからと言って“げーむ”なる遊戯で戦闘物を好まないとは限らないが、これまでの彼女の言動を見る限り、少なくともこの世界にそういった要素は組み込んでいない。現に彼女は自分の身に覚えのない現象に出会す度に“私のほのぼのを返せ!”といった言葉を口にしている。
「まあ何にせよ、これは明確な侵略行為と見てよいだろう。」
サラマンディアの言葉に、皆表情が引き締まる。
「でもさ。そのダンジョンって、そこだけなの?」
ソランツァが問いかける。
「現在、分かっているのはモルト領のそこだけだ。しかしソランツァの懸念通り、それ一つだけとは思えない。故に現在、我が神殿の神官たちが各地で調査を行っている。」
「…それ、すっごく大変だよね……」
フィーンがげんなりした表情で言うと
「ああ。しかし、幸いな事にミナティ様のご友人である転生者たちが協力を申し出てくれた。各々の領地の調査を請け負って頂ける事になったのだ。」
「あ、そうなんだ!」
ソランツァが明るい表情になる。
「で、それで他に見つかったらどうやってサラマンディアたちに知らせるの?」
アーティアが興味津々で尋ねる。
「以前、ミナティ様が転生者たちにお互い連絡を取り合えるアイテムを渡していた。確か“すまほ”、とか仰っていたな。転生者たちはそれで理解して、凄く喜んでいたぞ。」
「“すまほ”?」
フレイジアが首を傾げる。
「ミナティ様が持っておられる“たぶれっと”の小型版だと仰っておられた。あちらの世界ではごく普通に普及している連絡アイテムだそうだ。因みに“すまほ”には“たぶれっと”には無い通話機能が搭載されているらしい。」
「何それ!?私も欲しい!!」
フィーンは大興奮だ。何だかんだで新しい物が好きなのである。
「心配するな。いずれ我々にも持たせて頂けると仰っておられた。」
「やったーーー!!ミナティ様大好きーーー!!」
フィーンの喜びように周囲は若干引き気味であったのは余談である。
「でた。ダンジョンと思しきものが発見された際は、まず我々が調査に入る。」
サラマンディアがそう述べる。
「異議はありません。しかし、貴女たちが立ち入っていない所や誰もいない場所はどうします?不用意に人が入り込んでしまったら、どんなに被害が出るか分かりませんよ?」
ベレンガリアが問う。
「その入口に見張りを立てよう。そして協力して頂ける転生者たちの護衛も増やした方が良いかも知れないな。」
「そんなに人を割いて大丈夫ですの?」
ベレンガリアが心配げに述べる。
「やむを得まい。幸い我が神殿は多く各地にほぼ満遍なく広がっている。それに伴い神官も多いから直ぐにどうこうはなるまいよ。それに、この手の事は初動が重要だ。ここで手を抜いて後々取り返しのつかぬ事になってしまっては本末転倒だ。」
「………」
それは確かにその通りだ。
「それに、何も我々だけで動く訳では無い。各地の騎士団にも適宜協力を仰ぐつもりだ。」
確かにそれが堅実な手段だろう。
「では、これにて私の報告は終わりだ。また何か進展があれば随時報告する。」
これにて女神たちの会合はお開きとなった。
この後、幾つものダンジョンらしき場所が発見され、事態は大きく、しかし緩やかに動き出して行く。