洞窟(ダンジョン)の謎
「ふう。」
取り敢えずモルト邸まで戻り一息つく。
「いやぁ~、怖かった〜」
私は本気の本気でそう呟いた。
「怖かったけど、ちょっと楽しかった。」
おいおいセーラちゃん?私と貴女、冗談抜きで死にかけたんだけど?ちょいとばかし不謹慎じゃないかい?ていうか…私ってこっちで生活している訳じゃないし、そもそも創造神だし。死ぬって事あるのかな?
まあそれはそうと…あのダンジョンと思しき奇妙な洞窟は何なんだ?
サラマンディアも全く前例が無いとかで、今はモルト領の騎士団と合同で調査に入っているけど…
セーラちゃんの話しでは約一月前に突如として現れた、どう考えても自然に出来たものじゃない。
当然私が設置したものでは無い。私があんな魔物と思しき獣を配置したりなんか絶対にしない。
私が作るなら洞窟の奥に神秘の泉があって癒やしと憩いを与える場とかにしているよ。間違ってもあんな命が危険に晒されるダンジョンなんかにはしないから!
「お疲れ様でございました。ミ……ナミ様。」
私達がソファで呆然としている所にエレーヌお姉様がお茶とお菓子を持って来てくれた。
「ありがとうございます。」
「いいえ。」
エレーヌお姉様はにこやかにお茶を淹れてくれる。これもローズヒップティーだ。う〜ん、美味しい!お茶受けのお菓子も甘さ控えめで最高!
「それは良うございました。」
エレーヌお姉様はニコニコ顔だ。
「だけど…本当にあの洞窟は何なんだろうね?」
私は首を傾げる。
「何か…ダンジョンみたいだったよね!」
心なしかセーラちゃんは興奮気味なご様子。というか、あれはもうダンジョンだと断定しても良さそうだけどね。
「セーラ。ダンジョンとは何なの?」
静かなエレーヌお姉様の問い掛け。私とセーラちゃんはハッとして口を押さえたが、もう遅い。
あの後、私とセーラちゃんは必死にダンジョンの説明をする羽目になった。
と言っても私が上手く説明出来る訳が無い。ゲームってあんまりやらないから、ダンジョンというものは知っている。じゃあどういうものなのか説明しろと言われたら言葉のセレクトにまず迷う。
そもそも私の認識のダンジョンって、魔物が棲息していて冒険者やゲームのキャラが入って魔物を倒したりアイテムを入手する、くらいのものだよ?そんな貧弱な知識・認識しかない私が、ダンジョンという概念を持たない相手に上手く説明出来っこないっしょ?
という訳で、主にセーラちゃんに説明して貰うことに。彼女、冒険物が大好物だったから目を輝かせてお姉様に説明してくれたよ。
「なる程。」
セーラちゃんの説明でお姉様は一応納得してくれた様子。ああ、良かった。
「要するにダンジョンというものは魔物が多数棲息している危険な場所、という事で良いかしら?」
「はい。」
流石のセーラちゃんも冒険者が〜、とかアイテムが〜とかいう辺りは説明が難しかったらしく端折っていたので、この辺りの理解に落ち着いた。かなり大雑把で曖昧だが別に間違ってる訳じゃないからいいよね?
「本当にダンジョンかどうかは兎も角、存在自体はそれっぽいよね。」
だってさ。何も無い土の壁にたった一日、てか一晩で現れたとか、どう考えたって普通じゃない。
しかも妙に整備された階段はあるし、更にはたった一日であんな数の獣の群れが棲み着くというのも不自然極まりない。
しかも洞窟の奥にだよ?洞窟の入り口から階段があった場所までは体感で二十分は歩いたと思う。
まあ地下二階?に降りてわりと直ぐにあの獣に遭遇したから何処まで深いのかは分からないけど。でもあの洞窟、かなり大きいよね?
それに今にして思えば、階段を降りた後の壁面や地面は妙に手入れされている風だった。洞窟を入って直ぐはゴツゴツした岩肌で洞窟そのものだったけど、階段を降りた途端に何というか…古いトンネルくらいには“人”の手が入っているように感じた。
その後直ぐに獣に襲われ、確認するどころじゃ無かったけれど。
しかし悪役令嬢といい、ダンジョン(仮)といい…
本当、どうなってんの?
やっぱりロザリーちゃんたちが言うように私は世界の分岐点で道を決める役目なのかなぁ?
もう何が何だか分かんないや。
何かその内、いつの間にか勇者や聖女、魔王なんかが湧いて出てきそう。
そんな事を思いつつ、私はダンジョン(仮)の不思議をセーラちゃんやお姉様と語り合うのだった。