サラマンディアの勇姿
「サラマンディア…」
私はポカンと突然現れたサラマンディアを見つめる。
「武芸の女神サラマンディア、創造神ミナティ様のお呼びを受け罷り越しました。」
へ?お呼び?私、いつそんな事した?
「ミナティ様は、私めに助けて、と申されましたよ。」
とサラマンディアは苦笑する。
あ…、そういう事。そういえばそんな事を呟いたっけ?
「はい。…しかし」
サラマンディアは周囲を見回し顔を顰める。
「これは…」
え?何?何かヤバかった?
「少々被害が大き過ぎますね。」
サラマンディアは私に跪き
「ミナティ様、申し訳ありません。ヨーティアを呼んで頂けますか?」
「え?うん、構わないけど…どうやって?」
私は首を傾げる。そもそも私、どうやってサラマンディアを呼んだ?
「名を呼び、来いと命ずれば女神は御前に。」
非常に簡潔なサラマンディアの説明だ。
「ヨーティア、お願い!ここへ来て!!」
そう叫ぶと、またもや周囲は眩く輝き
「お呼びでございますか、ミナティ様?」
そこにヨーティアが現れた。
「おお、ヨーティア!待っていたぞ!」
私が反応するよりも早く、サラマンディアが歓びの声を上げる。
「あら。私はミナティ様がお呼びでしたので、ここまで来たのですよ?」
ヨーティアは澄まし顔で答える。
「まあ良いではないか。ところでヨーティア。」
「ええ、分かっております。」
と、スタスタと負傷者の元へと歩いて行く。
「うむ、助かる。」
サラマンディアは私の方へ向き直り
「ミナティ様。直ぐに片をつけます故、しばしお待ち下さい。」
と恭しく述べる。
「あ、分かった。気をつけて。」
私は目まぐるしい状況の推移にポカンとしながらなんとか返事する。
「有難きお言葉。では。」
そう言ってサラマンディアは従神二柱を連れ、獣に向かって行く。
「うわぁ~、凄い…」
分かっていた。サラマンディアは武芸の女神なのだからとっても強いんだろうとは。しかし…
「何か…反則級じゃない?」
何と、騎士団があれだけ苦戦していた獣を彼女と従神二柱だけで実にあっさり蹴散らしている。
「それは武芸の女神様でございますから。」
クスクス笑いながら私たちの護衛をしてくれている弓の女神アローラが弓で獣を牽制しながら教えてくれる。
「まあ、そうなんだけど。」
「それにソディリカも随分張り切っておりますわ。」
ソディリカとは今戦っている剣の女神様の事らしい。狩猟の女神ハーミアも負けじと獣を蹴散らしながら教えてくれた。
「あ!ウォリージアが行った!」
ウォリージアとは戦いの女神様なんだって。
これは勝利の女神ニア。…よく考えたらこの場の神様率、やたらと高いな。
ふと横を見るとセーラちゃんとその護衛、サリーさんとフェリスさんはあんぐりと口を開いたまま固まっていた。…三人とも、スマン……
「さあ、これでよろしいですよ。」
ヨーティアが一通り負傷者の手当を終えたらしい。騎士たちの感謝の視線を受けながら私の元へ戻って来た。
「お疲れ様、ヨーティア。来てくれてありがとう。」
私がヨーティアの労をねぎらうと
「勿体無きお言葉。これは私めの使命にございます。」
と頭を垂れる。
「でも、ありがとう。」
重ねてそう言うと
「有難きお言葉でございます。」
とヨーティアは何処か嬉しそうに微笑む。
「ふう。」
サラマンディアが一息つく。…いつの間にかこの洞窟を埋め尽くさんばかりにひしめいていた獣は、サラマンディアと二柱の従神によって一匹残らず駆逐されていた。
「凄い、凄いよ!サラマンディア、ありがとう!」
「勿体無きお言葉。これは私の努め故。」
そう言うサラマンディアも何処か嬉しげだ。
「ありがとう、えっと…ソディ…」
私が必死に思い出そうと頭を捻っていると
「ソディリカでございます。」
ソディリカは苦笑混じりで応える。
「あ!そうそう。ソディリカ、ありがとう。それから…」
ヤベ!もう一柱の名前も出て来ない!何だっけ?ウォリ、ウォルー…?
「ウォリージアでございます。」
ウォリージアも苦笑いしている。う!ゴメンね。何か皆似たりよったりの名前だから、時々分からなくなるんだ…
「それにしても…」
駆逐を終えた洞窟内をサラマンディアは見回し
「このような洞窟は前例が無い。調査をする必要があるだろう。」
サラマンディアは私に向き直り
「この洞窟の調査を致したく存じます。ミナティ様、よろしいか?」
畏まって許可を請う。
「私は構わないよ。でもここの領主様に一言断っておいた方がいいんじゃない?」
「あ、それは大丈夫。女神様のなさる事に一々口を挟まないから。まあ、結果を教えて貰えると助かるけど。」
セーラちゃんがそう言うと
「勿論だ。調査の間はモルト領の騎士団の力を借りる事もあろう。では、こちらの領主殿に断りを入れ、早速調査にあたろう。」
「よろしくお願いいたします。」
セーラちゃんが頭を下げる。
「そっか。くれぐれも気をつけてね、サラマンディア。」
「有難きお言葉。しかと胸に。」
こうして、この世界で最初のダンジョン探索は幕を下ろした。