モルト領へやって来ました!
「うわぁ~、綺麗だね〜!」
私は感嘆の声を上げる。
私はセーラちゃんに誘われ、彼女の家の領地へやって来ました!
セーラちゃんのお家のモルト伯爵領は、王都から馬車で約二日かかる所にある、薔薇が名産という所だそう。その為か、馬車の窓から見える景色は色とりどりで非常に華やかだ。
さて、私が何日も続けてこの世界にいられるのか?という問題に関しては、その日の夕方に随所に存在する創造神の神殿に寄り、翌朝その神殿に降り立つという事で一応の解決をみた。
だったら最初からその手を使えば良かったんじゃ?という疑問に対してはそもそも描写が不足していたから、どの道神殿の外には出られなかった…と答えておこう。
なので、この旅?に同行する女神様はモルト領で祀られている女神様という事に。
因みにモルト領で主に祀られている女神様は創造神を除いて大地の女神テルフィラと花の女神フィオレーナ。
…フィオレーナは初めましての女神様なんだけど…
尚、薔薇の女神とかいうのは存在しないらしい。そこまで細かい分類になると、精霊の括りとなり精霊王が最上位かつ女神よりワンランク下の存在となるそうな。けど、武芸の類。剣とか弓とか槍とか。こちらは各々神様として存在するんだって。
尤もその相違はほぼ無く、一般的には精霊王も神として扱われる事も珍しく無いんだってさ。
だったらもう神にしちゃえばいいのに…と、不肖な創造神はこっそり思うのだった。
「美奈子ちゃん、着いたよ〜」
セーラちゃんに促され馬車を降りると、これまた瀟洒なお屋敷の前に馬車は停まっていた。
「うわぁ~、凄〜い!可愛〜い!」
これまで何度か貴族のお屋敷を見てきたけど、何度見ても溜め息が出ちゃうね。
「うふふ、気に入ってくれて嬉しいわ。さ、どうぞ。」
セーラちゃんに促され、お屋敷へ入って行くとセーラちゃんそっくりのお嬢様二人にお出迎えされた。
「ようこそおいで下さいました。ミナ…ナミ様。」
この二人、私の正体を知っているみたいだね。
「あ、えっと。こんにちは、お邪魔します。」
ここでも見事なカーテシーを披露され、私は慌てて声を掛ける。
「まあ!何と勿体ないお言葉!邪魔など滅相もございません!」
あ、これは失敗したか?と内心慌てたが
「姉様。これはそういう挨拶なのよ。」
セーラちゃんは苦笑いで説明してくれる。
「まあ、そうでしたの?失礼致しました。」
いやいや、こちらこそごめんなさい。
言われてみれば、お邪魔しますって日本独特の挨拶表現なんだね。何気なく使っちゃったけど、ここは日本とは全くの別世界。自分が作った世界だからか、どうにも忘れがちになるんだよね。今度から気をつけよう。
「どうぞ、召し上がって下さいませ。」
あれから皆でお茶を飲むことになった四人。長姉のエレーヌが手ずから淹れてくれたお茶を一口。
「あ!美味しい!」
私がそう呟くと、嬉しそうに微笑むエレーヌ嬢。
この地で飲まれるお茶は、いわゆるローズヒップティー。流石薔薇の名産地だけの事はあります。とても美味しいです。私、今までローズヒップティーなんてインスタントでしか飲んだ事が無かったけど、全くの別物だった。
「ナミ様、こちらもお召し上がり下さいませ。」
と勧められたのは、どうやらクッキーのようだ。
「ん、美味しい!」
ごく普通のバタークッキーだが、素朴な味が何処か懐かしい味である。
お貴族様でもこんな素朴なお菓子を食べるんだね?
そう思っていると
「うふふ、それは昨日、セーラが焼いたものですわ。」
次姉のクレールが笑いながら教えてくれた。
「え?桃、セーラちゃんが?」
私は目を瞠った。伯爵令嬢で忙しい筈のセーラちゃんが、わざわざ私の為にクッキーを焼いてくれたなんて…
するとセーラちゃんははにかみながらコクンと頷いた。
私は、嬉しくて胸がジーンとした。
「ところでセーラちゃん。私に見て欲しいものがあるって言っていたよね?」
楽しくお茶を飲み一通り談笑を交わした後、私は切り出す。
「うん。」
そう言ってセーラちゃんはお姉さんたちの顔をチラッと見る。姉二人が頷くのを確認して
「実はね。今から一月程前に、このモルト領に不可解な物が現れたのよ。」
「不可解な物?」
「そう。これはここであれこれ説明するより、実際に見てもらった方が早いと思う。」
「ふ〜ん、そっかぁ〜。じゃあ、今から見に行くの?」
「大丈夫?疲れてない?」
「ここから遠いの?」
「う〜ん、ちょっと遠いかな?」
「じゃあ、明日にする?」
「そうね。その方がいいかも。」
という訳で、それは明日確認する事になった。
「桃恵ちゃん、ここ?」
私はそれを見て、口をあんぐりと開けたままポカンとする。だって、これは……
モルト領に着いた翌日、私とセーラちゃん、それからセーラちゃんの護衛であるサラマンディア神殿の神官、サリーとフェリスが同行している。
さて。私はどうやって一晩過ごしたかというと、お貴族様の屋敷には大抵私設礼拝所があるらしい。そこを借りたのだ。
で、セーラちゃんの案内でやって来た場所は森の中だった。
そして歩く事数分。それは突如姿を現した。
「…これは、洞窟?」
それは一見何の変哲も無い洞窟であった。しかし…
“? 何か嫌〜な空気が身体に纏わりついてくる…?”
この感じ。何か、何処かで同じような事があったような…?しかし、何処でだったか分からない。
「見てもらいたかったのって…これ?」
私は洞窟を指差しセーラちゃんに確認すると、セーラちゃんは頷く。
「見た所、ただの洞窟みたいだけど?」
私は首を捻る。これが一体どうした?
「この洞窟、一月程前にいきなり現れたの。」
「…へ?」
洞窟がいきなり現れた?
「それまでここにはただの斜面、土の壁しか無かったのよ。」
「………」
何じゃそりゃ?
「…えっと。一応聞くけど、これを私に見せて何をお望みですか?」
「美奈子ちゃん、心当たり、無いの?」
セーラちゃんも呆然とした表情だ。
「…無いよ。そもそも私は今現在、ポーラ村と王都、それから魔法使いの森しか描写してないし。モルト領の事は桃恵ちゃんに聞いた事以外何も書いてない。」
「………」
「………」
私とセーラちゃんは無言で見つめ合う。
「え〜っと…これは……」
これは、まさか…ねぇ………