セーラちゃん、復学する
「セーラ様!お久しぶりですわ!」
本日、セーラ=モルト伯爵令嬢がマグノリア学園に復学する。
その話しを聞き付けた友人たちが、長い静養を終えて復学するセーラの到着を今か今かと待ち侘びていたのだ。
「お久しぶりですわ、皆様。」
セーラはにこやかに応じている。
「良かったですわ、セーラ様。」
「ありがとう、皆様。」
セーラはあの日、またこうやって学園に戻って来る事が出来るなんて夢にも思わなかった。
「セーラ=モルト伯爵令嬢!今日を限りに貴様との婚約を破棄し、このドロシー=ウィルソン男爵令嬢と婚約する!異論は認めん!!」
突然突き付けられた婚約破棄。しかしセーラは非常に冷静だった。だって、これは事前に分かっていた事だったから。
「は?何を言っておられますの?ロベルト=リーガル公爵令息様?」
ポカンとする振りをするセーラに対し
「貴様!俺の言葉が理解出来ぬ程に愚か者なのか?」
全く取り乱した様子の無いセーラに更に苛立つロベルト。
「全く分かりませんわね。」
セーラは肩を竦めて言う。
「何?」
セーラの態度にロベルトは熱り立つ。
「リーガル公爵令息様。この婚約は一体誰が取り纏められたものか、覚えておられますか?」
セーラは溜め息を吐きながら問う。
「も、勿論だ!」
「でしたら、その御方は今回貴方が私との婚約破棄を希望している旨、承知されているのでしょうか?」
「…と、当然だ!」
「左様でございますか。ならば、改めて確認と報告に参りましょう。ではお二人とも。どうぞ、ご一緒にいらして下さいませ。」
そう言ってセーラはクルリと背を向ける。
「お、おい待て!何処へ行くつもりだ?」
「はい?今、申し上げましたわ?私と貴方の婚約を取り纏められた方に、私との破棄とその方と新たに婚約を結ばれた旨の報告に参るのですわ?」
「な!今、ここにいる訳が…!?」
「何を寝惚けてらっしゃいますの?今から伺うのは学園長室ですわ。」
「が、学園長室?何故だ!?」
ロベルトは大慌てだ。
「何故って…。ですから、私と貴方の婚約は学園長…婚約締結当時は女性陛下でいらしたレイシー=ブリュン公爵のご下命での婚約だからですわ?」
「………」
ロベルトとドロシーは抱き合ったまま固まる。
「さ、参りましょう。貴方が仰るには学園長は既にこの事を了承なさっているとの事をですので、問題は無い筈ですわ?」
「お、お忙しい学園長の時間をわざわざ割いて頂く訳にはいかない!確認は後で俺が…」
その時、
「おや。貴方が後で何の確認をすると…?」
氷より冷たい口調が響いた。
「が、学園長…」
ロベルトとドロシーは哀れな程ガクガク震えている。
「これは一体何の騒ぎですか?」
レイシーはジロリと周囲を見回す。
「ロベルト=リーガル公爵令息、ドロシー=ウィルソン男爵令嬢。お二人に聞きたい古都があります。私に付いてきなさい。それからセーラ=モルト伯爵令嬢。ご足労ですが、ご同行願ってもよろしいでしょうか?」
「畏まりました。」
その後、学園長室で厳しい聞き取りが行われ、馬鹿二人はどこぞへと連行されて行った。
「あんな事がありましたのに、戻って来て頂けてとても嬉しいですわ!」
学園で一番仲良しのヴィオレット=レイクス子爵令嬢は本当に嬉しそうに言う。
「そうですわ。」
同意するのはナタリー=クレアモン伯爵令嬢。
「この間ハルモニア様やソニア様、アンジェラ様、カトレア様、フローレ様にロザリー様、シンシア様、マリーゼ様の八人の方が復学なさいましたもの。これを期に休学された方々が戻って来て下さるとよろしいですわね。」
とは、エメリア=ドーリッチ伯爵令嬢。
「そうですわね。」
セーラはすっかりがら空きになった教室を眺めて相槌を打ち、これからどうするべきか考えを巡らせる。