マリーゼ様のお母様
「いらっしゃいませ、ミナティ様。」
今日も小説世界に入って来た私は、いつものように女神様たちのお出迎えを受ける。
「こんにちは。」
本日出迎えてくれた女神様はヨーティアと後のお二方は初めましてである。
「初めまして、ミナティ様。私は水の女神アクアフィーナと申します。」
うおぅ!これまたザ・水の女神様なお方です事!水色の髪は美しい光沢を持ち、光が煌めく水面を思わせる。瞳は青、というか藍色?何と言うかラピスラズリみたいな色合いに見える。そしてもうお一方は
「初めまして。私は音楽の女神アルペジアよ。」
これまた個性的な女神様だ。淡いピンクの髪は軽やかにウェーブがかかり、実に独創的な髪型に結い上げている。紫の瞳は優しく煌めき、衣装も非常に華やかだ。胸元から段々色合いが濃くなっていくグラデーションなんて配色なのに、不思議と五月蝿く感じない。
言っちゃあ何だけど、見た目だけならアーティアよりも芸術の女神っぽい。
それにしてもフレイジア辺りから、やけに個性的な見た目の女神様が出てくるようになったよね?
この個性の差はやっぱりあれか?この前ソランツァが言っていた神官から女神に昇格する時に、外見をいじった女神様とそうではない女神様との差なのかな?
この前ヨーティアは一目で何の女神か判別されるのは非常に名誉だと言っていたよね?だったら何で全員が、その時に一目で分かるように外見を調整しなかったんだろうね?
「美奈子!」
そんな事を考えていたらロザリーちゃんとシンシアちゃんがやって来た。今日はフローレ様とマリーゼ様も一緒である。
「いらっしゃい、沙織にあーちゃん。それから弥生ちゃんに桜ちゃん。」
「ごきげんよう、ミナティ様。」
そう言って四人は一斉にカーテシー。…この前より二人少ないけど、やっぱり美少女が並んで取る優雅な淑女の礼は圧巻だ。しかも四人ともそれぞれ色合いが違うから、見た目にも非常に華やかである。
けど、やっぱり私には必要無いと思うんだけどな。
「それで、今日は何の用?」
言い方は冷たく感じるけど決してそんな事は無い。
「あのね。もう一人美奈子に紹介したい人がいるんだ。」
ロザリーちゃんの言葉にピンときた。
「え?また見つけたの?」
私は驚いた顔で尋ねる。
「うん、そうなの。」
ロザリーちゃんたちはニコニコしている。という事は、彼女たちとも知り合いなのかな?
「へぇ、誰?」
私は興味半分、不安半分で尋ねると
「セーラ=モルト伯爵令嬢よ。」
ロザリーちゃんが茶目っ気たっぷりな笑顔で答えてくれる。
「んで、中身は?」
私はドキドキしながら尋ねる。
「ふふふ。それは、会ってからのお楽しみ。」
フローレ様がパチンとウインクしてくる。そんな仕草も超絶美少女がやると様になるのね。
そして連れてこられたのはマリーゼ様のお屋敷、オルゴット伯爵邸だ。
「ようこそお越しくださいました、創造神様。」
オルゴット邸に到着し、馬車を降りるとマリーゼ様と同じ髪色の女性が声を掛けてきた。
「オルゴット伯爵夫人シェフレラ=アルヴィス=オルゴットでございます。」
つまり、この方がマリーゼ様のお母様って事か。
「あ、こ、こんにちは。」
私はそう挨拶を返したが、あれ?この場合って“ごきげんよう”の方が良かったかな?
「では、ご案内致しますわ。」
と、シェフレラ様は両脇にズラ〜〜っと並んだ侍女のトンネルを優雅に通り抜ける。
「じゃ、行きましょう。」
マリーゼ様に促され、お母様の後を追っていく。
「こちらでございますわ。」
と、にこやかにシェフレラ様は目の前の扉を手で指し示す。
「ありがとうございました。」
私は案内してくれた礼を述べる。正直、案内って伯爵夫人のやる事じゃないように思えるんだけど。
「お気にならさらいで下さいませ。」
シェフレラ様はコロコロと笑う。
「お姉様にからくれぐれも無礼の無いようにと申し付けられとおりますし、このお屋敷に創造神様をお迎えし案内出来るとはこれ以上名誉な事は有り得ません。」
「…そうなんだ。」
取り敢えず、私は納得した。
「お母様、案内をありがとう。後は私がやるから、お母様はお部屋に戻って下さいませ。」
マリーゼは母親を追い出す作戦に出た。
「あらあら。リーゼは冷たいのね。私だけ追い出されたら悲しいわ…」
と、泣き真似をする。
「そんなしおらしい顔をしたって、駄目なものは駄目なんです。」
とマリーゼはバッサリと母を切り捨てる。
「あらあら。私はお姉様からリーゼたちの力になってやれ!って強く言われているのよ?」
「………」
という事は、このシェフレラ様もこちらの事情を知っている事になるのかな?
「弥生ちゃん。ご一緒して貰おうよ。」
私の言葉にマリーゼ様は目を剥く。
「え?」
「シェフレラ様は多分、こっちの事情を知っているよ?」
「え、そうなの?」
「シェフレラ様は女王様から弥生ちゃんたちの力になれって頼まれたんでしょう?だったらその時に話しを聞いていると思うし。」
「………」
言われてみればその通りだ。
「だったら、一緒に話を聞いて貰っても大丈夫だと思うけど。」
私の言葉に、マリーゼ様は大きな溜め息を吐いた。
「分かったわ。お母様、ご一緒どうぞ。」
「ありがとう、リーゼ。」
こうしてマリーゼ主催のお茶会に急遽その母親が飛び入り参加する事になった。