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現実は世知辛い

 さて、またもや小説の世界から現実世界に戻って来た私。今の今までギリシャ神話風の世界に浸っていたのに、次の瞬間には見慣れた自室の天井を見つめるというのは中々衝撃的だ。まあ、二度目だから前回よりは頭の切り替えは早かったけど。

 このまま小説の続きを書きたい所だが、如何せん本日は出勤日だ。生活資金を稼ぐために職場に行かねばならない。ああ、億劫だ…



「高木さん、ちょっと。」

 昨夜の出来事から精神が現実に戻り切っていなかった私はボンヤリしていたらしく、作業中にちょこちょこミスをやらかしかけては注意を受けていた。そんな私を見咎めたのか、チームリーダーの吉井美香さんに呼び出しを受けた。

「はい。」

 私は内心戦々恐々としながら吉井さんに付いて行く。

「高木さん。あなた、何処か具合が悪いの?」

 吉井さんはそう切り出してきた。

「…いえ。そういう訳では…」 

 私はモゴモゴとそう答える。

「じゃあ一体どうしたの?今日はずっとボンヤリして。何かあったの?」

 吉井さんはそう矢継ぎ早に詰め寄ってくる。

「………」

 吉井さんのこういう所が苦手なんだ。何というかこう、矢継ぎ早に根掘り葉掘り詮索されるというのがさ。まあ別に吉井さんに限った事じゃないけど。昔、私をイジメていた奴が丁度こんな感じの奴でさ…本能的にどうしても受け付けないんだよね。

「ねえ、どうなの?」

 吉井さんは苛立ってきたみたい。段々語尾が強くなっていく。

「すみません。嫌な夢を見たせいで気が漫ろになってしまったみたいです。」

 別に嘘ではない。嫌な夢かどうかは兎も角ね。

「………」

 吉井さんは唖然としている。そんな事で注意が散漫していたのか?と言わんばかりの表情だ。

 吉井さんは、はあっ!っと大袈裟な溜め息を吐くと

「高木さん。そんなプライベートな事情を職場に持ち込まないで!皆に迷惑が掛かるでしょう?」

 目を吊り上げて叱責される。

「すみません…」

 私はこう言う以外に無い。私だってそんなつもりは無かったんだけど。確かにプライベートを持ち込んだのは悪かった。

「もういいわ。仕事は真面目にやって頂戴!」

 そう言って吉井さんは私に背を向ける。

「………」

 私は頭を下げ、持ち場に戻って行った。


   ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そんなヘマをやりつつどうにか本日の仕事を終え工場を出た私は、お気に入りのカフェに入り一息つく。

「はあ~」

 ここのキャラメルラテは美味しいんだ。キャラメルラテを一口飲むと、その甘さにホッとする。ああ美味しい、生き返るわ~!

 何を大袈裟な、と思うだろうが万年ボッチには大袈裟でも何でもない。冗談抜きで人中に身を置くのは苦痛なのである。仕事だから我慢しているだけなのだ。

「さて、と。」

 私はスマホを取り出し、早速話しの続きを書き始める。

「う~ん、どうしよっかな~?」

 何はともあれ描写を進めなければ何も始まらない。という事で、まずは王都を考えてみますか。ポーラ村でもいいんだけど、今の私は王都の総合神殿にしか行けないようなので、取り敢えず近場だけでも移動出来るようにしたい。

 そこで何から手を付けようかな?と考え、まず名前を決めようと思い至った。

「う~ん、何がいいかな~?」

 国の名前はミナティリア。都に国と同じミナティリアというのも無くはないけど、何か芸が無いな…

 因みにポーラ村のポーラというのは、最初に村の神殿に赴任した神官長の名前という事にしている。これは他の村や小さな街も同じ。ちょっと大きな都市になったらもうちょっと考えようかなと思ってるけど。

「ミナティリアは美奈子から取ったから…高木から取ってみる?」

 高木、たかぎ、高:ハイ、木:ツリー…ハイツリー?…何か、何処かのタワーみたいだな…

「う~ん、木はウッドにして…ハイウッド?」

 滅茶苦茶安直だ。余りにも安直だが…

「う~ん、もうこれでいっか!」

 面倒臭くなった私は王都の名はハイウッドに決定した。

「んじゃ、お次は…」

 “王都”なら女王様辺りかな?と考えた時、

 “あれ?って事は、貴族やら騎士やらも出さなきゃいけないんじゃ…”

 と思い至り、どうしよう…と頭を抱える。

 だってさぁ、その辺のお約束なんて良く知らないし…

 一応貴族って、公·候·伯·子·男って序列がある事は知ってるけどさ。どんな時に何の爵位になるのかとか良く分かんないよ…

 騎士なんか尚更よく分からない。どんな階級があってどういう組織図なのか…

 いよいよになればもう適当に描写していくしかないか。

 しばらくウンウン悩んだ挙げ句、ひとまず貴族や騎士は置いといて女王様だ、女王様!

 今のところ女王様は女傑だという事しか考えていない。という事で、女王様の名前をまず決めよう。

 と思った所で

「あ!時間だ!」

 私は帰りの電車待ちでカフェにいたのだ。

 慌ててトレイを返却口に置き、駅まで全力疾走だ。 








 







 





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