断罪イベントは今
「それにしても…随分と閑散としていますわね。」
ロザリーとシンシアの、教室に入った第一の感想がそれだった。
「そうですの。」
クラスメイトはそう言って溜め息を吐く。
「あれからもやはり…?」
ロザリーは何とも言えない表情になる。
ソニアが断罪被害に遭ってから凡そ半年。それ以来毎日毎日、多い日で数件断罪イベントが発生していたのだ。幾ら元々の学生数が多く留学生や庶民街から随時入って来るとはいえ、イベント一回につき四人が関わり、その後例外無く登校しなくなるのだ。この閑散とした現状は当然の帰結であろう。むしろ、よくこれまで無人にならなかったものである。
「ええ。相も変わらずですわ。」
このクラスで二人に割と接点があり、親しく話す方だったアナベル=サンキスト子爵令嬢が語る。
「ただ、流石に頻度は減りましたわね。今は数日に一件程でしょうか?」
「そうなの?」
その原因は察せられるが、ロザリーは首を傾げて尋ねる。
「この教室をご覧になって?すっかり人がまばらでしょう?」
とアナベルはぐるっと見回す。確かに教室内には十人も人がいない…
「確かに人がいないわね…」
シンシアはポツリと呟く。
「他のクラスも学年でも皆同様ですわ。今は一クラスにつき十数人いるかどうかですわね。」
「………」
あれだけ人が密集していたこの学園をここまでスッカラカンにするとは…断罪イベント、恐るべし!
「流石に学園でも大問題に発展して、学園長自ら断罪イベントの禁止を言い渡されたのですが…」
「…全く効果が無かったのね。」
シンシアは溜め息を吐く。あの馬鹿どもには最早言葉は一切通じない。ロザリーも同様なのか、渋い表情になっている。
というか学園長、対応遅すぎ!!
「よくお分かりですわね。」
アナベルは感心しながら頷く。
「まあ、具体的な動きがあったのはマリーゼ様の一件があってからですわ。」
アナベルは溜め息を吐く。
「流石にマリーゼ様の一件は事が大き過ぎましたから。」
「でしょうね。」
何と言っても王宮が出てきたのだ。よりによって女王陛下の姪を断罪するとか愚かにも程がある。
事の次第はマリーゼ本人から聞いているが、それで判断する限り相手にするのも馬鹿らしくなる程の愚か者だ。仮にも貴族でありながら女王陛下の姪を知らないとか…天と地がひっくり返っても有り得ない。
しかし、その有り得ない事が起こった。まずはそこに頭を捻る。
「それにしても、皆様がお戻りになられて嬉しいですわ。」
アナベルは本当に嬉しそうに微笑う。
「まあ、これだけ閑散としていれば…ね。」
ロザリーが呟く。実際、ここまで人がいなければ授業も成立しなくなるだろう。
「勿論、それもありますが…」
アナベルはニッコニコしている。
「?」
ロザリーとシンシアは首を傾げる。
「実はですね。現在残った“婚約者持ち”の令嬢とそのご家族、それから馬鹿…ッオホン!“真実の愛で結ばれたお二人の各ご両親”と手を組んで、対策を取っていますの。勿論、学園長も了承済みですわ。」
「は?」
それはつまり、どういう事だ?
「要するに、余りにも頻発し過ぎる断罪イベントを抑制しようと、“真実の愛で結ばれたお二人”以外の関係者が手を組み“真実の愛で結ばれたお二人”に制裁を、という訳ですわね。」
「………」
自分たちが屋敷でのんびりしている間に、学園ではそんな事になっていたのか…
「残された私たちも休学されたお友達のお見舞いに行きましたし、そこで色々とお話しを伺いましたわ。ロザリー様やシンシア様のお屋敷にも、お友達がお見舞いに来られませんでしたか?」
ニコニコとアナベルが問う。
「ええ。確かにいらしたわ。でも私、そんな事全く伺っていませんわ。」
シンシアがそう言い、ロザリーも頷く。
「それは。実際に被害に遭われ深く傷ついていらっしゃる方に、そんな無粋なお話しをお耳に入れられませんわ。」
ニコニコとアナベルに言われ、ポカンとしつつも納得する。確かに傷心している真っ最中にそんな話しは聞きたくない。
「で、実際にその餌食になった方々はいますの?」
好奇心に勝てず、ロザリーが尋ねる。
「ええ。既に何件か。」
アナベルは非常に良い笑顔だ。
ロザリーとシンシアはちょっぴり後悔した。そんな痛快で面白すぎるショーを見そびれたとは!
と、一瞬思ったが…
「お二人とも。安心なさいませ。」
アナベルはうっそりと笑って
「かなり減ったとはいえ、断罪イベントはまだまだ発生しております。恐らく数日の内にはご覧頂く事が出来ると思いますわ。」
「はあ…」
見せ物としてはかなり面白そうだが…アナベルの様子に微かな不安が過る。
「ご心配には及びません。これは因果応報なのですわ!」
アナベルの様子に何処か付いて行けないロザリーとシンシアだった。